馬のともだちができました

 セイラは一応群れには属していた。


 数日の生活の後、セイラの信頼を得たわたしは、家の外に出ることを許された。


 逃げ出さないと信用されたわけだ。


 そこでわたしは、家の周辺を探索することにした。


 セイラの家は、馬小屋の横にあった。小さすぎるほったて小屋にこの立地は、まるで飼育道具や馬具をしまうための倉庫のようだ。


 と思ったら、実際どうやら倉庫として使われていたものを改装したらしい。


 馬はセイラの持ち物ではない。この群れの中で力を持っている人間のものだ。


「両親が死んで、孤児になったセイラを、馬の世話係として雇ってるのさ」


 と、その馬自身が教えてくれた。


「馬も、昔はもう一頭いたんだけどね、おっちんじまって、それっきり。今はアタシひとりさ」


 馬はカーラと名乗った。どうやらだいぶんと年寄りのお婆さんのようだ。


 村の中を見て回るのは、カーラに止められた。


「アンタ、魔物だろ。あんまりほっつき歩いてると、退治されちまうよ」


「村の人間は魔物が嫌いなのか? だったらどうしてセイラは、わたしを飼おうとしてるんだ?」


「さあね、寂しいんじゃないのか?」


「何も、魔物にしなくても」


「飼えるような小さい動物は、たいてい、人間より随分早く死んじまうだろ。だからじゃないかね」


「そんなことで?」


「さあねぇ、聞いてみようにも、人間は、アタシらの言葉がわからないからねぇ」


 動物の中で、人間だけが言葉が通じない。これは多分、人間が、声に言葉を乗せて使っているからだと思う。


 じゃあわたしたちがどうしているかというと、なんとなく、だ。オーラに言葉を乗せて伝えている、という感覚だ。


 顔を見ればわかる、とか、雰囲気で察する、とかの上位バージョンだ。


 通信に用いるレベル帯が、声とオーラとで違うから、通じない。


 そうしてカーラと話しているうちに、セイラが帰ってきた。馬の世話をする以外に、他の人間の畑仕事を手伝ったり、洗濯や裁縫を請け負ったりと、まめに働いているらしい。


「チョピちゃん、カーラとずいぶん仲良くなったのね!」


 嬉しそうにわたしを撫でるセイラの手は、労働で痛んでいる。


 悪い人間ではなさそうなのに、魔物をペットにするくらいには寂しい様子なのに、どうしてひとりで暮らしているのだろう。


「チョピちゃん、冷や冷やで、プルプルしてて、気持ちいいねえ」


 はしゃぎながらいつまでもわたしを撫でようとするセイラは、もしかしたら単に、スライムが好きなだけかもしれない。それは人間としては変人だから、一緒に住む人間がいないのかもしれない。


 だったらますます、ここにいてもいいんじゃないかと、わたしはそう思った。

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