第一章 村のスライム
セイラと出会いました
わたしが目が覚めたのは、人間の民家の中だった。
狭くて汚かった。寝台と食卓を置いたら歩くスペースもないほどだった。
板でできた壁はやはり隙間だらけだったし、床は土で汚れて、元は何色だったのかもわからない。
狭い部屋の一角にかまどがあったけれど、火はすっかり消えていて、白い灰が積もっている。
人間の食糧らしきものは見当たらないけれど、瓶の中にはまだたっぷりと水が入っていた。
おそらく、人は住んではいるものの、あまり裕福ではないのだろう。
それなのに、わたしが寝ていた床の、すぐ横には、草がこんもりと積まれてあった。
匂いや切り口の様子からして、まだ刈り取ってから一日も経っていないだろう。
これは、餌のつもりなのだろうか。
家の中にいることといい、わたしを殺すつもりはないようだ。
などと探索をしているうちに、人間が帰ってきてしまった。さっさと逃げ出すことを考えればよかったのに、迂闊だった。
「あ! 起きてる!」
さっきのメスの子どもの声だ。
「だいじょうぶ? けがはない?」
駆け寄ってきて、隣にしゃがみこむ。
人間の表情に造詣は深くないが、どうやらこれは、笑顔だ。笑っているらしい。何やら上機嫌に、わたしの表皮を手のひらで撫ではじめた。
「おなまえ、決めなきゃね。あ、あたしはねぇ、セイラ。よろしくね」
どうやら、ペットとして飼うつもりのようだ。
どう見ても人間が暮らすだけで精一杯の暮らし向きに見える。食い扶持を増やす余裕はないだろう。
それなのに人間の顔は輝くように明るい。
「そうだねぇ、ちっちゃいし、チョピちゃんでどう?」
否も応も、人間と言語でコミュニケーションを取るのが不可能なのだから、わたしの意思など関係ない。
「よろしくねぇ、チョピちゃん」
セイラの被毛は黒くてツヤツヤとしている。目も黒く、まつ毛も黒いから、他の人間の個体よりも目が大きいように見える。まだ成体の人間の半分ほどの体高しかない。手も顔も泥だらけで、服も汚いが、皮膚は健康そうにピカピカだ。
わたしはしばらくセイラに厄介になることにした。
元の群れに戻れるアテがないこともそうだが、スライムと見るや石を投げ棒で殴る人間ばかりの中に、なぜペットにして飼いたがるのか、不思議だからだ。
それに、夜遅くなっても、この家はセイラ一人きりだった。
寝台でひとりで、ろくな寝具もないまま丸まって眠るセイラは、群れの仲間がいないのかもしれない。
それなら大人になるまでの間くらいまでは、面倒を見ようかと、そういう気持ちになった。
種族が違っても、幼体を見れば育てようとすることなど、自然界ではそう珍しいことではないのだ。
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