第3話 普通じゃない鉱石鑑定

 叫ぶ声の主は商人のトニー・ケイソンだった。

 トニーが肥えた腹を揺らしながら走って来る。

 そのトニーに向かって、鍛冶師のクリスが自慢気が表情を浮かべた。


「ガハハハ、遅かったなトニー。緑鉱石と竜石は俺が買い占めたぞ」

「はあ、はあ。ちっ、じゃあ残りの鉱石は全部ワシが買う。アルが採ってくる鉱石は品質が良いと評判じゃ。だから人気が高いんじゃよ」


 トニーは息を切らしながら、残りの白鉱石、赤鉱石、黒深石というレア五の希少鉱石を全て買ってくれた。

 その重量は約八十キルクで、価格は金貨八枚だ。

 代金をもらっていると、トニーが何かを思い出したような表情になった。


「そうだ。アルにちょっと見て欲しい鉱石があるんじゃ。さっきここへ来る前に買った鉱石じゃ。なかなか良質だったから全部買い取ったんじゃよ」

「へー、見せて」

「白鉱石、緑鉱石、赤鉱石の三種類を五十キルクずつ、合計で百五十キルク買い取ったんじゃ」

「レア五の相場は十キルクで金貨一枚だけど、いくらだったの?」

「金貨十枚じゃ」

「それは安かったね!」


 トニーの使用人が、俺に見本の石を渡してきた。

 俺は白鉱石を手に取った。


「ん? これは……。トニー。悪いけど、これは怪しいぞ」

「ど、どういうことじゃ?」

「色が鮮やかすぎる。あと、少し柔らかいんだ」

「柔らかいだと?」


 俺は長年に渡って希少鉱石を採掘していることから、掴んだ感触である程度硬度が分かるのだった。


「柔らかいって鉱石だぞ。めちゃくちゃ硬いじゃろ」

「見ててね」


 俺は鉱石を掴む手に力を入れる。

 すると、手のひらの中で鉱石が砕け散った。


「な、なんじゃと!」


 トニーが驚き、鉱石を凝視している。


「ほらね。白鉱石は硬度六だから、手では絶対に割れないんだよ。この断面から推測すると、恐らく硬度三の軽鉄石に色素を入れて加工してるね」

「いやいや、アルよ。何から突っ込んでいいのか分からんが、いくら硬度三とはいえ、鉱石を素手で砕く人間はこの世におらんのじゃよ……」


 トニーは妙に冷静になっている。

 だが次の瞬間、両手の拳を握りしめて空に顔を向けた。


「偽物なのかぁ! ふざけんな! あの男ぉ!」


 大声で叫ぶトニー。

 気の毒だが、俺は気になったことを質問する。


「ねえトニー。これ、どこで買ったの?」

「裏通りじゃ! 大男が売っていた! くそっ、捕まえてやる!」


 鍛冶師のクリスが、走り出そうとするトニーの肩を掴む。


「もう消えてるだろ。行っても無駄だ。やめておけ。商人ギルドが運営するこの市場で買えば安全だったのに。バカなことしたな」


 クリスが真面目な表情で忠告している。


「そもそも、この街で希少鉱石を売るのはアルだけだろ。フラル山の希少鉱石は今やアルしか採れないんだ。お前、欲に目がくらんだな」

「うぐぐ、商売を広げようと焦ってたんじゃ。くそっ!」

「金貨十枚損したな」


 クリスが急に笑顔を浮かべ、俺の顔を見た。


「それにしてもアル。偽物とはいえ鉱石を握力で砕くのはお前くらいだぞ。他所ではせめて鑑定用ハンマーを使えよ。それこそ偽物と思われちまうぞ。ガハハハ」

「アハハ、ありがとう」


 クリスは俺にも忠告してくれた。

 その横でトニーが肩を震わせている。


「くそお! 騙されたあ!」

「トニー、元気出しなよ」

「ウォウウォウ」


 俺とエルウッドはトニーを慰めた。

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