第4話4

コウは、アキ王子が自分の目の前にいるのがやはりまだ信じられなくて、顔と体をガチガチに固まらせた。


しかし、いくら礼儀知らずと周りの人間達に揶揄されているコウでも、自国の王子を前にしていつまでもそうしていられない。


上半身だけ起き上がっていたコウは、ちゃんとその場で跪きアキ王子に頭を下げようと、体勢を変えようと動きかけた。


しかし…


「いいよ!そのままで」


アキ王子は、コウの左肩に右手で触れ穏やかにそう言うと、ランプを下に置き、急に膝を折り、ガバっとコウのすぐ目の前に座りこんだ。


「うぉ?!…」


戸惑うコウから、声が出た。


行動を止められたせいもあったが、何よりもコウとアキ王子の顔がめちゃくちゃ近い。


コウもオメガの美形の男女を沢山見てきたが、やはりアキ王子は更に別格に美しいく気品が溢れ出ている。


バルコニーの石材の床に置いた、コウと王子の二つのランプの灯りだけでもそれは分かる。


そして、長い金髪も相まって神格さえ漂う。


そのアキ王子の美貌が近い距離で、マジマジとコウの顔を覗きこんでくる。


(何だよ…この状況は?…やっぱ、フェロモン不完全症の出来損ないのアルファがそんなに珍しいか?)


コウにしたら、小さい頃から人から好奇の目で見られるのはいつもの事だが…


大抵遠くからで、こんなに近くからマジマジ見てくる者は珍しい。


普段暴れん坊のコウもそう思いながら、思わずその場で上半身が後ろに引く。


しかも、しばらく、アキ王子はじーっと無言でコウを見詰め続け、凄く妙な雰囲気になる。


「あっ…あの…」


流石に、アキ王子が何がしたいのかが全く分からないコウが声を出す。


するとアキ王子は、本当に急に我に還ったようにハッとすると、にっこり微笑んで言った。


「あぁっ…つい…すまない。あの…横に…コウの横に座ってもいいかな?」


王子ともあろう者が、格下のコウに何故そう丁寧に尋ねるのかもコウは分からないが、とりあえず返事をした。


「あっ…ハイ…」


すると、アキ王子は、コウと体が着くか着かないかの絶妙な位置に座る。


(マジか!ちけーな…)


オメガのフェロモンが感知不能のアルファのコウに、勿論、アキ王子のフェロモンは分からない。


だがコウは、居心地に慣れず焦って前を向くしか出来ない。


アキ王子は、床に三角座りをして、コウと同様前を向いている。


そして又、コウと王子の間に、無言の…妙な間が空く。


コウは、まだまっすぐ前の空を見ながらだんだんいたたまれなくなってきた。


そして、緊張してくると出てくる、公爵子息とも思え無い、貧乏揺すりと右親指の爪を噛む癖が発動しそうで…


コウは、必死で耐える。


(何だよ?!俺に何の用だよ?やっぱアレか、昼間の俺が逃げたのが気に触ったか?)


こんな状況なら、夜中邂逅するなら、モンスターに襲われた方がいいともコウは内心思う。


耐久性をエンチャント済みのコウの剣で、モンスターをバコボコにするだけで済む。


星夜の静けさが、コウには余計に深く感じる。


そして…


かつて、幼いコウと母が見たあの双星が…


今は、コウとアキ王子の頭上に明るく瞬く。














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