第2話 2日目

AとBが買い物を済ませ、コンビニを出る頃には、すでに夜の12時を過ぎていた。

買い物を済ませた2人は、立ち読みをしてなかなかコンビニから出てこないCを待っていた。

「あいつ、遅いな。」

「あんなこと、言っておきながら、やっぱりビビってんだろ。」Bはからかうようにそう言った。

「まぁ、正直気にはなるけどな。」

「やっぱり気になるよな。じゃ、Cはまだ来ないけど、見に行くか、あそこ」

そういうと、Bは隣のマンションの方を、正確にはコンビニとマンションの間のその隙間を、指差した。

 Aは正直乗り気ではなかったが、かと言って幽霊話をまともに信じているわけでもなかったため、今後の話題作りになるかなくらいの思いで、Bの提案に乗ることにした。

 建物と建物の間の隙間は、コンビニの明るさとは対照的に暗く、近づかない限りは、そこに何があるかさえ、到底見えない暗闇だった。

 Aは、ここの場所昼間はどんな感じだったっけと思い出そうとしたが、ちっとも思い出せなかった。注意して見たことなど無かったから、記憶になかったのかもしれないが、もしかしたらそれだけではないかもしれない。

 昼でも建物に挟まれたその空間には光が入らず、常に闇だけが横たわっており、記憶するべき対象がそもそも存在しえないのかもしれない。

 近づくにつれて、その闇の持つ気配は強くなり、Aは気がつけば、隙間に近づくこと慎重になっていた。

 

 何あるはずがない。誰かいるはずもない。そう思いながらも、踏み出す一歩は徐々に重くなっている。Bも、なぜか一言も発しないまま、Aの後をついてくる。


 やがて、その隙間に近づいたAはおそるおそるその闇を覗き込んだ。何もないはず、何もないはず、Aは心の中でそう呟きながら、真っ直ぐその闇の中を覗き込んだ。


 そこには、何も存在しなかった。

 Aは少し落ち着き、そりゃそうだよなと自分に言い聞かせた。

 その刹那だった。


 ガッ。

 何かが突然Aの足首を掴んだ。


「う、うわあぁ。」

 思わず声を上げるA。足首を抑えるものを必死に振りほどこうとするが、足に力が入らない。

「ああああ。」

「落ち着け、A。それは幽霊じゃない。むしろ暴れると《その人》が危険だ。」

 Bが慌てるAの肩を抑えながらいう。

「落ち着け、足元をよく見ろ。そして、なるべく傷つけないように、その足を動かすんだ。」

 AはBが何を言っているのか、にわかには理解できなかったが、Bの指示に従い、まずは落ち着くことにし、そして視線を下に落とした。

 確かに手が足を掴んでいるが、それははっきりと見えるものであり、多くの皺が刻まれていた。

「これ、おじいさんか。」

 Aは足元におじいさんがうずくまっており、そしてAの足を掴んでいることをようやく認識した。

「なんつーか、いわゆる徘徊老人かな。」

 少し心配そうにBが言う。Aとしては、誰であれ、急に自分の足を掴んだことに恐怖と苛立ちを覚えていたが、自分の足元にうずくまる老人が、Aに危害を加えようとして、そのようにふるまった様子は感じられず、むしろ自分が今何をしているかさえ、よくわかっていない様子であったことから、とりあえずは、おじいさんの指をゆっくり足首から離した。

「おれ、通報するから。」

 そういって、Bはスマホで警察に連絡を取った。


 ほどなくして、警察が急行し、おじいさんはその身柄を保護され、AとBは警察から事情を聞かれることになった。

 警察が到着したあたりで、何か異常を察したCがコンビニから出てきたものの、

「俺は、関係ないことだから。」

 と、われ関せず様子で、警察から事情を聞かれるAとBの近くでフラフラしたり、おじいさんがいたマンションとコンビニの隙間の方に行ったりと、好き勝手に過ごしていた。

 保護されたおじいさんの足には怪我があった様子で、「念のためだから。」と警察は、AとBの行動によっておじいさんが怪我をしたものではないかを聴取していた。

「ところで君たち2人はなんであそこに向かったの?」という警察の問いに対して、AとBは苦笑いしてはぐらかすしかなかった。

 そういった事情を聞かれる中で、時間はそれなりに経ってしまい、警察がようやくいなくなると、AとBは今日はもうここで解散しようという話になった。

 しかし、その時点で、ようやく二人は、いつの間にかCがいなくなっていることに気が付いた。

 ただ、時間も時間だし、事情聴取がいつ終わるかもわからなかったことから、勝手にCは帰ったんだろう、そう二人は結論付けることにして、結局そのまま二人はそれぞれ帰路につくことにした。



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