第4話 ゴール

 それから、僕は仮面の射す光の方に向かって走った。山を越え、谷を越えた。目の前に海が現れた。

「おい、どうするんだ?」

(何も問題ない。そのまま走れ。)

「走れって、水の上を走れるわけがない!僕は人間だぞ!」

(今のお前は、仮面ランナーだ。)

「待て・・・」

僕の意思に反して、足は速度を上げた。海に差し掛かった。僕は思わず目を閉じた。バランスを崩しかけたので、目を開けた。

「水の上を走ってる。走ってるぞ!」

(だから、問題ないといっただろうが。)

「すごい!このまま一気に行こう!」

(落ち込んだり、元気になったり、いそがしいな。)

僕は怖いものが苦手で、夜の海は真っ暗で物凄く怖かった。眠かったけど、寝たら海に落ちてしまうので、寝るわけにいかなかった。半分意識を失いかけながらも、僕は走り続けることができた。寝かける度に、仮面が声をかけてきたからだ。

(お前、ここで死んでもいいのか。彼女に二度と会えなくなってもいいのか。)

僕は仮面のせいで彼女に会えなくなったのだが、この時は仮面のお陰で助かった。そして、ついに海を越えた。すでに朝になっていた。

「やった…」

(よく頑張った。あと半分もがんばれ。)

「・・・」

僕は絶句した。それからも、無言で走り続けた。人にぶつからないように海沿いを走った。ほとんど意識はなかった。次に意識を取り戻したのは、仮面の声が聞いた時だった。

(生きてるか。)

「・・・あっ、今生き返った。」

(良かった。あと少しだ。)

「ラストスパートか。」

(そうだ。最後に言うことがある。)

僕は別れの挨拶をすると思っていた。

(帰りはどうするんだ?)

僕は予想外の言葉にショックを受けた。

(着いたあと、仮面が外れる。そしたら、お前はただの人間だ。)

僕ははっとした。帰りも同じように帰れると思っていたからだ。僕は言いようの無い怒りで満ち溢れた。

(がんばれよ。)

僕は限界を超えた疲労で怒りを制御できなかった。そして、見えてきた遺跡を目掛けてジャンプしたあとキックを入れた。

「やあ!!」

崩れ落ちる遺跡の中を僕は通り抜けた。その時、宝玉の光は消えた。

(よくやってくれた。俺の真の願いはこの遺跡を破壊することだった。帰りは問題ない。さらばだ。)

そう聞こえた気がした後、仮面が外れた。その後、光の巨人が僕に手を差し伸べてきた気がした。気づいた時、僕は彼女の家の前にいた。

「あれ?どうして…?」

家の中から、彼女が出てきた。

「あっ、サブロウさん。」

「いやあ…遅れてごめん。もう大丈夫なの?」

「はい。それより、中にどうぞ。」

僕は彼女の家に上がった。

「座ってて。紅茶を用意するから。」

僕は座り、部屋を見た。ソファーの上に猫のぬいぐるみが見えた。

「これ、君が作ったの?」

「そう。」

「すごいな。」

「そんなことないよ。はい。庭のリンゴで作ったアップルティー、良かったら飲んで。」

「ありがとう。おいしい。」

「良かった。」

「元気になってて嬉しいよ。」

「こちらこそ来てくれてうれしい。あら、頭に何かついてる。石?」

「あ、それは…あ!今日は何日?」

「今日は12日。」

「良かった。休みだ。」

「どうしたの?」

「あ、いや、そうだ、上司に伝えることがあったんだ。それじゃ、お邪魔しました。」

僕は慌てて彼女の家を出た。僕は宣託支店に着くと、ボランティーノさんに声をかけた。

「ボランティーノさん、すみません。仮面を失くしてしまいました。」

「いいんだ。これでやっと極秘プロジェクトは完成した。」

ボランティーノさんは映像を僕に見せた。

「これは…!」

それは、世界地図で一時間ごとに僕が移動した地点を記録したものだった。行きもかなりの速さで進んでいたが、帰りはその何倍も速かった。

「昔、祖父タランティーノが見たという光の巨人。恐らく君は彼に連れられて帰ってきた。宝玉が言っていた遺跡に眠るという光の巨人、レイに。とにもかくにも、君に頼んで良かった。僕では出来る気がしなかったから。これはお礼のしるしだ。」

僕は、彼女に電話をかけた。

「あ、ヒナギクさん。また行ってもいいかな?」

「いいよ。私もまた来てほしいと思ってたところで。」

「良かった。お土産を持っていくので、お楽しみに。じゃあまた。」

僕はボランティーノさんにもらった人形を鞄に入れた。

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失われた幸せを求めて ソードメニー @sordmany

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