第6話 引っ越し祝い

 包丁から大きなグリルまで、小さなレストラン並みに高品質な調理器具が揃っているキッチン。

 その設備をフルに活かし、タクミとヒナコはテキパキと楽しそうに調理し続け、料理が次々と完成していく。他の3人は邪魔をしないように思い思いにリビングで過ごす。


 そうして、二人が帰宅してから二時間後の七時が少し過ぎた頃。

 手際と道具の力で、タクミとヒナコは料理を作り終え、そのタイミングを予め予想していたサユリの連絡により、来客用の玄関に備え付けられたチャイムがなる。

 彼ら5人の新拠点には、普段から使うことを考えられた車庫から入る方の玄関と、客人やちょっとした時に外に出るときに使う、住まい側に設けられた見るからに玄関な玄関がある。



 インターホンのカメラから来訪者をスマホで確認したサユリを筆頭に、五人全員で出迎えにいく。


「こんばんは、お越しいただきありがとうございます」


「こんばんは、お招きありがとうね。はい、引っ越し祝いね」


「おう、お前ら。いい家を手に入れたな。ほい、祝だ」


 先に立つ二人の男女が、慣れ親しんだ感じでお祝いのプレゼントを渡し、サユリとタクミがそれぞれお礼を言って受け取る。


 一人は、キャリアウーマン的なできる大人の、20歳半ばから後半あたりの魅力あるきれいな女性である北原丨天音あまね。もう片方は、大きすぎずバランスが取れた高身長のたくましい肉体で、親しみやすい雰囲気を持つ男性の藤堂いつき

 北原は日本に10校しかないハンター関連の国立高等専門学校の理事兼、ハンター協会の情報管理局特別部長で、藤堂はレンヤやアイナと同じハンターで、2人よりも上の実力を持った上級ハンターだ。二人とも能力に基づいた大きな影響力を持っている。


「……想像していたのよりも更に立派だわ」


「だな……」


「ありがとうございます。頑張りました」


「さすがね」


「相変わらずすごい手腕だな。まぁ、取り敢えず元気そうでよかった。……んじゃ、さっさと紹介するか。この娘っ子が丨風香ふうかだ」


 サラサラな色の薄い茶髪が肩下まで伸び、白く透き通る肌、整った顔とあって綺麗という言葉がまんまはまる少女、風香が前の大人二人の後ろから出てくる。


「は、はじめまして。斎さんの姪の藤堂風香です。……この前は黙っていなくなってしまい、申し訳ない」


「いえ、こちらこそ、二人を助けていただいてありがとうございます」


 サユリにチラッと視線を向けられたレンヤとアイナも「ありがとうございます」とお礼を伝える。風香はいえいえと日本人らしく返し、「……こちら、引っ越し祝いに」と前の二人同様に贈り物を渡し、レンヤがありがとうございますと受け取る。


 レンヤもアイナも、震えるほどではないが人見知りによる緊張を発揮して、そして対する風香の方も、真面目すぎるのか、必要以上に緊張しているような雰囲気を垣間見せている。

 三人はどこか似たもの同士の気配を漂わせ、独特の空気感になっていた。






 挨拶をそこそこに、玄関から料理の並ぶリビングに移動し、席についたら全員でいただきますをしてから食事を開始する。


 はじめは緊張していた風香も、美味しそうな料理を前にし、食べす進めていくことで大分和らいでいた。


「そういえば、レンヤとアイナが助けられたんだったな? お前らが苦戦するなんて珍しいな?」


「…………ん。予定よりもモンスターが多かった」


「……そのせいで、俺のブレードの刃の替え刃がなくなって……」


 二人はその時のことを思い浮かべ、若干苦い思いをする。


「あぁ。レンヤ、まだあんなブレード使っているのか?」


「……あれしか使い物になるものがないから……仕方なく」


「まぁ、刃物はオーダーメイドが一般的だから、なかなかお手頃なものは出回らないものね」




 北原の言う通り、主力として使用するような刃物は市場にはなかなか出回ることはない。


 それは需要がないからでは無い。需要がある層がトップハンター達なのが問題なのだ。


 ハンターの多くは重火器を使う。だが、実力が上がると道具に偏った重火器では限界が来る。

 更に、経験を積むことに身体能力が常人ではありえないほど向上し、重火器よりも刃物や鈍器のほうが火力を出せるようになるのだ。

 つまり、刃物の使用はは上位のハンター層に集中する。

 トップハンターということは金と非常識な力があり、生半可なものでは使い物にならない。

 だから基本的には主力として使う刃物はオーダーメイドが基本となるのである。

 もちろん駆け出しも、将来を見越して訓練はするが、実戦では使用しない。

 したがって実戦に耐えられる程の安い刃物は限られ、レンヤが使っている、カッターの刃のように高頻度の刃の交換が必要なブレードぐらいしかないのだ。


「そういえば、斎くんも刃物を使うわよね?」


「おう、液体金属製の薙刀な。まぁ、最近は銃で事足りるから、あまり使ってないが」


 上級ハンターたちに広く使われている刃物は、二人と同じように液体金属製である。普段はコンパクトだが展開すると刃物の形状に変化するというものだ。


 これもモンスターのおかげで生まれたもので、水と同じように固まると体積も増える性質を持ち、展開していない状態なら非常にコンパクトになる。二人の薙刀も大剣も三十センチ定規程度に収まる大きさで非常に携帯性に優れている。

 ただし、展開と、その状態を維持し強度を出すために生命石のエネルギーを必要とし、さらに液体金属自身も使っていく過程で徐々に消費してしまうという欠点がある。


「銃の方が楽だしな。そもそもレンヤのように刃物の主体で戦うほうが珍しい」


「そうですね」


「距離や風とかいろいろ考えないですむから楽なのにな」


「いや、刃物も考えることあるだろう」




 ハンターの話や近況報告などの会話をはずませながら、徐々に食事が減っていく。


 レンヤとアイナの人見知り組もちょくちょく会話することで、既に風香とも普通に話せるようになる。

 風香自身、近しい世代で中のいいハンターがいないのか、レンヤとアイナと簡単に意気投合しうちどけていた。

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