第3話 資金集めだ!

 新しく起業することにした私。そして始めるのは個別か少人数形式で魔法を丁寧に教える魔法塾だ。その名も「白魔女 マギカ ゼミナール」。なかなか良い名前だと思う。素晴らしい名前を付けてくれたエミリーには感謝してもしきれないね。


 さて、そうと決まれば早速動き出すことにしよう。今はまだ年度の切り替わる前の三月初頭だ。四月になったら私達四年生は卒業して新しい社会へと巣立っていくし、今の下級生達や受験生達は新しい学年に進級することになる。

 だからタイムリミットは四月だ。四月が始まるまでに、なんとしてでも「白魔女 マギカ ゼミナール」を形にしなくちゃいけない。


「当面の問題は、やっぱり資金だよね」


 教材とかは気にしなくていい。教科書が欲しいなら学院のものを流用すればいいし、問題集が欲しいなら私が作ればいいからだ。

 この国で一番と言われる魔法学院だけあって、学院で使っている教科書の質は非常に高い。極端な話、教科書さえあれば先生がいなくても独学で魔法遠修めることができるくらいには優秀な教材だ。

 もちろんそれだけじゃ足りない知識だって多いし、体系的に学ぶには先達がいるに越したことはないから、やっぱり魔法学院という学習の場は必要なんだけど、少なくとも教材選びをしなくていいという点には変わりはないだろう。


 今問題になっているのは、その学習の場としての「白魔女ゼミナール」の校舎だ。

 私が住んでいるこのワンルームマンションを教室として開放してもいいんだけど、流石にワンルームじゃいくら少人数制とはいっても手狭だし、男の子の生徒さんが入塾した時に彼らを部屋に招き入れるのも年頃の乙女としてはなんか違う気がする。

 公私はしっかりわけるべきだ。これ、恩師の受け売りね。


 だから、新しく教室になる場所が欲しいんだけど……そのためのお金が無い! そもそもの話、お金が無いから働き口を探さなくちゃいけないってことだったのに、働くためにはお金が必要なのってなんたる矛盾……。

 「白魔女 マギカ ゼミナール」の場所は学院の近くが良いとして、その魔法学院の立地が問題だ。魔法学院は名門校としてその名を全国に馳せている分、地価の高い皇都のド真ん中に建っているという致命的な問題がある。つまり「白魔女 マギカ ゼミナール」を学院の近くに建てるためには、少なくとも大都市の物価に耐えられるだけの収入がなくてはならないのだ!


「今はお父さんに家賃を払ってもらってるからいいけど……流石に『私塾を経営したいから職場の家賃を払ってください』とは言えないよね」


 生徒が増えればその問題も解消するんだろうけど、生徒がまだ一人もいない現状ではどうしようもない。まずは開業のための資金集めが必要だ。


「とりあえず冒険者やるか」


 自慢じゃないけど、私は強い。伊達に「白魔女」なんて二つ名を付けられてはいないのだ。


「そうと決まれば冒険者ギルドに急ぐぞ〜っ」


 半ば休眠状態の私の冒険者ライセンスも、更新だけはサボらずやっていたから生きている筈だ。冒険者として活動するのは二年ぶりくらいになるけど、まあ大丈夫だよね。きっと。



     ✳︎



 そんなふうに思っていた時期が私にもありました。


「え……活動を再開するには、再試験を受けなくちゃいけないんですか……?」

「はい。申し訳ございません。ギルドの規定改定により、一年以上のブランクがある方にはもれなく再試験の義務が発生します」


 本当に申し訳なさそうに伝えてくる受付嬢さんは、随分昔に私のライセンスを発行してくれた担当の人だった。名前は確か……ペトラさんだっけ。


「再試験っていつですか?」

「平日の午後、一三時からですね。今日はもう終わってしまったので、明日以降また来ていただくことはできますか?」

「わかりました。持ち物とかは……」

「一応、身分を確認できる証明書をお持ちください。それ以外は特に指定はありません」

「はい。それじゃあ、明日お願いします」

「重ね重ね、すみません」

「いえいえ。仕方ないですから」


 お互いにペコペコ頭を下げつつのやり取り。なんというか、小市民っぽいね。


 というわけで出端を挫かれてしまったアマーリエちゃんなのでした。……こんなことじゃ、めげないもんね!






――――――――――――――――――――――――――  [あとがき]


 タイトルと私塾の名前を微修正しました(2023/05/01)。

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