煩悶を静観しました
場を離れた森の奥で、わたしはキノコイムと相談をする。
「わたしはこのまま、また旅に出るよ。あの冒険者たちとまたばったり出会っちゃうかもしれない。そうでなくても、ここは人間が行ったり来たりしてて、わたしたちは見つかったら、いきなり攻撃されるかもしれない」
キノコイムは、プルプル震えながら困惑している。
「確かに、また斬りかかられたら、今度も無事かはわからないもんね」
顔もむにょむにょにしながら迷っている。
「のんびりしてる時にいきなり後ろから斬られたら、さすがにもう死んじゃうよね。でも、あのおっちゃんとこのままバイバイするのはヤダよ」
ぷよんぷよんと揺れながら煩悶している。
「あ〜、どうしよう、どっちもヤダよ〜」
さらにピョンピョンと飛び跳ね、体はゴムまりのように弾んでいる。
悩んでいるところにアドバイスができればいいのだが、こういうのは自分で決断した方がいいだろう。
どちらを選んだところで、必ず、『思ったようにいかないこと』が出てくる。そのときに、自分で選んでいなければ、その不都合を人のせいにしてしまう。それはお互いにとって不幸だ。
そういうわけで、わたしはしばらく、キノコイムがバインバインと飛び跳ねるのを眺めて待っていた。
そうしたら、だんだん様子がおかしい。
まさかこれはアレでは。
わたしがそう懸念しはじめたところで、すぐに現実化した。
揺れているうちにだんだんと、丸から俵型へ変化していった。
俵型から、さらに、ピーナツの殻のような形になっていく。
そしてそのまま、
「わー! ふたつになっちゃった!」
キノコイムは分裂した。
跳ねて揺れて震えた結果、いきおい、分裂してしまったのだ。
そんなこともあるのかと、わたしは呆気にとられる思いだ。
ベージュのスライムはふたり、顔を見合わせている。
「悩みすぎてふたつになっちゃった」
「どっちに行こうか悩みすぎて、ふたつになっちゃった」
「あれ、じゃあ、ふたつとも行けるね?」
「ほんとだ、ふたつとも行けるね」
「じゃあ、おっちゃんのところはわたしが行くね」
「旅に出るのはわたしが行くね」
それは解決方法になっているのだろうか?
わたしは疑問に思ったが、当のキノコイムは納得しているのだから野暮は言うまい。
おっちゃんのところに行くと言ったキノコイムが
「じゃーね! また会おうね!」
と元気よく、溌剌と、山小屋のある方角へ向かう。
「冒険者のいなくなった頃に、こっそりおっちゃんのとこに戻るよ」
軽快に、すぐに姿が見えなくなった。
後顧の憂いなど何もないらしい。
「じゃあ、わたしはチョピと一緒に、旅に出よっと。人間のいない、スライムだけで安心して暮らせる世界を探そうね~」
こっちのキノコイムは、キリリと決意に溢れた顔をしている。
そこまでたいそうな目的でもないのだが、わたしは頷いておいた。
「そうだね。スライム王国を作ろう」
適当に言ってみただけなのだけれど、
「作ろう! 作ろう!」
とキノコイムは気合いじゅうぶんだ。
「とりあえず、この森は人間の通り道みたいだから、どこかもっと別のところへ移動しないとね」
行くアテなんてまったくない。
けれど、世の中には、キラキラ光る水晶がたくさんあるところや、溶岩や強い魔物がたくさんいるところや、想像もつかないようなところもあるだろう。
スライムは戦闘もからきし、食べても栄養がない、素材にするにしても何もいいものがないと、他の生物からはあまり重宝されない。
けれど、タフで、暑さ寒さに強く、打撃ならたいてい問題ない。
きっとどこでだって生きていけるだろう。
さあ、次はどこに行こうかな。
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