第5話 迷宮ランク0の駆け出し
受付のお姉さんに迷宮ランク0の駆け出しと言われてしまった俺たち。
これでも冒険者として、それなりに活動してきたつもりだったので、駆け出し扱いをされるとは思っていなかった。
パーティの仲間たちも全員同じ思いだろう。
「少しは戦えるつもりなんだが、駆け出しなのか?」
「実は皆さんの迷宮ランクは測定できなかったんです。これもたまにある事なのですが、迷宮での活動期間が空いてしまうと、このような結果になるんです。そういった方たちは一律ランク0の駆け出しとして扱うことになっているんですよ」
俺たちが迷宮に入ってから千年の期間が空いているから測定不能だったということか。
「ですがご安心ください。迷宮での活動を再開してから測定すれば、すぐに皆さんの正確な数値に戻りますから」
なるほど、ひとまず測定不能の措置として、ランク0の駆け出し扱いというわけか。
「そういうことなら、また今度測定し直してもらうとして、駆け出しだと何か制限があったりするのか?」
「受けられる依頼の種類に制限がありますね。あとは、対外的にどれくらいの冒険者かわかるので、他の冒険者と一緒に行動する時にも参考にされます」
そこで思い出したように受付のお姉さんが言う。
「あー、あとは講習を受けることもできますよ。冒険者になりたての子もいるようですし、ギルドや迷宮のことを一通り教えてくれるので受けてみてはいかがですか?」
アシュレーの方を見た受付のお姉さんが優しく微笑む。
講習か。千年後の世界を知るためにも丁度いい機会だな。
仲間たちに目配せをすると全員が頷く。
「じゃあ俺たち全員に講習を受けさせてくれ」
数時間後。
講習を終えて冒険者ギルドを後にした俺たちは、外に出て大きく伸びをする。
「千年後とはいっても、迷宮もギルドも仕組みはあまり変わっていなかったな」
「魔道具で効率化はしていたけど、やってることはほとんど一緒だったもんね」
同じように伸びをしていたニーナが答えた。
冒険者ギルドの講習で学んだ内容は、大体が千年前と変化がなかった。
迷宮内で得たものをギルドに売却するとか、ギルドからの依頼を受けて素材を手に入れるとか、基本的なルールはほぼ一緒だ。
ただ、魔道具が潤沢になったことによる変化は多かった。
ランクが測れるようになったことで、迷宮内のエリアに適正ランクのようなものが設けられ、冒険者がどこで活動するのがいいのかが、わかりやすくなっている。
依頼内容も基準になるランクを取り入れたことで、確実に達成可能な冒険者だけが依頼を受けるようになり、達成率を大きく上げていた。
他にも魔道具による利便化がされていて、俺たちの時代よりもよっぽど恵まれた環境になっている。これは迷宮探索が捗りそうだ。
「じゃあ、避難者救済用の宿ってのに向かってみるか」
避難者が一週間だけ無料で寝泊まりできる宿があるようなので、そこでこれからどうするか考えようと思う。
なんにしても暖かい寝床の確保は大事だからな。
俺たちは冒険者ギルドでもらった地図を頼りに、宿へ向かった。
──冒険者ギルドにて──
「本日、こちらに来られた避難者の登録情報です。確認お願いします」
受付をしていた女性が、〈エルドラド〉とそのメンバーの登録用紙一式を、上司の前に出した。
「まだ避難者がいたとはな、どれどれ」
上司は興味深そうに書類を取りじっくりと見ていくと、ある一点で視線が止まる。
「〈エルドラド〉か」
「〈エルドラド〉を名乗るパーティなんて登録情報にもありませんでしたし、聞いたこともないのですが……」
受付の女性は申し訳なさそうに言う。
「規則上この名前の使用は可能だから、君が登録した判断は正しい。そう気に止むことでもない」
上司が受付の女性の心配を察して声をかけると、苦笑しながら言葉を続けた。
「こんな恐れ知らずな名前のパーティは聞いたことがないが、ここから遠く離れた国なら、この国のおとぎ話を知らなくてもおかしくないからな」
「はい。ありがとうございます」
上司の理解が得られて受付の女性は少しホッとする。
「ん、彼らはランク0なのか? ここまで避難してきた実力があるんだろう?」
「はい。測定器で調べたところ、出鱈目な数字が出たので測定不能として扱っています。後日彼らが迷宮に潜れば正確なランクが分かるかと」
受付の女性の答えに、眉根を寄せて聞いていた上司は、少し考えてから口を開く。
「迷宮に入ったことのない人や、長期間入っていない人を測定したときは、意味不明な文字列が表情されるが、彼らは数字だったのか?」
「はい。ですが、あり得ない数字だったので、意味不明な文字列として処理しました」
「ちなみにどんな数字だった?」
興味を含んだ上司の言葉に、受付の女性は天井を見上げてしばし考える。
「たしか、9999でした」
「ハッハッハッハ。なるほど、それは意味不明な文字列として扱っていいな」
納得がいったのか、上司は笑いながらウンウンと頷いている。
「大ベテランの冒険者で、やっと三桁のランクですからね、本物の〈エルドラド〉でもこの数字は無いと思いましたよ」
「おとぎ話の内容を踏まえても、こんな数字にはならないだろうからな。わかった、後の手続きはこっちでやっておく」
「ありがとうございます」
そう言って受付の女性が戻っていった。
書類を机の上に置いた上司は、窓の外を眺めて呟く。
「〈エルドラド〉か……。仮に彼らが本物だとしても、この人類の状況をどうにかできるとは思えないがな」
──廃墟にて──
リュウイチたちが最初に現れた廃墟の上空。
紫の肌を持ち、頭に角、背中にコウモリの羽を生やした、魔人と呼ばれる種族の男が廃墟を見下ろしていた。
彼は驚いたような声をあげる。
「おいおいおいおい、俺の手下たちがみんなやられちまってるじゃねぇか」
黒い魔物の死骸が大量に散乱する場所に、魔人
の男が降り立つ。
「虫だけかと思ったが、獣までやられているな」
魔人の男が周囲の惨状を眺めながら歩いていく。
「これは……素材として解体されたのか」
魔人の男は魔物の死骸の中から解体された魔物を見つけた。そして同様の死骸がないか探し始めた。
「大量に解体した形跡があるな。俺の可愛い手下たちをこんな目に合わせやがって。……ん?」
魔人の男が何かに気づいてあたりを見る。東西南北、全ての方角を見渡した魔人の男は、魔物がある位置から放射状に倒されている事に気付く。
「ここで戦闘があったわけか、で解体した死骸があっちに続いている、と」
さらに東方面にだけ解体した魔物の死骸があることを確認すると、ねっとりとした笑みを浮かべた。
「アヒャヒャ。なるほど。あっちにいるってことかぁ。これは帰って早速準備しないとな」
東の方向を見ていた魔人の男は、翼を広げるとどこかへ飛び立っていった。
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