第41話 エルウッドの正体

「ん、んん……」


 俺は目を開けた。

 どうやら寝ていたようだ。

 それにしても、ここはどこだろう……。


「はっ! エルウッド!」


 これまでのことを一気に思い出した。

 すぐに動き出そうとしたが、人が一人入るほどの鉄製の檻に入れられていることに気づく。


「ぐふふふふ、麻酔から覚めたか」


 老人が俺に話しかけてきた。

 この老人は見覚えがある。

 確か謁見の時、陛下の隣りにいた老人だ。

 その老人の手前にある大きな机の上で、横たわっているエルウッドの姿が見えた。


「エルウッド!」


 エルウッドは両手足を鎖で繋がれ、刺さっていた十本以上の矢は全て抜かれていた。

 麻酔で眠らされているのだろう。


「ワシはこの国の宰相、ミゲル ・バランじゃ。よろしくのう、アル・パート殿。ぐふふふふ」


 檻の手前に近づくミゲルを睨みつけた。


「そう睨むでない。しかし、強力な麻酔矢が十本以上刺さってなお、ここまで抵抗するとはな。おかげで三十人の死者を出したぞ。さすがは古のネームドじゃ。恐ろしいものよ」

「ネームド? エルウッドが?」


 ◇◇◇


 固有名保有特異種ネームドモンスター


 種族の中から極稀に産まれる特別な能力を持った個体や、特別に進化した個体を指す。

 街や国に厄災をもたらすほどの存在であり、識別するため個体に名前が付与されている。

 その存在は世界でも非常に少ない。


 ◇◇◇


 俺は以前ラバウトの図書館で読んだモンスター事典を思い出した。


「貴様はその銀狼牙のことが分かってないようだな。その銀狼牙の名はエルウッド・デル・ザナドゥ。幻想の雷という意味じゃ。二千年前から生きているネームドモンスターじゃ。古すぎて現在のネームドリストには入っとらんがの」


 強力な麻酔矢を受けても、三十人の男たちを瞬殺したエルウッド。

 まさかエルウッドがこれほど強く、さらにネームドモンスターだったとは知らなかった。

 何より二千年も生きていることに驚く。


「に、二千年生きてるだと! エルウッドが?」

「そうじゃ」


 ミゲルが顎の白髭を触る。


「ネームドを捕獲するのは困難じゃ。異常に警戒心が高く、恐ろしく強い。特にエルウッドは古のネームドじゃ。通常なら捕獲は不可能じゃろう。しかし、唯一心を開いている貴様と一緒なら捕獲は可能。そのため、レイ・ステラーを使って貴様を王都へ呼び出したのじゃ」


 ミゲルは懐から革袋を取り出した。


「それは! 紫雷石!」

「そうじゃ、貴様が隠し持っていた紫雷石じゃ」


 宿屋に置いていた荷物を回収されてしまったようだ。


 ミゲルは革袋から紫雷石を取り出し、エルウッドの角の横に置く。

 すると、紫雷石の中にある雷の模様が激しく動き出した。

 まるで石の中で稲妻が発生しているような動きだ。


 続いて、エルウッドの角が薄っすらと光り出し、紫雷石の稲妻を吸収するかのように引き寄せる。

 紫雷石と角が数本の雷で繋がった。


「ぐふふふふ。銀狼牙の角と紫雷石を並べると、雷を発生させるのじゃよ。これを雷の道ログレッシヴと呼ぶ」


 ミゲルが自慢気に話す。


「紫雷石は石の中で雷を作り出す。そして銀狼牙の角は雷を吸収する。この二つを並べることで、雷の道ログレッシヴを発生させることができるのじゃ。ぐふふふふ」


 そういえば父親から、エルウッドと紫雷石は絶対に近づけてはいけないと言われていた。

 これが理由だったのか。


「よくやったぞ、ミゲル」


 部屋のドアが開くと、ジョンアー・イーセ国王が姿を見せた。

 後ろにはザインさんと、レイさんもいる。


「ミゲルよ、これでイーセ王国の繁栄は永遠に続く」

「仰る通りです、陛下。ぐふふふふ。不老不死はもうすぐですぞ」


 ミゲルから信じられない言葉が出た。


「ふ、不老不死だと?」

「ぐふふふふ、小僧。教えてしんぜよう。エルウッドは不老不死の素材となるのじゃ。お主には実験台になってもらう」


 ミゲルは腰に両手を回しながら、機嫌良さ気に檻の周囲を歩く。


「古い文献に記載があってのう。紫雷石、銀狼牙の角、血液を精製すると不老不死の石パーマネント・ウェイヴスが生まれるのじゃ。ぐふふふふ」

「パ、不老不死の石パーマネント・ウェイヴス?」


 ミゲルは忌々しい笑みを浮かべている。


「さて、始めるかの」


 ミゲルの後ろに控えていた二名の屈強な男。

 手には巨大なペンチを握っている。

 その男たちが突然、エルウッドの角を抜き取った。


「エルウッド!」


 角の長さは五セデルトほど。

 エルウッドの額からは血が流れる。

 しかしエルウッドは麻酔で眠ったままだった。

 痛みを感じてないのが救いだ。


「ぐふふふふ。あとは不老不死の石パーマネント・ウェイヴスのために心臓を取り出し、血を一滴残らず全て絞り出してやるわ」

「貴様ぁぁぁぁ!」


 ミゲルの言葉を聞いて、俺は目の前が真っ白になるほどの怒りが湧いた。

 エルウッドは俺の唯一の家族だ。

 とにかくエルウッドを救う。

 そのためなら死んでもいい。


 俺は目の前にある鉄の柵を両手で掴み、左右に無理やりこじ開ける。

 牢から出た勢いで、ミゲルに向かって走り出した。

 この男だけは許さない。


「バカな! 鉄の牢じゃぞ! 化け物か! ザイン! 小僧を斬れ!」


 ザインさんがミゲルの前に立ち、腰から剣を抜く。


「くそ!」


 足止めを余儀なくされた。

 俺の剣は、当たり前だが回収されてしまっており、完全に丸腰

 敵は六人。

 レイさんも含めて……。


 しかし、この状況でもるしかない。

 エルウッドを救う。


「エルウッド! 今助けるからな!」


 ザインさんが俺に向かってゆっくりと近づく。

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