第20話 後始末

「……ということがありまして」

「うわぁ」

 事情を軽く説明すると、四善がドン引きした。

「学校一のイケメンがストーカー気質のヤンデレとは、千年の恋も覚めそう」

「それな」

 すると、唐突に六谷に抱きしめられた。

 え、どゆこと?

「……怖かったな」

 頭を撫でられる私。あれ……なんか、不思議な気持ち……

 心に溜まっていた熱を持った泉が溢れ出してくるような。

 気づくと私は泣いていた。

「ろっくんって男のくせに母性に溢れてるよね」

「五月蝿い」

 そんな会話を聞きながらは、私は赤ん坊以来の涙を流した。


 で。

「……これ、どうしようか」

 ひしゃげた玄関の扉を見る。五月さんすげぇって思ったけど、終始ごめんなさいモードだったので責めないでおいた。

「あー、これ、うちで業者に頼んどくわ」

 ここで六谷。

「え、まじ」

「料金は心配すんな。これでも貯金はあるんだ」

 拝んどこ。

「あと、一日一回見回りに来る」

 六谷さまさまだな。ありがたやありがたや。

 大家さんに事情を説明したら、六谷と四善の名前だけですんなり通った。

「ただ、すぐ工事に取りかかれるわけじゃないでしょう? 玄関の扉がないんじゃ、些か無用心じゃない?」

 ……確かに。

「それに同居してる男の子に襲われたんでしょう? 安心して眠れないんじゃない?」

 むむむ……

「でも、あそこって事故物件だから人が寄りつかないんじゃないですか?」

「泥棒に事故物件も何もありやしないよ」

 それも確かだ。

 だが、私には私でできることがある。

「うーん、あの事故物件、本当に幽霊いるみたいなんですよね」

「それでよく住めるね」

「どうやら邪なやつにしか見えないらしく」

「なるほど」

「とりあえず、玄関の戸は板でもかけて、やり過ごしてみます」

「まあ、それでいいならいいけど……」

 よし。

「あー、だからつっくんは勝負下着のオバサンの夢見たんだね」

 ……そういうことにしておこう。

「だが、あの野郎をそのまま放置しておくのも危なくないか?」

 六谷が言う。確かに、三條をそのまま放置するのは危ないかもしれない。私の貞操という意味で。

「どうしようか」

 でも、ぽい、とその辺に捨てられるほど私はクズではないし、いっそのこと勝負下着のオバサンに魘されてしまえばいいと思うんだ。

 そこで手を挙げる四善。

「あたしに任せてくれないかな」

「四善?」

 四善の目は珍しく据わっていた。あの天然ふわふわガールの四善が怒っている。なんか怖いぞ。

「つっくんにはちょっと灸を据える必要がある」

「でも、四善が襲われたら……」

「ないから」

「つーか、襲われても、四善強いからな」

 柔道と剣道やってるらしい。怖い。

「でも、魁さんが一人というのは、いくら事故物件とはいえ……」

 五月さん優しいな。

「大丈夫だ」

 私より先に六谷が言う。

「俺がここに泊まらせてもらう」

 What!?

 六谷も男だから怖いっちゃ怖いんだけど、六谷は三條より健全そうだし、……さっき胸借りたからな。

「じゃあ、よろしく」

 握手する。

 がっしりした手。謎の安心感があるぜ。

 三條華奢だったからな。

 なんだろう、三條より六谷の方が……好きっていうのかな。まあ、そういう女子がいるのもわかる。

「ま、ろっくんなら安心だね。紳士だし」

 四善のお墨付きをいただいた。

 というわけで安心して夜を過ごそう。


「悪いな、料理はまだあんまりレパートリーないんだ」

 そう言って出された肉じゃが。いもがほくほくで美味い。

「六谷はあれか。家継ぐ感じか」

「ああ。まあ、独立して自営業始めたいのもあるが、それは一人じゃ難しいだろうからな。まずは家を継いで、俺のカリスマを試す感じだな」

 もう充分あるがな。

 うん、肉じゃが美味しい。

 晩飯を食べ終えると、てきぱきと片付ける六谷。なんか三條みたいに気張ってなくていいね。

「先に風呂入ってろ」

「ありがと」

 なんだか安心する。久しぶりに泣いたからかな。

 思ったより、心が弱ってんな。やっぱり、なんだかんだ三條と二人っていうのはプレッシャーだったのかな。

「はあ……」

 湯船に浸かると、目から汗が。

「華子お姉ちゃん、大丈夫?」

「風呂覗くな生き霊」

「ひどーい」

 同性だからいいじゃない、と言われるが、風呂に制服の女の子とか違和感ばりばりじゃん。

「お背中お流しします」

 って、藤もかい。さすがに蓮は入ってきていないようだが。

「六谷とやらは普通に宿題やってるぞ」

 安心安心。三條は風呂上がりの私を待機してたからな。

「付き合う男は考えた方がいい」

「そだね」

 風呂から上がると、気づいた六谷が髪を乾かしてくれた。気持ちいい。

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