第14話14

 コウは、そうしている内にいつしか眠ってしまい、朝がきた。


 穏やかな明るい日差しに、目をショボショボさせて瞼を開けた。


 爽やかで優しい風も、コウの頬を撫でる。


 それでも、コウの心は色々あって重く淀んでいて……


 体もダルくて……


 暫く両腕、両足を投げ出したまま、動けないまま寝転がったままだった。


 ただ、コウの双瞳には、何気に見上げていた大空が映っていた。


 大空は……


 コウの心の暗い色とは対極で……


 それはただ、青く、どこまでも美しく、潔く澄み切っていた。


 コウは暫くの間、ずっとそれを魅入られたように、一体化するように見詰め続けた。


 ただ、ただ、じっと。


 だが、どれ位時間がたっただろうか?


 コウは、やがて突然立ち上がり、大きく深呼吸し一つ背伸びをした。


 そして、遥か向こうに見える王都を囲む高い壁の、更にその又向こうの空を見て呟いた。


 「こんな所でいつまでもただ考えてたって、なんにもなんねぇんだよ。今、決めた!ちょっと早ぇーけど、そろそろ……行くとするか……」


 いつしかコウの表情は、見上げた青空の様にスッキリしていた。


 その後。


 アルフレイン邸は、にわかに大騒ぎになった。


 アルフレイン公は、すでに早朝から書斎の机で、どうしても今日決済の判のいる書類に目を通し仕事をしていた。


  ドンドンドン!


 所が突然、使用人の男がドアを激しくノックし、アルフレイン公の許可を得ると慌てて入室して来た。


 「お館様!大変です!コウ様が!コウ様が!お館様にもご挨拶も無く、まだハイリゲンに出立まで日にちがありますのに、お止めしたのですが、たった今、急に誰一人供も連れず、たったお一人でハイリゲンに向かい旅立たれました!あんな危険な恐ろしい土地に、たったお一人で!」


 それを聞き、コウによく似た顔と声の父のアルフレイン公は、いつもなら滅多に感情を表に出す男では無いのに、一つ超特大の溜め息をつき、頭を抱えながら首を左右に振りただ呟いた。


 「あいつは……コウは本当に、あの頑固な死んだ母親に似てる「今まで全て自分が悪かった」と私に跪き頭を下げ懺悔し、これからは私の言う事に一切逆らわず全て従うと言ったなら、ハイリゲン行きを許してやらぬ事も無かったのに。構わん、何もしてやる必要は無い!放って置け!」


 同時刻。


 コウが、一人でハイリゲンに旅立ったとの知らせが、アルフレイン邸の客室のバルコニーから虚ろに空を見上げ、コウの事を考えていたアキ王子の元にも届いた。


 「私は急にどうしても行かねばならぬ所が出来た。だがその前に旅支度がある。今すぐに城に帰るぞ!」


 アキ王子は、何かを内に秘めた表情でそう近くにいた侍従に告げた。


 そして、後数日もあったアルフレイン公邸滞在とコウの兄達との見合いを強引にキャンセルし、予定をすぐさま切り上げ帰城した。


 このアキ王子の急な予定変更が、コウの事でザワついていたアルフレイン公邸とその中の関係者を、更に大混乱させたのは言うまでも無かった。





















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