第35話 冒険者ギルド
王都二日目の朝、俺はエルウッドと王都を見て回ることにした。
王都は広大だ。
とにかく広い。
俺が滞在している南区だけでもラバウトどころか、キーズ地方の最大都市アセンよりも広い。
王都イエソンは世界一の超巨大都市だ。
さらに貿易の中心地として、様々な国から人や物が集まる。
多種多様な文化が交わり、独自の文化として発展していた。
街並みも、人々の服装も見たこともないものばかり。
これがファッションというものか。
ラバウトでセレナに教えてもらっていたが、最先端の文化は想像以上だった。
帰ったらセレナに自慢しよう。
「そうだ、セレナにお土産を買っていこう。喜んでくれるといいな」
「ウォン!」
俺はアクセサリーを扱っている雑貨屋でお土産を購入。
結局、この日は南区を観光しただけで一日が終わってしまった。
――
イエソンに来て三日目。
今日もエルウッドとイエソンを観光することにした。
試験までは残り三日。
今さら焦っても仕方がない。
俺はしっかり勉強してきたし、身体も鍛え抜いてきた。
標高九千メデルトという人が生きていけない高度で、ひたすら剣を振って身体を鍛え抜いてきたのだ。
これ以上やれることはもうない。
同じ宿に泊まっているリアナは「最後の追い込みよ!」と自室で猛勉強している。
見習うべきかもしれないが、田舎者の俺としては、文化の最先端であるイエソンを見て回る方が遥かに勉強になった。
今日は乗合馬車で中央区まで移動。
中央区まで来るとイエソン城も見える。
まるで白鳥が翼を広げたような美しい城は、
ここが王都の中心、いや、イーセ王国の中心地。
一ヶ月前はフラル山で採掘していた俺が、イーセ王国の中心にいる。
自分でも信じられない。
馬車を降り、中央区を歩いていると大きな建物の前に出た。
赤いレンガ造りで、周辺の建物の中でもひときわ大きい。
恐らく五階建てだろう。
看板には冒険者ギルドのイーセ王国本部と書いてある。
「冒険者ギルドか。ちょっと覗いてみようかな」
「ウォウ」
俺はエルウッドと中に入ってみることにした。
ギルドの中は賑わっている。
怒声も聞こえるほどだ。
冒険者はなかなか荒い。
一階は受付や各種窓口、クエスト掲示板、食堂と酒場、広いロビーがある。
賑わいと広さに驚き、俺は入口付近で立ちすくんでいた。
「そこ邪魔だよー」
「あ、ごめんなさい。すぐどきます」
通行の邪魔になってしまったようだ。
「何? アンタ、ギルド初めて?」
「はい、見学しようと思って」
若い男が話しかけてきた。
「ん? あれ? アンタ……」
「あ! アセンで会ったギルドハンターの」
「バカバカバカ! 内緒だっての!」
「ご、ごめん!」
アセンの郊外でハリー・ゴードンを処分した男だ。
まさか、ここで再会するとは思わなかった。
「一応自己紹介する。アンタには本名でいっか。オイラはウィル・ラトズ。Cランクのウィル・ラトズ」
「Cランク?」
「そういうことになってるんだよ」
「わ、分かった。俺はアル・パート。よろしく、ウィル」
あの時の俺は、初めて人を斬ったことで焦っていた。
だが、今は冷静だ。
ウィルを観察する。
身長は俺よりも拳三つほど低く、頭髪は茶色のくせ毛で少し長い。
年齢は俺より上だと思うが、かなり幼く見える。
腰には全長七十セデルトほどの、二本の
ウィルは双剣のようだ。
緊張感のない気の抜けた話し方をするし、童顔なので一見子供のような印象を受けるが、一分の隙もないその姿はCランクとは思えない。
若いのに相当な修羅場をくぐってきた達人だろう。
確かギルド員を処分する機関と言っていたから、正体を隠しているのか。
「で、アルだっけ? アンタ、ギルドへ何しに来たの?」
「いや、だから見学で……」
「本当に?」
「ああ、騎士団の入団試験を受けに来てるから」
「アンタ騎士団受けるの? マジか! やめときなって! 冒険者の方が稼げるぜ?」
騎士団受験をやめるように言われたのは初めてだ。
だが俺にはレイさんとの約束がある。
「ある人との約束があるんでね」
「ふーん。アンタの腕なら、冒険者でそれなりに稼げそうだけどね」
「アハハ、ありがとう」
「……アンタさ、ギルドの資格試験受けてみたら?」
「え?」
「騎士団にも元冒険者はいるんだよ」
「そうなの?」
それは知らなかった。
冒険者の資格を持っていても、騎士団へ入団できるのか。
「冒険者になったけど騎士に憧れて入団するパターンもあれば、冒険者で稼げなくなったから入団するヤツもいる」
「へえ、そうなんだ」
「近衛隊隊長のリマ・ブロシオンも、あのレイ・ステラーも冒険者だったし」
「レイさんも!」
「ん? アンタ、レイ・ステラーと知り合いなんだ。あの人、十五歳で騎士団入ってるけど、それまでAランクの冒険者だったし。十四歳でAランクは未だにあの人だけだぜ」
「く、詳しいね」
「そりゃあ、チーム組んだことあるし」
「え!」
「まあ興味があったら、試験受けてみるといいんじゃね?」
驚いた。
レイさんが元冒険者で、それもAランクで、しかもこのウィル・ラトズとチームを組んだことがあるとは。
レイさんの強さが垣間見えたような気がした。
気づいたらウィル・ラトズはギルドの奥へ入っていた。
「冒険者の資格試験か……」
騎士団試験に影響しないのなら、試しに受けてみてもいいかもしれない。
冒険者試験には共通試験と討伐試験がある。
共通試験の結果により、ランクに見合った討伐試験を受験できる仕組みだ。
俺は試験の料金表に目を向けた。
◇◇◇
○共通試験 受験料 金貨一枚
筆記 六科目
体力 五種目
○討伐試験 受験料
Aランク 金貨二百枚
Bランク 金貨百枚
Cランク 金貨五十枚
Dランク 金貨二十枚
○合格基準
Aランク 共通九十点以上 + 討伐試験
Bランク 共通八十点以上 + 討伐試験
Cランク 共通七十点以上 + 討伐試験
Dランク 共通六十点以上 + 討伐試験
Eランク 共通五十点以上
◇◇◇
「高い!」
俺は思わず声を出してしまった。
共通試験だけで金貨一枚。
さらにDランク以上は討伐試験があり、受験料が信じられない金額になっている。
冒険者がランクを上げるには実力もさることながら、資金力も必要らしい。
先程ウィルが冒険者は稼げると言っていたが、その冒険者になるために莫大な資金が必要というシビアな世界だった。
それにしても、レイさんは十四歳ですでにAランクだったらしいけど、その年齢で金貨二百枚払ったってことか。
一体どうやって……。
Eランクなら討伐試験はなく、金貨一枚で取得することが可能なようだ。
ただ、金貨一枚は俺にとって大金だ。
この支払いは痛すぎる。
金貨一枚は、ラバウトの物価だと一ヶ月暮らせる金額だ。
「でも、せっかくだし受けてみるか」
「ウォン!」
冒険者試験は毎週一回行われていて、偶然にも今日がその試験日だったことも受験する気になった理由の一つだった。
俺は受付で受験料を支払い、受験開始までロビーで待つ。
試験の注意書きを読むと、筆記テスト六科目、体力テスト五種目となっていた。
そして、試験開始となった。
まずは筆記テストだ。
モンスター学。
レイさんから騎士団試験用に教えてもらっていた。
それに昔から図書館でモンスター事典を読むのが好きだった。
地理学。
これもレイさんから騎士団試験用に教えてもらっていた。
鉱石学。
これは俺の専門。
数学。
得意とまでは言えないが、教師だった母親に教えてもらっていた。
薬草学。
父親に教わっていたし、一人暮らしで薬草を使うので知識はある。
言語学。
周辺国の簡単な言語は父親に教わっていた。
父親の出身国であるフォルド帝国のフォルド語は読み書きもできる。
そして、最後に体力テスト。
なんというか、周りはかなり大変そうだったけど、俺的には問題なかったと思う。
俺は試験を終えた。
試験結果はすぐに発表されるとのこと。
ロビーで待つと周囲がざわついた。
どうやら試験結果が出たらしい。
「おい! 満点が出たぞ!」
「あの地獄の体力テストで!?」
「あれで満点取れるヤツなんているのかよ!」
「人間じゃねーぞ!」
どうやら満点が出たらしい。
この騒ぎをみると滅多に出ないようだ。
ボードに合格者の名前が張り出されている。
「俺の名前は……あった!」
一番最初に書いてある俺の名前。
まさかの満点は俺だった。
「え? ま、満点!」
「ウォンウォン!」
「あ、ありがとう、エルウッド」
エルウッドが祝福してくれた。
俺は試験表を持って受付へ行く。
「アルさん、あなた満点ですよ! 凄いです! Aランクの討伐試験を受けられますよ?」
「ありがたいのですが、金貨二百枚は払えませんし、三日後には騎士団の試験もあるので」
「それは残念です。Aランクの討伐試験は一ヶ月くらいかかりますからね」
「そんなにかかるんですか!」
「えぇ、高難度クエストですからね。でもあの体力テストが満点なら、クリアできると思うんですよね。なにせ、この試験の満点はレイ・ステラー様以来ですから」
「え!」
やっぱり、レイさんは化け物だった。
とりあえず、俺は討伐試験のないEランクの冒険者で登録し、冒険者カードを発行してもらった。
これで冒険者としても活動できるようになった。
実は試験に受かるという経験は人生初だったので嬉しい。
もし入団試験に落ちたら冒険者も悪くない。
そんなことを考えながら、乗合馬車に揺られ宿がある南区へ戻った。
宿の食堂で夕食を食べていると、リアナが当たり前のように相席してきたので、今日の出来事を話す。
「何アンタ! 冒険者試験受けたの! ウチはずっと勉強してたのに!」
「うん、Eランク受かったよ」
「え? ちょっと、アンタ凄くない? そんな顔して頭いいの?」
「顔は関係ないだろ!」
「っていうか、Eランク試験でも金貨一枚必要なはずよ。アンタお金持ちなの?」
「そんなことないよ。いざって時の貯金を使ったんだ」
「あー、アンタ、不合格だった時のことを考えてるのね。ザイン様と知り合いだからって、確実に受かるわけじゃないもんね」
「そんなところだよ。選択肢はたくさん持ってなきゃ」
「ふーん、そんな顔してリスク管理はしっかりしてるのね」
「だから顔は関係ないだろ!」
「この軟弱者め! ウチは騎士団試験一択よ!」
リアナと話してると、幼馴染のセレナを思い出す。
ラバウトにいた頃を思い出して心地良い。
とても楽しい食事となった。
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