第12話12
コウは、アキ王子に別れの言葉を告げた後…
ついさっき自分の口からごく自然に出た言葉に驚いていた。
コウは、自分はずっとオメガバースを憎んでいると思っていたが…
実はオメガ自体を憎んでいる訳では無い事に初めて気付いた。
自分は、母のような不幸なオメガは誰一人、二度と見たくないのだと気付かされた。
そんなコウに…
「まっ!待ってくれ!コウ!」
アキ王子が、両膝をバルコニーの床につけたまま、跪くコウの方を向き、コウの胸に抱きついた。
溺れる人間がするかのように、アキ王子はコウにすがる。
「コウ!私の気持ちは、私のこの気持ちは…一時の衝動や感情じゃ無い!どうしたら、どうしたら分かってくれる?!」
黙っていればコウよりアルファらしい、コウより体格の良いアキ王子のその取り乱しようと真剣さに、コウは一瞬目を瞠った。
しかし…
コウの心は、頑なだ。
そしてコウは、コウの体からアキ王子を離し、
突然コウの頭に浮かんだまま、テキトーだが、効果的だと思った言葉をアキ王子に告げた。
「なら…殿下。それを俺に証明して下さい。俺はこれから、魔物のうろつく北の荒れ地ハイリゲンへ…赴任します。俺は必ずハイリゲンに行くつもりでいます。もし、殿下のこんな俺への気持ちが本当なら、優秀な騎士や臣下誰一人も御自分に付けず、御自分の力だけで、アキ殿下ただお一人で俺に付いて来てください。仮にそれがもし出来たら、殿下のお気持ちがそれ程なら…俺は殿下との事を考えます」
もうコウは、自暴自棄と父への反抗心からハイリゲンへ行くつもりだが…
コウはこんな馬鹿らしい提案を言えば、アキ王子が絶対に絶対にコウに付いて来ないと踏んでいた。
そして更に…
今は高揚しているアキ王子の気持ちも一旦落ち付けば…
絶対アキ王子は「なら仕方ないな…次のアルファ探すか」とコウの事をアッサリ諦めてくれると思っていた。
贅沢三昧温室育ちの王子様が付いて来れるはずがないと。
それに第一、国王や周りの臣下達が、絶対にアキ王子にそうさせる訳がないと思っていた。
だが…
「本当だな?コウ…もし、私が一人で君に付いて行ったら、私の本気を分かってくれるんだな?私の事を君の番に考えてくれるな?」
アキ王子は、コウが予想していた反応とは違う反応をした。
「…」
えっ?アレ?っと言う顔をしつつ、思わずコウは言葉に詰まった。
だが…行き掛かり上、次にこう言うしか無かったし、まだコウの心の中に…
アキ王子は、絶対に一人で来るはずは無いと言う確信があった。
「ええ…その時は、殿下を俺の番に…考えます…」
それだけ言ってコウは立ち上がり自分のランプを持ち、体を翻し早足で、アキ王子を置いたままバルコニーから去った。
亡き母のベッドルームとその続きの部屋を抜け、ドアを開け廊下に出ると、王子の衛兵が2人ドアの前に立っていた。
そして、二階から一階に階段を降り、玄関を飛び出し母の離れの屋敷を出たら、玄関前に何人もの衛兵が立っていた。
これを見てコウは、やはり王子として日々沢山の人間に守られているアキ王子が、一人でコウに付いてくるなど絶対にあり得無いと再度思った。
だがそこに…
「コウ!」
開け放たれている玄関入り口から、屋敷内の階段を降りてコウを追ってきているアキ王子の姿がコウに見えた。
コウは急ぎ逃げようと前を見たが、目の前の何人もの衛兵が剣を抜き、コウに通さないと刃を向けた。
「止めろ!許さんぞ!すぐ剣を引け!コウは私のアルファ!運命の番だぞ!!!」
コウの背後で、そうアキ王子が叫んだ。
暗闇の静寂を、そのアキ王子の悲痛な声が震わせ、周りの木々から鳥達が飛び出した。
するとすぐに、即、まさにたったの一声で、刃は衛兵の鞘に戻された。
(運命の番…こんな俺に、まだそんな事を言うのか?こんな…こんなアルファの俺に…)
コウは、一瞬そう思い胸が又痛んだ。
そして、もう二度と会うつもりが無いアキ王子の顔を、最後にもう一度だけ、もう一度だけ…見たくもなった。
しかしコウは、結局アキ王子を振り返れず、暗闇の中に走り去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます