第13話13

 「コウ!コウ!」


 コウがアルフレイン公邸の敷地の暗闇をランプ片手に走る間も……


 アキ王子は、コウを追いかけていた。


 アキ王子が、コウを探し何度も必死に呼ぶ声が、夜闇を切り裂くように響く。


 その声がする度、その度に、コウの胸は何故か軋むように痛んだ。


 そして、さっきのアキ王子の叫び。


 「止めろ!許さんぞ!すぐ剣を引け!コウは私のアルファ!運命の番だぞ!」


 が、コウの脳裏を何度もぐるぐるぐるぐる回った。


 しかし、コウはやはり、激しく痛む胸を抱え走り、一度も振り返らなかった。


 本当に、アキ王子を幸せに出来るのは、絶対に病持ちのアルファの自分では無いと思っていたから。


 やがてアキ王子の声が聞こえなくなった。


 アルフレイン公邸敷地は兎に角広いし、土地勘がアキ王子には無いのでコウを捕まえられなかった。


 その後コウは、広い敷地内をフラフラと宛もないまま歩いた。


 だが不意に前方の暗闇に人の気配がして、持っていたランプの火を消した。


 そして気になり近より耳を澄ませば、よく聞き覚えのあるジョーンズの声だった。


 悪いとは思いながら、コウはそのジョーンズの話しを立ち聞きしてしまう。


 ジョーンズは彼女と、結婚して二人一緒にコウに付いてハイリゲンに行くか行かないかで又ケンカしているようだった。


 ジョーンズは、相変わらずコウに付いて行き、コウを助けたいと彼女に懇願していたが……


 ジョーンズの美人の彼女は、コウの事を、出来損ないの欠損アルファと言ったり、貴族のクソバカ息子とののしった。


 そして、彼女は更に興奮して、言動もヒートアップしていく。


 「あんなのに付いて行くなんてまっぴらごめんよ!私のこの美貌は幸せになるためにあるんだからね!ジョーンズ!私はあんた以外でも、いっくらでも結婚してくれって男はいるわけなの。あんたじゃないとダメなんて事これっぽっちも無いわけ!分かる?その頭じゃ分かんないの?」


 そしてその後も、キーキーとヒステリー気味に何度もコウをけなした。


 しかしジョーンズは、彼女をなだめながらも、必死で幼なじみのコウの肩を持ちかばってくれていた。


 コウは、自分がけなされる言動には馴れていたが、ここまで自分が周りの人間に嫌われているんだと……


 コウは自分が、たった一人の友人とその恋人の言い争いの元凶なんだと……


 このままだと、たった一人の友人の幸せすら、コウが破壊してしまうと……


 普段なら自分が悪く言われると、言った相手につっかかり暴れる事が多々あるコウだったが……


 今は心の底からいたたまれなくなり、声もかけられず、いつしかそっとその場を後にした。


 結局コウは、そのまま自分の部屋にも帰らず、こっそりアルフレイン邸を出た。


 やがて夜が深まる。


 コウは、いつも一人になれる、近くの教会の高い建物にいつものようにさっと身軽に忍び込み、最上階で寝転がり星を見ながら過ごす事にした。


 あの母の思い出の星も、又見える。


 不意にコウは、一緒にあの星を見上げたアキ王子を又思い出した。


 今日川沿いで、馬車の中のアキ王子と初めて目と目があった瞬間から、怒涛のアキ王子との一日も。


 アキ王子がコウの事を、たった一人の運命の番だと言った事も。


 すると……


 コウは、フッと微笑んだ。


 そして、呟いた。


 「とんでもねぇイカレた……キレイな王子様だよな……」


 でも……


 自分は、きっとすぐアキ王子を忘れるだろうと……


 アキ王子も…すぐコウを忘れてしまうだろうと……


 コウはそっと、重たい目蓋を閉じた。





















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