第4話 八百屋の少女

「色々あったけど、すぐに売り切れちゃったな」


 クリスは二十キルクの鉱石を自分で持ち帰り、トニーは従者五人が八十キルクの鉱石を持ち帰った。

 クリスは緑鉱石と竜石で金貨二枚、トニーは残りの鉱石を金貨八枚で購入。

 今日は金貨十枚の売り上げだ。

 トニーの詐欺は気の毒だったけど、俺の分はしっかり払ってくれた。


 イーセ王国の通貨は銅貨、半銀貨、銀貨、金貨、古金貨の五種類となる。

 銅貨一枚が最低硬貨となり、銅貨十枚で半銀貨一枚、半銀貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚という価値だ。

 古金貨は国家間で使用する金貨で、古金貨一枚で金貨百枚分もの価値があり、一般に流通することは絶対にない。

 なお半銀貨は半分になっているわけではなく、中心に穴が空いている。


 この地方の物価だと、銅貨一枚は麦酒一杯の価値で、金貨一枚あれば一ヶ月暮らせるだろう。

 今回は一週間の採掘で金貨十枚の売り上げだ。

 これはいつもより特に高く普段の二、三倍もある。


 希少鉱石を採掘する俺は高収入だ。

 ただし、標高五千メデルト以上の地で採掘を行い、重い鉱石を持って下山する命がけの職業である。

 当然、鉱石が見つからない日が続くことだってあるし、モンスターに襲われる可能性もゼロではない。

 まさにハイリスク、ハイリターンの仕事だった。


 だが、フラル山は低地でも良質な鉱石が採れる。

 俺以外のラバウトの鉱夫は、低地で鉱石を採掘していた。


 今日は早々に鉱石が売り切れてしまったので、俺はエルウッドを連れてラバウトの市場を見て回る。

 ラバウトの人口は約五万人。

 標高千メデルトの街にも関わらず、非常に栄えているのであった。

 それは温暖なカトル地方と、安定した天候のフラル山の影響が大きい。

 フラル山は標高三千メデルト付近まで広大な樹海に覆われており、様々な植物が生い茂っている。

 樹海の植物を食べる草食動物、草食動物を狩る肉食動物、その動物たちを襲うモンスター。

 多種多様な生物が生息しており、食物連鎖が形成されていた。


 また、街のすぐ隣りにあるラバウト湖では淡水魚も多く見られる。

 食材が豊富だったこの地を先人が切り開き、小さな村を作ったのがラバウトの始まりだそうだ。

 今では農業、林業、狩猟、漁業、そしてフラル山で採れる良質な鉱石の産地ということで、カトル地方でも有数の都市となった。


 ラバウトの市場は毎日開かれている。

 野菜や穀物、肉に魚、革製品、木材、鉄製品、農具、武具、宝飾品、何でも揃う。

 住人の買い物、商人の仕入れ、観光目的と多くの人が訪れ賑わっていた。


「アル! エルウッド!」


 市場を歩いていたら、八百屋のセレナが声をかけてきた。

 俺の唯一の幼名馴染みで同い年のセレナ。

 身長は俺の肩ほどで小柄だが、とても元気で活発な女の子だ。

 金色の長髪をなびかせ駆け寄ってくる。


「やあセレナ。おはよう。元気だった?」

「もう! 一週間前にも会ったでしょ?」

「そうだったね。アハハ」

「まったくアルは……。ねえ、今日の売れ行きはどうだった?」

「クリスとトニーが全部買ったよ」

「えー! もう売り切れたの?」


 可愛らしい大きな目をさらに見開いて驚いていた。

 その黒い瞳に吸い込まれそうになる。


「そうだアル! 商店街に新しい食堂ができたの知ってる?」

「いや、知らないなあ」 

「お昼ご飯で行ってみない?」

「そうだね。ちょうど腹も減ってたし行こうか」

「やった! お母さん、アルとご飯に行ってくる!」


 セレナの母親、ファイさんが笑っている。


「はいはい、いってらっしゃい。アル君、セレナをよろしくね。ふふ」

「はい、ファイさん! いってきます!」

「あ、アル君。エルウッドはどうする?」


 ファイさんがエルウッドを連れて行くか聞いてきた。

 俺は一応エルウッドに確認してみる。


「エルウッドどうする?」

「クウゥゥゥン」


 エルウッドは鳴きながら、ファイさんの方へ歩き出した。

 どうやらファイさんの八百屋で野菜を食べたいらしい。


「ファイさん、すみません。エルウッドをお願いします。野菜代は後で払いますね!」

「ふふ、エルウッドはいいのよ。いってらっしゃい」


 ファイさんに挨拶をして、セレナと市場を出て商店街を歩く。

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