第321話 四角錐の建造物

 王の赤翼ラルクスが巨大洞窟の入り口に到着。


 山の頂上まで垂直に続く岩壁。

 そこに開いた超巨大な洞窟。

 横幅は三百メデルト、高さは五百メデルトもある。


 その巨大さに驚いたが、何より驚いたのは洞窟内が明るいことだ。

 もちろんこれだけの巨大な洞窟だから、入り口は広く、日の光が届く場所は明るい。

 だがここは洞窟の奥深くまで明るさを保持している。


「ど、どういうことだ?」


 俺は速度レバーを手前に倒し、速度を最小にして洞窟を進む。

 高度は五十メデルトだが、洞窟の高さは余裕がある。


 洞窟は真っ直ぐ伸びており、整備された道が続いていた。

 道の脇には約十メデルトおきに、高さ数メデルトの砂色の石像が並ぶ。


「立派な神殿だ。これほどの神殿は初めて見る」


 入り口から一キデルトほど進んだ。

 こんなに深部まで来たのに、洞窟内の広さや明るさは変わらない。


 天井部分をよく見ると、いくつもの穴から光が差している。

 その光が洞窟を照らしていた。


「あれは! 光る鉱石!」


 凝視すると、穴には光る鉱石が埋め込まれている。

 竜種リジュールが住んでいたナブム氷原の洞窟で見たものと同じだ。

 古代文明はこの鉱石を発見し、有効活用していた。

 しかし、どうやってこれほどの高さに取り付けたのだろうか。


 王の赤翼ラルクスを進めると、石像が立つ道から街のようにたくさんの建物が建つ区画に変わった。

 住宅や商店のような建物が、整然と等間隔に並んでいる。


 そして入り口から真っ直ぐ続く道の終点は、街を見下ろすかのようにそびえ立つ四角錐の超巨大な建造物だった。

 高さは二百メデルト以上あるだろう。


「お、大きい……。この素材は白理石か?」


 白理石は建築物に使用する岩石の中では最高級で、非常に高価だ。

 四角く切り出した巨大な白理石を、大量に積み上げている四角錐の建造物。

 これほどの白理石となると、その費用は計り知れない。


「っと、すぐに鉱夫の観点で考えてしまうな」

「ウォウウォウウォウ」


 エルウッドが笑っていた。


 ベルフォン遺跡の最深部は、この四角錐の超巨大建造物だった。

 それにしても、これほど巨大な建造物は見たことがない。


「見学に来ただけだし、調査はしないつもりだったけど……」


 ここまで来たのなら、この四角錐の建造物に入ってみたい。

 シドですらここには来たことがないと言うのだ。

 もし危険ならすぐに戻ればいい。


 好奇心が勝り、俺は探索することにした。


「船内に誰もいなくなるから、着陸させない方がいいな」 


 着陸するより空中停止の方が安全だろう。

 人が生息しないこの島で盗難はないが、万が一を考え空中停止することにした。

 高度五十メデルトで空中停止のレバーを引く。

 錨を下ろし船体を固定。

 下船の準備をして一階の倉庫へ向かう。


「ヴァルディ頼むよ」

「ヒヒィィン!」


 ヴァルディは百メデルトくらいなら軽くジャンプする。

 もはやジャンプとは呼べず、空を飛ぶような感覚だった。


 ハッチを開け、ヴァルディの背に乗る。

 ハッチは自動で閉まるように設定済みだ。


「行こう!」


 エルウッドもヴァルディの背に飛び乗った。

 そして、ヴァルディは王の赤翼ラルクスから飛び出す。


 ヴァルディは空中を優雅に歩くかのよう宙を舞い、背に乗る俺に衝撃を与えないように着地してくれた。


「ありがとうヴァルディ」

「ヒヒィィン!」


 降り立った場所は、建物が立ち並ぶ街の中心部だ。

 数千年は人がいないはずなのに、建物は綺麗に残っている。


「風化しないのか?」

「ブフゥゥ」


 ヴァルディが一軒の建物に近付いたので壁を触ってみた。


「白理石だ。間違いない。しかし全く風化していないぞ」


 風化しない建物。

 いくら頑丈な白理石でも、数千年も形を保つなんてあり得ない。

 恐らくこれも、失われた古代の技術なのだろう。


 そして俺たちは四角錐の建造物の正面まで進む。

 地上から見ると、その大きさに驚くばかりだ。

 見上げると口が開いてしまう。


 入り口から続いていた道は、この建造物の正面が終点だ。

 そのまま四角錐の建造物の階段に繋がる。

 階段は横幅十メデルトほどで、通常の建物でいう三階くらいの高さまで続いていた。


 ヴァルディが一回ジャンプしただけで階段の最上段に到着。

 階段の先は十メデルトの短い廊下になっており、その先には巨大な扉があった。

 両開きの白理石の扉だ。

 これを力で開けるのは無理だろう。


「ちょっとやってみるか」


 ヴァルディから飛び降り、扉の前に立つ。

 俺は両手で両扉を押す。

 力の限り押してみたが、一ミデルトも動かない。


「そりゃそうか。この扉一枚で数千キルク以上あるもんな」


 何度かチャンレジするも動くわけがない。

 人間が動かせるようなものではないだろう。


「ここまでか……。せっかくだから、街をもっと見てみようかな」


 俺は扉に背を向け、階段を降りようと歩く。


「ウォン! ウォウウォウ」

「ん、どうしたエルウッド」


 振り返ると、エルウッドが俺の顔を凝視していた。


「どうした?」

「ウォン!」


 エルウッドが扉に身体を向ける。


「もう一回やれって? 無理だよエルウッド」


 そこで俺は気付く。

 少し離れた距離で冷静に扉を見ると、両開きの左側はモンスターのようなレリーフ、右側は動物のようなレリーフが掘られていた。


「こ、これって……。まさか……竜種と始祖か?」


 すると、エルウッドの角が光った。


「ロ、雷の道ログレッシヴ?」


 エルウッドが扉に向かい、雷の道ログレッシヴを放出。


「ま、待て!」


 俺はすぐに耳をふさぐ。

 それでも広大な洞窟内に、落雷の音が響き渡ったことが分かるほどの轟音だった。


 白煙で隠れている扉。

 ゆっくりと白煙が消えていくと同時に、臼をひくかの如く、重い石が引きずられているような音が聞こえる。

 白煙が晴れると、扉は完全に開いていた。


「ひ、開いた!」

「ウォウウォウ」


 エルウッドがこちらを振り返り、自慢げな表情を浮かべていた。


「扉のレリーフはエルウッドに似てる。それにここはエルウッドの故郷。エルウッドはこの扉を開けることができるのか?」

「ウォン!」


 まるで実家に帰ってきたかのように、扉の中に入っていくエルウッド。

 俺とヴァルディもその後を続く。

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