第4話 恩返し作戦

「ありがとうございました!」


 店の外へと出ていくお客さんに、頭を下げる。

 今日はなんだか忙しかったな……ふぅ、と、ため息をひとつ。


「お疲れ様、安藤くん。もう上がっていいよ」


「! あ、もうこんな時間」


 かけられた声に、時間を確認すると、シフト終わりの時間になっていた。

 今俺は、コンビニでバイトをしている。


 声をかけてくれた先輩に、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます、見落としてました」


「あっはは、いいのよ。

 でも、最近やけに熱心ね、シフトもたくさん入れてくれるし。

 もちろん、こっちからしたら大助かりなんだけど」


「ちょっと、要りようでして」


 ぼくがこのコンビニでバイトしてから、一年近くが経過していた。

 高校生になったぼくは、少しでも生活の足しになればと、バイトを始めたのだ。


 まあ、未だお金受け取ってもらえないんだけど……

 学生だし、好きなことに使いなさい、と毎回断られてしまう。


「ふぅん……もしかして、彼女?」


「な、ち、違いますよ!」


 休憩室に移動し、荷物を纏めるぼくを、先輩はからかってくる。


「お世話になってる人への、恩返しと、いいますか」


「……そっか。だから、最近頑張ってたんだね。

 でも、やっぱり例の彼女ちゃんじゃない」


「ぬぐ……違いますって」


 現金で受け取ってもらえないのなら、なにか物をプレゼントすべきだろう。

 そう考えたぼくは、サキやおじさん、おばさんが欲しがっているものを、さりげなく調べた。


 それらを買うために、明日のサキの誕生日まで、頑張ってきたわけだ。


「その気持ちだけでも、喜んでくれると思うわよー?」


「そういうわけにはいきませんよ」


 この後は、プレゼントを買い、帰ったら渡す。

 本当なら、誕生日当日に渡した方がいいのだろうが……前日だからこそ、サプライズ感があるというもの。


 それに、これまでもサキの誕生日には、ささやかながらプレゼントは送ってきた。

 今年もそうだと、身構えているはず。

 だからこそ、サプライズが効く。


「安藤くん、真面目だからきっと真剣にプレゼント、考えてるんでしょうね」


「そ、そんなハードル上げないでくださいよ。

 それに、真面目なんて……」


「私の目から見れば、充分真面目よー?

 まあ、そんなキミの彼女にあたふたする顔は、面白いけどね」


「あ、はは……ち、違いますから」


 バイト中は、サキと一緒ではない。

 だから、ぼくがバイトをしている最中に、サキがちょこちょこ現れることがある。


 ぼくとサキの関係は、お世話になっている家の娘さんと話しているが……

 すっかり、『彼女』と思われてしまっている。


「あははは、顔真っ赤よー?」


「せ、先輩がからかうからでしょう!

 というか、仕事はいいんですか」


「今きゅーけーちゅー」


 ホントに、この人は……事あるごとに、ぼくをからかってくるんだから。

 それでも、感謝はしている。いろんなことを、教えてくれるし、親身になってくれるし。


 バイトを続けられらのも、先輩がいたからってのも大きい。

 本人には決して、言わないが。


「き、着替えますから」


「はいはーい」


 ぼくは、更衣室に入って着替える。

 今日は、この後やることがたくさんあるのだ。

 そのために、バイトを早く上がらせて、もらったのだ。


 プレゼントするものは、すでに決め、予約できるものはしてある。

 とはいえ、はやる気持ちは抑えられない。


 サキたちには、いつも通りの時間にバイトが終わると伝えてある。

 プレゼントを買う時間を含めても、いつもより帰る時間は早いはずだ。

 これもまた、サプライズのひとつ。


 本当なら家族全員揃ったタイミングが良かったが、おじさんはまだ帰っていないだろうし、仕方ないか。


「では、お疲れ様でした」


「はーい、お疲れ。頑張れ少年」


 きっと、先輩には今日のことを、また根掘り葉掘り聞かれるんだろうな。

 まあ、最近は無理を聞いてもらっているし、それくらいはしょうがないことだ。


 コンビニを出たぼくは、目的地へと向かう。

 買うものは、決めてある。資金も、充分だ。

 プレゼント、喜んでくれるだろうか?


「あの、予約していた安藤ですが」


 三人へのプレゼント、三件を回る。

 バイト終わりにはなかなかハードな動きであるが、この後のことを思えば、なんでもない。


 おじさんとおばさんには実用的なもの、サキは以前より入念な調査を行ってきた。

 たとえば買い物中、ふとした視線。たとえば友達に漏らしていた、ほしいもの。


 それら加味し、選んだもの。

 日々の感謝という名目にドキドキすると同時に、別の意味でドキドキもする。


 もしも、プレゼントを喜んでもらえなかったら……

 その気持ちを、振り払う。


「大丈夫、きっと喜んでくれる」


 サプライズのプレゼントって、こんなにも緊張するものなのか。

 走り回っているせいもあって、動悸が激しい。


 買い物を終え、ついに帰宅する。

 電気は……ついてないな。まだ明るいから、かな。

 いつもはもっと遅いから、暗くなっているし、電気はついている。


 ふぅ……その場で何度か、深呼吸。

 まだぼくが帰ってこないと思っている、サキとおばさんを、まずは驚かせてやろう。


 気持ちを整え、ぼくは足を踏み出す。

 手には、プレゼントの袋。鞄に入りきらなかったので、プレゼント用の袋に詰めてもらって外を歩くのは、少し恥ずかしかったが。


 この後にある光景を思えばこそ、気分も上がる。

 ぼくは、玄関の扉に手をかけた。


「ただいま!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る