第3話 加速

 僕はいつもより足が速くなったことに驚いた。このまま走れば、日暮れ過ぎには着けるだろう。それにしても、周りの視線が気になった。過ぎていく人たちが僕を不思議そうに見るのが走りながらでも分かった。僕は人通りの少ない方に行きたかった。線路沿いの道は人通りが少なくて一安心した。気づくと、電車が横から通り過ぎて行った。この時、驚くことが起こった。僕を追い越したはずの電車が徐々に遅くなっていった。電車と並走した後、いつの間にか僕が電車を追い抜いていた。もう直ぐ次の駅に着くから電車が減速しているのか、と思ったが、そうではなかった。周りの景色が電車に乗っている時と同じように流れていた。僕は電車より速くなっていた。このままでは人にぶつかって大けがを負わせてしまうかもしれない、と思い、咄嗟に僕はジャンプした。

「とお!」

僕は、フェンスを越えて線路内に侵入した。今の僕は電車より速かったので、轢かれる心配はなかった。僕は駅に差し掛かった。前に停車する電車があったのでジャンプして飛び越えた。僕は速度を上げるつもりはなくても足はどんどん速度を上げた。あっという間に宣託市のはずれの丘が見えてきた。僕はどうやって止まるのか、本当に止まるのか不安だったけど、一つの家にぶつかる寸前で止まった。そこは彼女の家だった。大きなリンゴの樹がある庭に僕は倒れた。まだ夕方で、オレンジ色の空が目に入った。仮面の力で不思議と体に疲れはなかった。

(仮面?そういえば、この姿じゃ彼女に会えないじゃないか!)

そう思った僕は、仮面を外そうとしたが外れなかった。僕は怖くなって無理やり仮面を外そうとした。その時、仮面から声が聞こえた。

(そんなことをしてもむだだ。)

「誰だ!?」

(俺はバリエルだった者だ。仮面に付けられた宝玉は、バリエルの分身といえる。それが俺だ。)

「意味が分からない。とにかくこの仮面を外してくれ!」

(それなら、なおさら俺のいうことを聞いてもらう。)

「どういうことだ!」

(むかし、バリエルは消滅するとき石化した。その一部を人間が持ち帰った。それが俺だ。)

「どうしたいんだ?」

(俺はもとの場所にもどりたい。それだけだ。)

「そうすれば仮面が外れるんだな?」

(そうだ。もう少しだけ体を借りたい。)

「・・・仕方ないな。もう少しだけだぞ。」

僕は立ち上がった。すると、目の前にリンゴが落ちてきた。僕は喉が渇いていた。大きなリンゴの樹を見て、お辞儀をした。

「有難うございます。頂きます。」

僕はリンゴを一口齧った。甘い果汁が口を潤した。

「回復した。今回は精神が。」

(人間もたいへんだな。)

「方向はどっちだ?」

(あっちだ。)

宝玉から光が伸びた。僕は、屈伸をして、足を踏み出した。

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