第19話19
(チャンス……チャンス……チャンス…)
コウは、何度も何度もただ心の中で繰り返す。
しかし次第にコウは、何故か分からないがアキ王子の顔を見続ける内に喉が詰まったようになり「違う宿をさがしましょう」の一言がいつになっても出てこない。
「コウ?」
不思議に思った王子は、王子の顔をコウの顔にかなり近づけ覗き込んた。
(くっっ……)
コウは、心の中で呻くと自分の両手も太ももの横で握り締めた。
その上結局、最終的には全く別の言葉がコウの口から飛び出る始末だった。
「アキ様。俺はオメガのフェロモンは感じ取れないアルファですが、アルファはアルファです。同じ部屋になればアキ様にいつ何をするか保障できません!俺は貴方に酷い真似をするかも知れません!」
アキ王子はその言葉に、一瞬迷わず「別にコウになら何をされても構わない」と答えようとしたが、そう言えばコウの態度は増々硬化するような気がした。
コウはアルファだが、そして見かけは不良、アウトローぽくしているが、恋愛や性にはかなり潔癖だとアキ王子は判断した。だから返答は慎重にした。
「コウ。私はフェロモン抑制剤を忘れたりさぼったりせずにちゃんときっちり飲んでるから。同室になっても大丈夫だから」
時間が少し経った。
宿のそれぞれの部屋にはバスとトイレと洗面台があったが、コウは、宿の宿泊者共有の洗面台にいた。そして、他人の目から隠れるようにズボンのポケットから紙の小袋を出し、口を天井に向け開けるとその中の粉状の薬を振り入れて、次にコップ入りの宿から貰った飲み水を正面を向き一気に飲んだ。
薬は、アルファのフェロモンを抑制し、オメガのフェロモンにも誘発されない為の抗剤だ。
結局コウは、アキ王子と一つ部屋で一夜を過ごす事にした。
ただ、アルファのフェロモンも出ない、オメガのフェロモンも一切感じ取れない病持ちのアルファのコウでも、一応念の為にいつも持ち歩いていた抗剤を飲んだ。どんな事があっても、オメガに暴力的な行為をしたく無かった。
(何でだよ?!何で言わなかった?!もう少しで野宿に持っていけたのに、アキ王子に俺を諦めてもらえたかもしれないのに。もっとしっかりしろよ…)
コウは、正面の鏡の中の自分を叱咤した。
そして結局は、コウはアキ王子に負けた形になったと思った。そしてコウは、何故負けたのかが自分で自分が分からないでいた。
だが、いつまでもこうしていられない。夕食が近いので食堂に行かなければならなかった。
コウは、すでに宿泊部屋にいたアキ王子を呼びに二階へ上がった。
しかし、まだ敗因をグダグダ考えていた事もあり、アキ王子がいるにも関わらず部屋のドアのノックを忘れていきなり開けてしまった。
アキ王子は、丁度着替え中で、上半身裸で振り返りコウを見た。
「うわっっ!」
大きな声を上げたのはコウの方で、コウは急ぎドアを閉めて、ドアに背を向けたまま廊下に直立して、真っ赤な顔で謝罪した。
「すっ、すいません!いきなり開けて!」
王子の裸体はやはりオメガだけあり、一見しただけでもベータやアルファの男とは肉付きや肌の質が余りに違い美しくて、コウは焦りを隠せなかった。
(同じ男とは思えねぇ……何んだよアレは!)
だが同時にコウの頭に、何から何まで非礼なコウに対して、王族育ちのアキ王子がいい加減呆れて城に帰ってくれると言う希望的観測が産まれその様子も想像した。
しかし…
「コウ。別に謝らなくても。これから私との間にノックなんかいらないよ」
着替え終えたアキ王子がドアを開け、その隙間から顔を出してそう言いにっこり微笑んだ。
コウがその王子を見た瞬間、その希望的観測は又秒で打ち砕かれた。
「あっ……そっ……そうですか…」
コウの思うように、アキ王子はなかなか本当に動いてはくれなかった。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋
読んで下さって、心よりありがとうございます🙏
明日、1月11日も更新いたします!
よろしければどうかよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます