第2話2
「クソがっ!」
コウは、父への鬱憤で貴族らしくない悪態を付き、同じく貴族らしくなく自ら厩から自分の黒馬を出し、跨がると屋敷の外へ飛び出し走り出した。
後ろからは馬の世話人の一人、同い年のジョーンズが、やはり馬に乗り付いてくる。
ジョーンズは、ベータだ。
コウは小さい頃から、同じ貴族の気取ったアルファの子供達より、ジョーンズと遊ぶ方が好きだった。
ジョーンズと気を使わず野山を駆け回り、泥だらけになって遊ぶ方が合っていた。
そして今でも、コウが何処かに行く時は、ジョーンズはこうやってよく付いて来る。
やがてコウ達は、少し幅の広い川岸を疾走した。
春の水辺の、緑と花の香りの爽やかな風を切りながら。
するとコウの目に、対岸に、コウとは逆の方向から馬車が来たのが見えた。
その馬車の造りや装飾と、車体の上部からたなびく国旗、前後に何人もの馬上の騎士を引き連れている事から、王族が乗っているのが分かる。
王族の馬車が通れば、貴族や平民は例え川の向こうでも立ち止まり見送るのが礼儀だ。
コウも面倒臭いと思いながら、ジョーンズと共々馬を止めて降り、そうする事にした。
しかし…
コウが、馬車を目を凝らして見ていると…
不意に走る馬車のガラス窓が開いた。
そして中から、長い金髪のたなびく美青年の顔が見えた。
コウは、ピンときた。
彼はきっと、これから結婚相手を探しコウのアルファの兄達に会いに行くアキ王子だと。
流石にオメガだけあり本当に美しいが、更にコウが今まで見た誰よりも美しかった。
しかし、不良品のアルファの自分には関係ない王子様。
そう思いながら、すでに礼を続けていたジョーンズの横で、コウも一応頭を下げた。
すると、突然、王族の馬車や騎士達の馬が急停止した。
そして馬車から、コウの予想通りのアキ王子が出て来た。
長身で体格も良く、黒の長いジャケットのジャストコールも様になっている王子は、騎士の一人を乗っていた馬から下ろし、次に馬にその王子自ら乗り…
お付きの者達が慌てる様子の中、浅い川を渡って、コウ達の所に向けて来ようとしていた。
だが、流石に川の深さを探り探りで馬はほぼ歩く速度で、その王子の後を、騎士達の乗る馬が同じ速度で追いかけた。
「ヤベ!何で来るんだ!」
コウは驚き、てっきり自分が何か王子の気に触る事をしたのだと思い込んだ。
コウは、常に父や兄達から邪魔者のように扱われてきたので、ついいつも、何事も自分に非があるという思考回路になってしまう。
「オイッ!逃げんぞ!」
コウはそう言い、同じく驚くジョーンズの腕を引き馬に乗せた。
「ええー!何で逃げるんですか?!」
ジョーンズは、大声で戸惑った。
「いいから、さっさと逃げろ!」
コウは、ジョーンズの馬を走らせると自分も馬に飛び乗り、速いスピードで森の中を走った。
そしてすぐ、ジョーンズの前を走り、彼を誘導した。
しかし…
アキ王子も川を渡り切ると途端に速いスピードで、騎士数人を連れてコウを追いかけ付いてくる。
(チッ!何で追いかけてくるんだよ?!)
コウがそう思い逃げても逃げても、王子はぐんぐん追いかけてくる。
(何なんだよ?!!!)
コウはかなり焦りながらも、普段この辺りを馬で駆け回っていて、父や兄達と違い土地勘があった。
だから、恐らくそれが無いアキ王子達をやがて巻いて逃げきった。
やがてやっと馬を止め降りて、コウとジョーンズは、森の木の切り株に座り休憩する。
「コウ様!どうして逃げたんですか?!」
ジョーンズが不満気に聞いた。
「何か…俺が無礼な真似でもしたんじゃないかと思って…」
コウは、ブツブツと呟くように言った。
「コウ様、第一何もしてなかったじゃないですか!それより逃げた方が失礼ですって!しかし…あの美しい方は、多分アキ王子様ですね。噂通りお美しい方だ。きっと屋敷に帰れば、俺でも又遠くからでもお目にかかれるかなぁ?…」
ジョーンズが、顔を赤らめて言うので、コウは呆れて溜め息をついて思った。
(屋敷へ帰ってアキ王子がいたら、絶対に、絶対に会わないようにしよう…)
コウはそう思いながらも、あのアキ王子の美しい顔を思い出した。
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