第11話11
当時5歳のコウは、そんな母が息を引き取るまで、ずっと母の手を握り続けた。
そしてその数年後…
母が最後まで呼んでいたギルが、母の若い頃の相思相愛だったアルファの婚約者だったのを知った。
そして、コウが産まれたいきさつも同時に知った。
城の使用人の立ち話を、たまたま通りかかったコウは物影から聞いてしまった。
昔、国王の誕生日パーティが城で執り行われた日…
突発的にコウの母がフェロモンの放出が止まらなくなり、その時、たまたま近くにアルフレイン公がいたのだ。
アルフレイン公は、コウの母のフェロモンに誘発されて暴走し、城のひと気の無い部屋にコウの母を無理やり連れ込み、泣き叫び拒絶していたコウの母に乱暴した。
酷い話しだが、フェロモンに常に支配されているアルファとオメガにとってこんな事はありきたりで日常茶飯事で…
互いに不幸だった事故として、又、アルフレイン公の地位もあり事は大事にされなかった。
その後、コウの母はアルフレイン公の子供コウを身籠っている事が分かり、婚約者とは破談になった。
そして泣く泣く、アルフレイン公の屋敷に連れ去られ、幽閉同然の中でコウを産み落としたのだ。
この状況からコウは性に関して、自分がフェロモン不完全症と言う病を持っていると言う事以上に…
その場の性欲に流されて関係を持つ事に激しい憎悪と嫌悪感を持っていた。
それこそが、コウの、崩れる事ない心の領域だった。
男は何かと、その時に湧き上がった性欲にどんな感情も勝てない。
しかし、黒く塗り潰されたコウのその領域は、そうでは無かった。
或いは、父のアルフレイン公への憎しみもあるからだろう。
コウはバッと、アキ王子の手から自分の手を取り上げ、同時にアキ王子の項から離れさせた。
「コウ?…」
アキ王子は、戸惑いと悲しみの入り混じったよう声で呟き、振り返ったままコウを見た。
コウの方は、そんなアキ王子の様子に一瞬心がズキっとしたが、自分の冷静な部分に自分を集中した。
どうしても、アキ王子の求愛は、アキ王子の為にも、アキ王子を守る為にも拒否しなければならなかったから。
だがその前に、王子と話しを続けるには、まず確認しなければならない事があった。
コウは、他の事からもアキ王子を守らなければならなかった。
「殿下…殿下は、今ご自身からフェロモンが出ておられますか?」
アルファなのに、コウにはオメガのフェロモンは感知出来ない。
もし、王子からすでにオメガのフェロモンが出ているなら…
近くにいる貴族や兵士などの中にいるアルファやベータがフェロモンに触発され理性を失い集まり出す。
この世界のベータはアルファ程ではないが、オメガのフェロモンを感知するし、嗅げば興奮する。
コウは、剣の腕前には自信があるし、いざとなればアキ王子を守る事に自信があったが…
少しでもアキ王子を、コウの母が受けたような危険から遠ざけたかったし、まずそれをしなければならなかった。
「いや…フェロモンは、薬が効いて、出て無い…」
アキ王子の答えに、コウは安心したと同時に、フェロモンも出てないのに、これ程アキ王子が心も体も高揚しているのが不思議だったが…
それなら今ここで、アキ王子とまだ話しが出来ると口を開く。
そしてさっきからのかしこまった口調より、それはいつものコウのモノに近くなっていた。
「殿下…俺は、この世に産まれたオメガは、全て幸せになるべきだと思っています。殿下…貴方(あなた)もそうだ。一時の衝動や感情に流される事無く…」
そう言いながらコウは、あまりにアキ王子の額から流れる汗が酷いので、コウの右手の人差し指で拭ってやった。
「コ…コウ?…」
アキ王子の美しい唇と声が、わなわなと震えていた。
それを見てコウは又動揺したが、それでも自分の冷静な部分をなんとしても手放すまいと、わざと続けて冷たく告げた。
「もう一度言います。殿下、俺の事は忘れて下さい。貴方を幸せに出来るのは、俺みたいなクソ中途半端なアルファじゃありません…」
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