第20話20
コウとアキ王子は夕食をとる為に、宿の食堂の4人がけのテーブルに向かい合い座った。
しかし…
「こんなに頼んでないけど…」
すぐに運ばれてきたテーブル一杯の豪華な食事に、コウは運んできた使用人に怪訝な顔をした。兎に角、コウのこの旅は節約が命題なのだ。
「はい。最初にお客様がお頼みされた分以外は当宿の主人のお客様へのサービスと言う事で、無料にさせて頂きますので」
女性の使用人は、にっこりとコウとアキ王子に微笑んだ。
「でも…」
コウが戸惑うと、アキ王子もにっこりとして言った。
「コウ。折角のご好意だ。ありがたくいただこう」
「そうですよ。どうかお召し上がり下さい。召し上がっていただけなければ他に誰か食べる訳でもないですしもったいないですし」
そう言い一礼すると、使用人はその場を去った。
「ねっ!コウ!いただこう」
アキ王子が念を押してきた。
「分かりました……頂きましょう」
コウはそう言い渋々頷いたが、アキ王子の顔を見ながら思った。
(当宿の主人のお客様へのサービスじゃなくて……アキ王子様……いや、女主人はアキ様が王子だと知らないから、長身の金髪イケメンへのサービスだろうが!しっかし、怖えー位のアキ王子のたらし力だな…)
そして、ナイフとフォークで食事を始めた王子に眼を見張った。
アキ王子の食事姿が、実に姿勢良く優雅で美しかったのだ。 正に、これぞ王族と言わんばかりだ。
一方コウときたら、コウも一応貴族の子息だが、王城に上り又は招待に応じ他の貴族の館の晩餐会に出る事もなかった為にろくに食事のマナーなど身についていなかった。アルフレイン家の屋敷では、自分の部屋でマナーなどお構いなくナイフなど使わず好きに食事していたし。
「どうかした?コウ」
いつまでも食べようとしないコウに、王子が不思議そうにした。
「あ……いえ、別に何も…」
コウは、自分も王子のように上品に食事する事も考えた。だがやめる事にした。
ずっと取り繕うのはしんどいし、もしかしたら貴族としての品格の無い食べ方をしてるコウを見て、今度こそアキ王子はコウを嫌ってくれるかもと思ったからだ。以前ジョーンズから、恋愛はちょっとした食事のマナーの悪さなんかだけでも相手が急にイヤになる事があると聞いた事もあったし。
コウの脳裏に「コウ……君の下品さにはがっかりしたよ。さよなら」と、コウに背を向け去る王子が浮かんだ。
(よし!いつも通り食うぞ!)
コウは決心するとナイフを持たず、スプーンとフォークだけ交互に持ち替えて、しかもガツガツと肉やパンを口に入れだした。
コウはハッキリ言って、生きている中で食べる事と剣にエンチャントをする事位しか興味が無い。だから、この節約旅の間は我慢しようと思っているが、普段は凄くよく食べる。めちゃくちゃ食べる。
やがてその食べっぷりに、王子が驚いてるかのようにコウを見詰めてるのがコウの目に映った。
(やった!やっぱ、こんな食い方する貴族の息子なんてイヤだろう、王子!)
コウの心の中のコウはニヤリとした。
だが…
「コウ。凄く沢山食べるね!凄く逞しくてカッコいいよ!」
アキ王子は、優しく微笑んでそう言った。それに王子の頬が紅くなっていた。
(あっ?!えっ?!マジか?!)
コウは、持っていたフォークを思わず、肉の乗っていた皿の上に落として絶句した。
コウはその後も、アキ王子に対しこれ見よがしにガツガツと食って見せたが…アキ王子自身はゆったり上品に食事しながらも頬を赤らめ、うれしそうにニコニコとコウを眺めるばかりだった。
だがそんな中、口一杯に肉を頬張っていたコウの前に、さっきの使用人が立った。
「あの……コウ様。コウ様にお会いしたいと言う方が今受け付けカウンターにお越しなんですが…」
「俺に、会いたいって?」
コウは、肉を一気に飲み込み怪訝な顔をした。
そして、王子も不審そうに眉間を寄せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます