第19話 改装DIY

「さーてと。まずはどこから取り掛かろうかな?」


 魔法袋インベントリに入れて運び込んだ大量の資材を並べた私は、ぐるりと家を見回して考える。

 ちなみに今は作業着……兼、部屋着として使ってる魔法学院時代の芋ジャージ姿だ。色が深い赤だから、あんまり汚れが目立たないんだよね。四年間であんまり身長も伸びなかったし、重宝してるよ……。


「まずはやっぱり、教室の整備かな」


 このお屋敷はとにかく広い。不動産用語で言うなら、一一LLDDKKだ。

 まず一階が五LDK。しかも五つある部屋のうち二つは巨大な引き戸で仕切られているので、それを左右に開けて繋げればめちゃくちゃ広い大広間になる。

 次に二階が四LDKだ。こっちは自分の居住スペースにしようかと思ってる。ありがたいことに階段には鍵付きの扉が付いてるし、もともとの持ち主だった商人さんも住み分けるつもりだったのかもしれないね。

 流石にこっちは一階に比べるとやや狭いけど、それでも皇都の一等地に建ってることを思えば相当に広いほうだ。風呂とトイレも一階と二階にそれぞれ付いてるし、最近流行りの二世帯住宅みたいな造りをしている感じかな。

 そして最後、なんと地下に二部屋だ。商品を保存するための倉庫として作ったと思われる保存庫が屋敷の地下には存在していた。


「よし、まずは一階からかな」


 ブチ抜きの大広間は、講義室にしてしまおう。そんなに大勢の生徒を抱えるつもりはないけど、講義室が広いのは良いことだ。ここには黒板も設置するつもりなので、あんまり教室が狭いと板書する時に見辛いもんね。


「机をここに置いて……黒板はこっちかな」


 採光の関係で、窓はちゃんと南側にある。右手でノートが影にならないよう窓が左側になるようにしたら、黒板は西側の壁に設置するのが吉だ。このあたりは魔法学院でも同じだったので、学生時代を思い出せば教室の雰囲気は再現できそうだね。

 支柱を立てて、ベニヤ板を固定し、そこに特殊な塗料を塗り付けていく。乾燥を促す温風魔法を吹き付けてやることしばし。塗料が乾けば、もう黒板の完成だ。もちろんチョークや黒板消しを置くための粉受こなうけも忘れない。

 続いて、天井に照明用の魔道具を取り付けていく。もともとこの部屋は採光窓が大きく取られていて他の部屋みたいに照明は無かったのだが、流石に教室に明かりが無いというのはいただけない。生徒の目が悪くならないよう、照明器具をたくさん取り付けてしっかりと明るさを確保だ。


「次は……こっちの部屋かな」


 お次は、リビングを挟んで隣の二部屋だ。この二部屋は広さがそこまで無い上に、日当たりもそこまでよろしくはない。なので、むしろ日の当たりが悪いことを逆手に取って図書室と実験室にしてしまおう。本は言わずもがな、日焼けに弱いし、実験室だって様々な薬剤を保管しておく都合上、冷暗所であることに越したことはない。

 本棚は私が持ってるやつをそっくりそのまま置けばいいよね。机も並べて、自習もできるようにしちゃおう。

 実験室は……どうせなら、魔法学院の実験室並みに設備を充実させちゃおうかな。このあたりは魔法薬学の研究所に就職が決まった親友のエミリーにでも融通してもらうとしよう。流石に無償で貰い受けるとかは無理だろうけど、設備を購入する時の窓口くらいにはなってくれる筈だ。なんだかんだでエミリーは優しいからね。もちろんお礼はしっかりするつもりだ。親しき仲にも礼儀ありっていうもの。


「あとは……ここかぁ。どうしよっかなぁ〜」


 残った一部屋だけど、ここは他のどの部屋よりも小さくて使い勝手が悪そうなのだ。窓が立派だから図書室には使えないし、教室にするには狭すぎる。水道もないからキッチンとしても使えない。というかキッチンはリビングとダイニングに併設されている。


「あ、そっか。宿泊室にすればいいんだ」


 明日からリアちゃんが合宿で泊まりにくるわけだし、宿泊室の整備は急務だろう。私自身、まだこの屋敷で生活したことはないけど、流石に家から持ってきた一緒のベッドで寝るわけにもいかない。


「あとで来客用の布団も買わなきゃね」


 やることリストに一つ付け足しておく。ある程度の工学魔法は使えるし、基本はDIYするつもりでいるけど、やっぱり職人技が必要な部分ってのはどうしてもあるからね。


「あとは……防犯魔法かな」


 この屋敷が安かった理由。それは大損をしたマフィアによる襲撃が頻発するからだ。だから前にも言ったように、イタズラで落書きをされたり窓を割られたりしないように、家自体を保護する状態保存魔法や強化魔法なんかを掛けてやる必要がある。

 それに加えて、侵入を防ぐための警備魔法や施錠魔法、防火魔法に、雷撃魔法なんかを付与してもいいかもしれない。

 複雑な経緯があったとはいえ、今はこの屋敷は間違いなく私の物なのだ。皇国法がその権利を保障してくれている以上は、この国にいる間は誰にも手出しさせるつもりはない。


「防犯用の通信魔道具もあったほうがいいかな?」


 最近は通話しながら位置情報を遠隔で送受信できる魔道具だってあると聞いたことがある。流石にそれを開発するだけのノウハウは今の私にはないけど、売ってるならそれを買えばいいだけの話だ。

 本当なら何かが起こる前にマフィアを叩いちゃうのが一番良いんだろうけど、流石に何もしていない相手を奇襲攻撃するのは私の倫理観が許しても皇国法が許してはくれない。残念だけど、しばらくは対処療法に専念することになりそうだ。


「ま、何かしてこようものなら徹底的に叩き潰すけどね……」


 私はこれでもAランク魔法士だ。もし私を怒らせたなら、Aランク魔法士と敵対することの恐ろしさを身をもって味わわせてやるつもりだ。

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白魔女 マギカ ゼミナール 常石 及 @tsuneishi

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