群衆の中で

柊 大介

東京のある場所で、、、

諸君、私の身の上話を聞きに来てくれたのだから自己紹介をしよう。私の名前は小崎春、私は元々そこらの男性社員だったが今はスリをしている。如何にしてそうなったか話すことにしよう、私はk線で通勤していた。k線は朝はいつも混んでいて痴漢が多かった、大井町を出たあたりだったか。車内で群衆に揉まれ窮屈にしていると、一人の女性が私の隣で大声を上げた。そしてその瞬間、私の手は高く天に上げられた。そこで察した、私は不幸にも痴漢の冤罪にあったのだ。多くの人が見ていたはずなのに無視する人々、それを見て多くの絶望感を感じた。この絶望感はそう、私が学生の頃良くいじめられてた時のようだ。教師含め誰からも無視されいじめられて、それでも頑張って勉強しある大学まで行き会社に勤めて2年目の出来事。目の前が真っ暗になる、駅員が呼んだ警察に私はやってない、指紋を取ってみてくれと言ってもまともに掛け合ってくれない。私は執行猶予1年で釈放された、彼女に和解金を払った時にふと彼女の顔を見た。笑っていた。やっぱりそうかと思った、薄々勘づいていたがやはり。そしてクビになった会社を去り新橋の飲み屋街を歩きながら思った。人なんて当てにできない。こいつらを食い物にしてやろう。あの時無視した群衆に仕返しをするのだと。そして私はスリを始めた、コツもすぐ掴めた。そして私は結局ここに居を移してこの生活を初めてから一年と半年は経つ。さぁそろそろ朝ラッシュだ、稼ぎに行こう。行く前に私がミステリー小説に憧れ昔から趣味でやっていて得意である変装をしていく、女装だ。なぜ女装か、それは後で話す。s線の赤羽に来た、最近ここからスタートする、ここが気に入ってるのだ、でも同じ線ばっかはやらない。コレは私のポリシーの一つ目だ。そして乗るのは女性専用車だ。そうこれが理由だ。女性専用車には痴漢が居ないとみんな思ってる上監視カメラが設置されるニュースが流れたからみんな油断しているのだ。しかし実態は監視カメラは1号車にしかなく女性専用車の10号車には無い。しかしみんなあんな大々的にニュースなんかやるもんだから女性専用車にもあると勘違いしてるカモも多い。電車の中に入りスリを始める、ずーっと動くと怪しまれるので自分の近くの二人に絞ってスリをする。そして取った後ポケットの中で財布を開け両指で札束を掴んで自分の財布に入れその後、札一枚残した財布を戻す。何故札を一枚残すか、それは私がスリをやったという証拠が掴みづらい。と言うもののもしかすると帰りの交通費くらいは残してやろうと言う私の無意識な良心なのかも知れない。駅が近づいてきたブレーキをかけ始める。東京の電車はブレーキが急だから身体が密着しても気にされずらい。このタイミングで財布を戻す。十条駅に着いた、ここでは降りずに乗り換えが多い池袋で降りる。そっちの方が怪しまれずにドロン出来るし他の路線でもスリをするからだ、一つの路線に絞ると足がつく。なので私はy線に乗り換え今度は田端で因縁のk線に乗り換えた、ここでのスリは気合いが入る、なので私は上野駅で降りると乗り換えずそのまま次の電車でスリをやった、そしてt線に神田で乗り換え新宿まで来る頃には十数万円にも額が膨らんでいた。そして私は夕ラッシュまで家で時間を潰し夕ラッシュになると今度は地下鉄で同様な事をする。特にg線とm線は車体が小さく短いから混みやすい。朝と違い客が分散して少しだが空くことが多い夕ラッシュにはここを狙うことが多い。それにこの二路線は都心完結なので別の路線に行きたくなった時行きやすい。そして色んな地下鉄でスリを行いm線で新宿に戻ってきたら赤羽にある家を目指す。しかし嗅ぎ付けられるとまずいのでその電車でスリはしない、これで家に帰って金額を数えて見れば一日二十数万は当たり前にある。実に素晴らしい生活だ。そして私はそれを繰り返す生活を送っていた。そんなある日のことである。私はいつも通り、いつものタイミングでスリをした。そして池袋でおりとんずらして人気の無いコンコースで金額を数えようとポケットの中から財布を取り出そうとした時、後ろから声をかけられた。「あなた、私の財布盗みませんでしたか?」僕はびっくりした。その人はとても美しい女性で見覚えのある女性だった。しかしこの人はいつも窓の外を見ていて完全に隙があった。なぜバレたのだ?どう切り抜ければいい?私はコンコースの隅で呆然とする、しかし私は財布の中だけ盗みあとは元に戻しておいてあるから、そちらの勘違いで済ませられる、そして彼女に言った。「私はあなたの財布なんてとっていませんよ、あなたのカバンの中にあるはずです。」というとすぐにこう返ってきた。「いえ、見たいのは私のカバンの中ではなくあなたの財布の中なのです。見てみてください。」私は彼女が何を言っているのかわからなかったがとりあえず財布を見てみる。しかし中身を見られたってどおって事ない、財布の中身を見るまでその人の本当の所持金なんて分かるまい。そう思い開いてみた、1,2,3,4,,,,,,万札の束をよくみてみる。私はそこで異変に気づいた、万札の束の中に何か挟まっている。「お気づきですか?そのお金がもし私のお金なら束の中に小さな手紙が入っているんです、今万札でない紙切れを見つけたと言うなら、、、」しまった。これは言い逃れできない。彼女は偶然にも私の犯行を見破ったのだ。そう思っていると彼女は続けて「良く見ない人がほとんどですが窓の反射、あれを時々暇つぶしに見入ってしまうんです。それであなたを見つけて捕まえようとずっと計画していたんです。」まさか、ではあの手紙は捕まえるための証拠にするために用意した物だったのか?そんな疑問すらも彼女に問えなかった。逃げる事も出来なかった。頭が真っ白になり、自分の未来を考える。この先どんな暗いことが待っているのだろう、そう考えている所に彼女は私にこういった。「その手紙の内容をあなたに見てほしいのです。」どうせ読もうが読むまいが変わらん。破ろうと思った紙切れ、しかしそう言われると内容が気になってきた。そして私は内容を読みはじめる、そして内容を読んで私は驚愕した、内容は自分を男として見抜いていたこと、そして自分は私の高校の同級生で自分に恋愛感情を持っていたことであった。読み終えた途端涙が止まらなくなった、何かを求めたくなった。池袋駅、人の少ないコンコースの隅で私はいつの間にか彼女とハグをした、彼女は私がこんなにも無礼なことをしたのに、自分を優しく受け入れてくれた。いつぶりだろう、いやもしかすると初めてかもしれない。人の温もりを感じたのは。コンコースの隅で抱き合う女装した私と彼女、はたから見れば二人の女性が駅で恋人のように抱き合う少し不思議な光景かもしれない。しかし私にとっては群衆の感情にとらわれず一人の人間の確かな感情を始めて感じた、とても忘れられない瞬間であった。 完

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群衆の中で 柊 大介 @820327

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