第19話ヤンデレ闇堕ち三條くん

 放課後がやってきた。

 昼休みの途中から気づいたが、女子からの視線がヤバい。まるで獲物を狙うハイエナのようだ。ハイエナは死んだ生き物でも食べるらしいが、私は生きている。食われたくはない。

 もちろん、私と一緒の当番の女子たちがもうぎらついた目で私を睨んでいる。臨戦態勢ばっちりだ。

 ちなみにに物理攻撃の五月さんがいないのも痛い。 が、彼女が痛い目に合わないで済むならそれでいい。

「さぁて」

 五月さんと一緒のうちは物理攻撃を恐れていた女子が、デッキブラシとトイレブラシを構える。

 やる気満々だな。

「ふっ」

 いい構えで薙ぎ払い。いい動きだが。

「はぁ、わかってないようだから教えてあげよう」

 私に当たる寸前でデッキブラシは不自然に跳ね、振り払った女子にかこん、とぶつかる。

「五月さんは確かに物理攻撃特化だけどさぁ」

 私はにやりと二人のあほ面を見て笑ってやった。

「なんで私が物理攻撃できないと思ったの?」

 トイレブラシがもう一方の女子をひとりでに磨き始めた。

「うぐ、うげぇ」

 トイレを磨くブラシに磨かれたい物好きなどいないだろう。

 ただ、その怪奇現象に二人は戦慄した。

 私は一切、手も足も使っていない。デッキブラシを握ってすらいない。

 物理攻撃──ま、嘘だけど。

 正確には花子や藤がやってくれているのだ。蓮は既にトイレを磨いてくれている。

 物理攻撃というより、霊能攻撃かな。まあ、見えないから理解できないだろうけど。

 二人にはきちんとトイレを磨いて、「三條と六谷とお近づきになりたいんなら、トイレを磨いて女神さまに別嬪さんにしてもらうんだね」と言っておいた。

 教室に戻ると五月さんが気遣わしげに私を見た。

「大丈夫でしたか?」

「大丈夫だよ」

 ま、半分嘘だけどね。返り討ちにしたから私と一緒だった女子は大丈夫じゃない。

「え、魁さん、何かあったの?」

「何もないよ」

 嘘だけど。


ナチュ「なっちゃんいる?」

つっくん「彼女なら今頃バイトだよ」

ナチュ「彼女とか言っちゃってぇ、つっくんってば。なっちゃんはまだお友達認識だよ?」

 つっくんが赤面したのは言うまでもない。

薙刀「なんだ、つーの一方的な思い上がりか」

つっくん「ちゃんと告白したし!」

季節外れ「でも受け入れてもらえていないのでは、恋仲は成立しないのでは」

つっくん「受け入れてくれたよ」

ナチュ「友達として、ねー」

つっくん「ぐ……同棲だってしてるし」

薙刀「居候だと聞いたが」

つっくん「僕の味方が一人もいない」

ナチュ「ところでさ」

つっくん「無視しないで」

ナチュ「なっちゃんが超能力者って噂があるんだけど」

薙刀「まじか」

季節外れ「なんとなくそんな気はしてました。悪口とか嫌がらせとかやられてもいつも泰然としてますから」

つっくん「なんだって」




 帰ってきた私。この会話を見て死亡を確信した。

 携帯からコミュニティサイトを覗いた私の真横になんかゴゴゴゴってなってる人いて怖いんですけど。


学校の階段「ただいま。そして逝ってくる」

ナチュ「字!」


 仕方ない。もう返信する余裕もない。

 怒っている。三條がものすごく怒っている。

 直視できない。

「あの、ナンデゴザイマショウ?」

「うん、サイト見たならわかるよね?」

 十中八九、いじめについてのことだ。舞の件があるからてっきり気づいているのかと思った。

「僕は魁さんのことが好きだよ? 大切にしたいって思うよ? だから魁さんのことは常に把握しておきたいんだ」

 それストーカーって言いません?

 思ったが、沈黙は金だ。

「なんで辛い目に遭ってるのに言ってくれないの? 僕が守るって言ってるのに。ねぇ、守らせてよ」

 ちらっと見たらやべぇ。こいつ目からハイライトが消えている。

「駄目なんて言わないよね? 魁さん」

 ついでに言うと、顔が近い。

 こいつがどーのてーのピュアボーイだと思って油断していた。こいつは私の監視のために普通にえろ本コーナーにいられるレベルの男だった。

 肩を掴まれ、引き寄せられる。ヤバい。私が何を言うまでもなく、はじめましてが奪われるのでは、いや、それじゃ済まない。食われるかもしれない。

 誰だこいつをどーのてーのピュアボーイなんて言ったやつ。あ、私か。

 うーん、とりあえず、どうしようかな。キスしちゃったら既成事実扱いされそうだからな。

 もう本気でやっちゃっていいかな。

「……藤、蓮」

 私は二人に声をかけた。

 すると私に迫っていた三條の体は壁まで吹き飛び、意識まで飛ばした。わお、やりすぎじゃね?

 ちなみに吹っ飛ばしたのが蓮で、気絶は藤の術的な何かだ。

 二人にお礼を言おうと思ったら、バァン、と玄関が開いた。

「無事か、魁!」

「なっちゃん、無事ー?」

「おまけです……」

 わあ、お友達三人衆揃い踏みだ。扉ぶっ壊れてるー。

 油断したわ。

「え? 何これどういう状況?」

 四善が色々棚上げにして言うが、そうは問屋が卸さない。

「いや、それはこっちが聞きたい」

 何故玄関ぶち破ってまで家に侵入してるんですか。不法侵入と器物損壊ですよ。

「だって、なんかなっちゃんヤバそうだったし」

「確かにヤバかったけどさ」

 襲われそうになったからね。

 すると五月さんがおずおずと出てきて謝罪と共に口にする。

「ごめんなさい、悪いとは思ったんですけど、悲鳴が聞こえて、いてもたってもいられなくて」

 悲鳴なんて上げたっけ、と思ったら視界の隅で花子がどや顔してた。なるほど、余計なことを。

「大丈夫か? 何もされなかったか?」

 六谷が紳士で泣きそう。

 三人から見たら、私が三條突き飛ばしてへたり込んでいるように見えるらしい。あながち間違ってはいない。

「ん、大丈夫。ありがとう」

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