第6話 動き出す規格外パーティ
冒険者ギルドから指定された宿に到着した。
廃墟の街を見た時はどうなるかと思ったが、無事に寝泊まりできる場所が確保できたのは素直に嬉しい。
これで当面の活動拠点も得られたし、もう我慢しなくていいな。
千年後の迷宮が俺を呼んでいる!
はやる気持ちを抑え、一段落ついた仲間たちに向けて言う。
「みんなやりたい事があるだろうから、ここからは自由行動にしよう。俺は迷宮へ行ってくる」
じゃ、と片手をあげて歩き出そうとすると、ニーナが素早く襟首を掴んできた。
「ちょっとまって。迷宮に行くとは思っていたけど、みんなの行動が決まってからにして」
「えぇぇぇ。うちのメンバーなら何があっても大丈夫だっての」
歴戦のパーティメンバーたちだからな。心配するだけ無駄だ。
それよりも迷宮が俺を呼んでいるんだ。
「ダメよ。逆にこの街が大丈夫じゃない可能性があるわ」
「……」
困った、それを言われると反論ができない。
渋々他の仲間たちの方へ向き直る。
「じゃあみんなはどうするんだ?」
俺の問いかけにジークが優雅な礼をして答えた。
「本当はリュウイチ様について行きたいところですが、自分は情報収集に行ってきます」
ジークは統治の状況や街の情勢なんかを知るのが好きだから、こういうことは率先して行う事が多い。
ジーク曰く、それが俺たちにとって一番役に立つらしい。
「オイラは、冒険者ギルドで見かけた武器が気になって仕方がねぇから、武器屋や鍛冶屋を見てくる」
オーガ種のドルディオが、鼻息をふんと鳴らして答える。
「さっきの黒い魔物の素材はいいのか?」
大喜びで収集していたはずだ。てっきり新素材を使って色々試すんだと思っていた。
「くぅぅぅ! そっちもやりたいが工房がねぇんだ。だからまずはこの時代の武器や設備を知るところから始めることにした」
悔しそうに言っているが、ドルディオの表情は極めて緩い。この時代に来て一番楽しんでいるのはドルディオじゃないだろうか。
「アタシも、色々な店を見て回ろうかね。魔法薬の材料なんかもだけど、そこら中にある魔道具も気になるからね」
マヤも物を作る側だからなのか、魔道具に興味が湧いているようだ。
「魔道具といえば冒険者ギルドにあった、魔力紋を読み取る魔道具ってのが一番驚いたな」
あんな抽象的な概念でしかなかった魔力紋が解明されて、おまけにそれを読み取るって、どうなってるんだ。
「そういうのもあったわね。なら色々な物を見ておこうかしらね」
ふふ、楽しみねなんて言っているが、錬金術師として高い技術を持つマヤは、魔道具関連も得意だったからな。
この時代の技術をキッチリ調べてきそうだ。
そんなことを考えていると、手を上げて小さい体をピョンピョン跳ねさせている獣人の子が目に入る。
「はいはーい。アシュレーは食べ物屋さんに行きたーい」
満面の笑みでアピールする姿に和む。が、この要望はちょっと考えたほうがいい。
知らない街でアシュレーが一人っていうのは危険だ。
なんせこの容姿だからな。不埒な輩が現れる可能性がある。
どうすべきかと思っていると、クラリスから提案があった。
「それなら、わたくしと一緒にいきましょうか。この街の方たちがどのような恵みで暮らしているのか知りたいですし」
「うーん。クラリスとアシュレーじゃ余計に絡まれるわね」
二人とも見た目は美女と美少女だからな。ニーナの懸念もよくわかる。
首を傾げて考えていたニーナは何か閃いたように手を叩いた。
「セシルは何かするつもりなの?」
「我はこの街の強者を探しながら修行をする」
竜人種のセシルは目を瞑り静かに答えた。
「なら私にいい案があるの。きっといい修行になるわよ」
ほう、とセシルが片目を開けてニーナを見る。
「この二人を護衛するのよ。全く知らない街で、二人に対して放たれる気配を敏感に掴み、対処する。しかも千年後だから未知の手段があるかもしれないのよ。こんな機会じゃないと、できない修行なんじゃないかしら」
ニーナの話を聞いたセシルが、目をカッと見開く。尻尾の揺れも激しくなっている。
「さすがはサブリーダー殿だな。素晴らしい内容だ。引き受けた」
見事にニーナに乗せられた形だが、誰も損をしていないので、まぁいいか。
「対処は最低限にするのよ。本当に危害が加えられそうな攻撃だけを見極めるの」
「ずっと神経を研ぎ澄ましておくということか。ふふ、やってやろうではないか」
あぁ、セシルの尻尾の揺れがさらに激しくなった。
ニーナは得意げに頷いている。
「で、ニーナはどうするんだ?」
他のメンバーは決まったが、言い出しっぺのニーナはどうするつもりなんだろうか。
「私はリュウイチについていくわ。迷宮に行くんでしょ?」
「そのつもりだが、俺は一人でも問題ないぞ。アシュレーたちと一緒に街を見てきたらどうだ」
慣れ親しんだ迷宮だからな。千年の変化はあるかもしれないが、それを含めても迷宮に関してはかなりの自信がある。
「それはダメ。リュウイチを野放しにするのが一番危ないんだから。あっちにはセシルが付いてくれるから、私はこっちを見張るわ」
一番危ないってのは言い過ぎじゃないか?
ニーナの俺への評価はどうなっているんだろうか。
しかし絶対に譲りませんというオーラを放っているニーナに逆らうのは危険だ。
ここは戦略的撤退を選択する。
「わかった。くれぐれも無理はするなよ」
「だれに言ってんのよ。当たり前じゃない」
言葉とは裏腹に楽しそうなニーナを見て俺は気がついた。
さては迷宮に行きたかったんだな。
仲間たちと別れ、ニーナと共に迷宮門を管理している建物にやってきた。
中に入るための列に並び、ニーナに話しかける。
「時代は変わっても、ここは相変わらず混んでいるんだな」
「食べ物や木材に鉱石、薬草に魔石。なんでも採れるからね」
「便利なのはわかるが、千年経っても迷宮の資源頼りってのは、良いことなんだろうか」
「使えるものは使っちゃえばいいのよ。資源が取れなくなったら、その時考えればいいんじゃない」
あっけらかんと言い切るニーナを見て感心する。
確かに、今心配しても仕方がないな。
それこそ千年も資源を産出してきた迷宮だ、不安を覚えても意味がない。
「なるほど、確かにニーナの言う通りだな」
「でしょ」
ニーナと話している間にも列は進み、迷宮の出入り管理をする魔道具で魔力紋の認証を行う。
この魔道具も千年前には無かった物だ。
もうすでに俺とニーナの情報は登録されているようで、すんなりと認証作業は終わった。
後はこの迷宮門とよばれるアーチをくぐり抜ければ迷宮に入れる。
「ねぇ、この門ってさ」
「あぁ、これは同じなんだな」
千年前と変わらない迷宮門を、感慨深いものを感じながら通る。
その瞬間、まばゆい光と共に浮遊感に包まれ、気がついたら場所が変わっていた。
見慣れた迷宮内部の景色だ。
「特に変わったところもないな」
「いつも通りの光景ね」
迷宮第1層。
広大な自然が広がる空間だ。
草木が生え、風が吹き、水が流れ、日が照らす、迷宮の外と全く変わらない景色が広がっていた。
この場所は迷宮門があるので危険は無いが、ここから離れると魔物が出現する領域になる。
基本的には、迷宮門に近いと魔物は弱く、離れると強くなっていく。
昔は冒険者の経験と勘で資源を採る場所を決めていたが、今は迷宮ランクによって自分に合ったエリアがわかるのだという。便利な世の中になったものだ。
「で、リュウイチは迷宮で何をするの?」
「女神のいた場所に行こうと思う」
千年前、迷宮の最下層で女神と出会ったことが、この時代に来たキッカケなんだ。
女神との邂逅はたった一度だけだったが、その時に千年後の同じ場所に来るように言われている。
「なんだ、最下層に行くだけなんだ。よかった」
俺の答えを聞いたニーナは、拍子抜けしたような表情をした。
「よかったってどういうことだ?」
「私はてっきり、1から探索だって言って全階層の完全制覇をまたやるんじゃないかって思ってたのよ」
さすがはニーナ、全階層完全制覇はモチロンやるつもりだ。
だが今は、最下層の確認が先だな。
「女神との約束があるからな、完全制覇はその後だ」
「あ、やっぱりやるんだ」
ガックリと肩を落とすニーナ。
おかしいな、迷宮の探索がしたくてついてきたと思ったんだが、もしかして調子が良くないのか?
そんなことを考えていたら、ニーナが再び動き出した。
「完全制覇のことは一旦忘れて、とりあえず奥に行きましょ」
「おう」
ほどなくして、最下層に辿り着いた俺たちは絶句していた。
迷宮の第5層、一番深い層なので最下層や最深部とも呼ばれている場所。
1層から4層まではとても広い空間になっているのだが、5層だけは小さい部屋になっている。
魔物すら現れない神殿のような部屋。
その部屋の奥、これまでは壁だった部分が崩れ、壁の向こう側が見えていた。
黒い大地と黒い空が続く異様なエリアが。
あんなエリア見たことがないぞ。
崩れた壁の近くに行くと、膝丈くらいの石碑を見つけた。
これも千年前には無かった物だ。
そこに書かれてる内容は……。
『迷宮の階層を追加したわよ。楽しんでいってね。女神より。PS 今後は勝手に女神の領域に入らないように』
「ねえリュウイチ、一旦かえ……」
「うおおおおおおおお、待望の新階層キターーーーーーー!!」
まさかまさかの、新階層追加!
千年後に来て良かった。
やる事がないなんて嘆いていたのはもう過去の話だ。
女神がなんか書いているが、そんなのはどうでもいい。
未知の、新しい、冒険が、目の前にある!
うおおおおお。
小踊りを始めた俺を見てニーナがガックリと項垂れた。
「あぁ、これダメなやつだ」
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