第16話 解決!魁ちゃん☆

「な・ん・で、疚しいコーナーにいるんだよ!」

 本屋にて、三條を叱る私。大きな声では言えないが、私たちはアンダー18である。

 それが自主規制コーナーにいるのは大いに問題である。

 理由が。

「病院がよく見えるから……」

「疚しい本読みながら私のこと待ってたわけ? 神経がわかんない」

「よ、よよ、読んでないよ」

 滅茶苦茶顔真っ赤。お前もうピュアなのか何なのかわからないな。

 そこの本は大体男性向けのやつだ。私は一寸たりとも興味はない。

 はあ、と思いながら、とりあえずアンダー18を正しい世界に導くことにした。

「華子ねぇ、この女の人、ほとんど服着てない」

 蓮んんんんんんっ!?

 はあ、自重しないと。

「でも、ここならあんまり人も来ないから……」

「だからって利用しない。気持ち悪いやつめ」

「あのはしたない女の絵が好きなのかあのげすは」

 藤がじと目だ。私のせいじゃない。

「蓮の情操教育に悪いことは確かだ」

 頭を抱える。

「やっぱりあの男、消すか?」

 何故そうなるかな藤や。

「とりあえず、保留で。蓮は本屋で見たものは忘れろ」

「仰せとあらば」

 とりあえず私が三條を締めてやろう。


学校の階段「みんな、いる?」

つっくん「はい」

ナチュ「やっほ」

季節外れ「こ、こんにちは!」

ナチュ「なっちゃん何かあった?」

学校の階段「つーのやつが本屋の18歳未満閲覧禁止コーナーにいた件について」

ナチュ「ぶふぉ」

季節外れ「不潔です」

つっくん「ぎゃあああああああああああああああっ」


 三條五月蝿い。

 まあ、公開処刑をしたのでちょっと胸は透いたかな。

 四善がいい感じにからかっているし、五月さんからは画面越しでも冷たい眼差しを感じられる。

 ざまぁ。

 三條が静かなうちに、私はとある幽霊を尋ねていた。

「……ええと、会社員さん」

「ぼくはもう会社員じゃないんですリストラされたわけじゃないですけどリアルに人生終わってるので似たようなもんです」

 想像以上に卑屈だ。まあ、追い込まれて自死するとか卑屈になったことだろう。

「冤罪は冤罪だ。調べたいんだが」

「……ぼくは大型家電量販店の事務をやっていました」

 うん、事務っぽいよな。スーツだし。

「もう少しで係長から課長に昇進だったんです……そんなときに、会計の人が、会社の預金残高がおかしいって……」

 係長か。立場はあるが、手を出せるかどうか微妙である。だが、課長手前だったんなら、そこそこの権限はあったんだろう。

「で、課長たちまでの人たちに取り調べが入って、課長たちが、会計資料の整理は全部ぼくに任せてるって……」

 なるほど、濡れ衣を着せられた、と。

 月曜日、昼休み。

「あ、その事件知ってる。最初は過労死扱いだったんだけど、それから横領が明らかになってー……明らかに横領したっていうより、面倒くさいから死んだ人に罪押し付けたんじゃないかって、噂があったねぇ」

「まじくそみたいな事件だな」

「なっちゃん美人なんだから、くそとか言わない方いいと思うよ」

 だが、くそはくそである。随分な事件じゃないか。最初は過労死とか。事実過労死は過労死で問題だが。

 四善が購買で買った牛乳を飲むと、たはは、と笑って続ける。

「その後、まっくろくろすけなその企業を手入れしたけどね」

「……ん?」

 手入れって?

「え、四善家って、色んな企業を管理してるんだよ?」

「まじすか」

 そういえばいいお家柄とは聞いていたが凄まじいな。

 だが、これであの会社員さんも報われる。

「その手入れ資料見せてほしいかも」


 よし、三條寝てるな。

 今日はバイトを遅くまで入れていたので、先に寝とけと言っておいた。色々うだうだ言ってきたが、「なんだ、私の風呂でも覗く気か? それとも風呂上がりが目的か?」とか言ったら真っ赤になって黙った。扱いやすいんだか何なんだかわからない。まじで。

 おかげさまで夜もまだ十時だというのに静かでありがたい。

 私は藤と蓮の手を借りて、会社員さんを呼び出した。藤と蓮の方が上位霊というやつらしいので、いつでも呼べるらしい。だが、さすがに地縛霊を動かすことはできないとか。

 それを言うなら藤と蓮も地縛霊じゃないかとか思ったが、蓮の体は土に溶け、藤の骨もばらばらだという残酷なことを知った。人生、知らなくていいこともある。

 だが、知るべきこともある。

 相変わらずの冴えなさで佇む会社員さんに、四善からもらった資料を見せた。

「これは……」

「あなたが死んだ後になっちゃったけど、真犯人が捕まって、会社もそれなりに痛い目見たってさ」

 それを聞いた会社員さんの体が途端に仄かに光った。

 ぼろぼろと涙を流し啜り泣く。おっさんと呼んでいい年齢かもしれない会社員さんだが、その涙が私には綺麗に見えた。

 透明な粒が仄かな光に照らされていたからかもしれない。

「よかった、ぼくは、ぼくは……」

「うん」

 あなたは正しかった。

 そう呟く頃には会社員さんの幽霊は消えていた。

「全く、華子お姉ちゃんったらお人好しなんだから」

 花子が出てくる。花子は生き霊なので、行き来は自由自在らしい。

「別にいいよ、お人好しだって。それに」

 これを聞くと若干私がクズっぽいが。

「いつまでもここを事故物件にしとくのもあれだし。会社員さんのポルターガイスト凄まじいからね」

 テーブルひっくり返すし。卓袱台返しなら知ってるが、そういうレベルじゃないだろう。

 これでうちもすっきり、階下もきっと迷惑しないよね。

「華子お姉ちゃん、この部屋の下、この部屋が事故物件なせいでしばらく誰も住んでないらしいわよ」




 ……ナンデスッテ。

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