第15話15(出来損ないアルファ公爵子息とスパダリ系上級オメガ王子の節約旅〜たまにチートタイムあり〜編)

 コウの住むこの国ローデシアは、大きな城壁に四方を囲まれた都市が多く人間の生活の中心だ。

 人々はその都市に定住し、或いは各都市を行き来して商売する者も多い。

 だがそれは、魔物やモンスターがあまりに多く、人間が生きるにはそうせざるを得ないと言う理由があった。


 コウは、父のアルフレイン公に何も言わずアルフレイン公邸を出奔し、追放地に一人で向かっていた。

 そして最初の宿泊地である城壁都市「グエナ」に辿り着く。

 そしてグエナは、アルフレイン公の治める都市だった。


 コウは、アルフレイン公の息子だという事実を隠し、偽名の通行許可証で兵士の城壁門検査をパスしてグエナの都市内に入った。


 しかし、上手くいっていると思った旅は、いきなり雲行きが怪しくなる。


 グエナは昨日から大きな祭りの最中で見物客でごったがえし、コウが泊まろうとした宿も、一つ部屋が空いていたが、宿泊料が祭りの影響でバカ高かった。


 とにかく、コウがアルフレイン公から与えられた旅費は本当に少ない。

 公爵子息のはずのコウの頭の中は、常に「節約」を考えている。


 ここでコウがアルフレイン公の息子、公爵子息だと言えばすぐに難なく宿の経営者老夫婦もコウを泊めただろう。

 しかしコウは、アルフレインの名前を、意地でもここで出したくなかった。

 結局、宿は予算オーバーで泊まる事が出来ず、他の一件の宿も料金が高く、値段交渉も不発に終わった。

 

 「くっそ!あいつら……人の足元ばっかみやがって」


 確かに、よく旅の計画もせず思い付きで出できた自分も悪いとも思ったが…

 コウは、黒のローブを羽織りそのフードを頭に被り、祭りで賑わう華やかな町中をトボトボ歩きながらひとりごちた。


「どうすっかなぁ……今日の宿。いきなり野宿とかヤベーな…」


 コウは、別に野宿も平気だ。

 以前からたまに野宿して、アルフレイン公邸に帰らない日も多々あった。

 しかし、旅の途中は体力温存の為にも出来るだけ宿に泊まりたかった。

 コウが小声でブツブツ言ってると、急に後ろから声がした。


「そこの黒のローブの男!ちょっと待て!」


 コウはゆっくり振り返った。


 するとそこにいたのは、一人の都市の治安兵士だった。

 上半身にだけ着けていた鎧には、彼がそれであるマークが刻印されていてすぐ分かる。


 「ちょっと、フードを取り、顔と髪を見せていただきたいのですが…」


 兵士が丁寧にそう言った。


 いつも市民にはクソ偉そうな治安兵士がそんな口調なのはおかしいと、コウは自分の身分がバレているのかもと身構えた。

 そしててっきり、兵士がアルフレイン公からコウを捕まえアルフレイン公邸に戻すよう言われていかもと思い、その場を逃げようとした。


 しかし…


 「ちょっと待て!探してるのは背の高い金髪の美青年だ!そんなチビじゃないぞ!」


 もう一人の兵士が走って来て、コウを引き止めた兵士に向い言った。


 「あぁっ?!誰がチビだ!」


 コウはすぐ反応し、走り来た兵士を睨んで言った。

 それはコウは、男子としてアルファとしても背が小さい方だが。


 しかし、兵士達はコウを無視してえらく慌てて会話する。


 「しかし!黒いローブを着ているのも同じだし!」


 「だから、そんなチビじゃないんだよ!それより黒いローブを着た長身の男が南方向に逃げてるそうだ!そっちへ向え!隊長が早く見つけろとかなりお怒りだ!」


 「おいっ!誰がチビだ!」


 コウは、二人の兵士に又抗議したが、やはり兵士達はえらく急いでいてコウの言葉など全く耳に入ってない。

 そして兵士達は、コウをその場に残し、その「長身の金髪の美青年」を追いかけ南の方角に走り去り人の波に消えた。


 「くそっ!」


 コウは、右足を上げた後地面を踏んだ。

 しかし、あまり兵士達にからんでコウの身分がバレても困るのでさっさと忘れる事にした。


 だがコウは、兵士達が言っていた、「長身で金髪の美青年」のフレーズが気になった。

 まさにアキ王子が、まさにそれにピッタリだったから。

 コウの脳裏に、今でもハッキリ

アキ王子の美貌が浮かんだ。


 (俺はアホかよ……早く忘れんだよ……早く…)


 コウは、又人混みの中を歩きだした。


 その後、コウは二件の宿を当たったが、二件とも満室だった。


 そしてその間、やたらと多くの治安兵士が町中を走り回っているのをコウは見かけた。

 どうも祭り中の町の警備でもなさそうで、やはり罪人か何かは分からないが「長身の金髪の美青年」とやらを必死で追ってるようだった。


 治安兵士は、それなりの能力がないとなかなかなれない。


 そんな治安兵士を振り回して逃亡している「長身の金髪の美青年」も、それなりの能力を持ってる男なんだろうとふっとコウは思ったが、五件目の宿に向かった。


 やがてコウは、町の中心部から少し外れた宿の近くまで来た。

 ここに来たら回りは店舗も少なく住居が多く祭りの人混みもなかった。


 コウは、頭のフードを下ろした。

 人が少なければ、コウの顔を知っている者を気にする事も無い。

 

 しかしあまり人がいなかったからこそ一瞬だが、遠くにいた黒いローブの男の姿が見え消えた。


 「追われてんの、あいつか?」


 コウは、早く宿を探さないといけないにもかかわらず、何故が黒いローブの長身の男が凄く気になった。

 コウは、気になったら理由も分からないまま止まらなかった。

 すぐに、黒いローブの長身の男の後をコウも追った。

 だが追ったが、コウはすぐ男を見失う。

 そして、白壁の眩しい家の密集した中に迷路のように張り巡らされた路地に出た。

 回りは人通りもなくとても静かだ。


 そこにふとコウは、少し離れてはいるが背後に気配を感じた。

 ただの通行人かも知れないし、そうでないかも知れない。

 コウは、腰に下げていた剣に手をかけつつ、迷う事なく振り返る。


 (?!)


 コウの背後にいたのは、あの黒のローブの長身の男だった。

 その男が、コウに向い歩いてくる。

 しかし、男は頭にフードを被り、更に道の向こうから差し込む逆光で顔がハッキリしない。


 コウは目を眩しそうに眇め、男の顔を見ようとした。


 だがその時、男の声がした。


 「コウ!やっと会えた!」


 「はっ?!」


 コウは戸惑うが、その男の声に聞き覚えもあって更に尋ねた。


 「えっ?!まさか……アキ殿下ですか?」


 「そうだよ!コウ!」


 男がフードを取ると、間違い無くアキ王子の美貌と長い金髪が露わになった。


 「どっ……どっ……どうしてこんな所に?」


 コウが混乱して顔を引き攣らせていると、アキ王子はにっこりと笑って言った。


 「どうしてって……コウを追いかけて来たんだ。一緒にハイリゲンへ行こうと思って。だって、私が臣下無しで一人でコウに付いてハイリゲンに行ったら、私をコウの番にしてくれると、私と結婚してくれるって、コウ言ったよね」


 「あっ……えっと…」


 コウは、一瞬頭の中が真っ白になり民家の白壁に背中からもたれかかったが、確かにそんな事を言った覚えがあった。

 でも、苦し紛れだったとは言え、ああ言えばアキ王子はコウを絶対に諦めてくれると思ったからこそ言ったのに…

 しかも、考えるとは言ったが、

ハッキリ結婚するなんて事は言ってないし。


 (まさか……俺が言った事、本気にして来たのか!)


 コウは、アキ王子に何と言ったらいいか分からず動揺が止まらない。


 そんな壁にまだもたれていたコウの顔のすぐ前に、何かがスッときた。

 ハッとしたコウがそれを見ると、アキ王子の顔だった。

 アルファのコウよりオメガのアキ王子の方が背が高いので、アキ王子は体を屈めていた。


 コウは、アキ王子の顔があまりに美しくて、動揺を一瞬忘れ見詰めてしまった。


 そんなコウの唇にアキ王子はアキ王子の唇を近ずけて囁いた。


 「コウ……私を君のオメガにしてくれ。私を君の運命の番にしてくれ」


 アキ王子はそのまま、コウの唇にキスをした。


 アルファのコウは、オメガのアキ王子からの逆キスに、しかもコウのファーストキスに大きく目を見開いた。

 



 



 




 




 


 


 


 


 

 


 



 



 




 




 


 


 


 


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