第15話 さんじょおおおおおお
がしゃーん、とテーブルがひっくり返る。おそらく会社員のポルターガイスト。
うん、さすがに三條起きるんじゃね?
「……魁さん?」
あ、色々遅かった。
「魁さんがいつの間にかいなくてびっくりしたんだけど……」
「そっちかよ!」
とりあえず気づけ、目の前の異常現象に。
「あれ? 魁さんだめだよテーブルひっくり返しちゃ。すっごいいらいらしてるのかな」
「違うから」
「じゃあ、魁さんがいらいらする原因を明日にでも排除するから待ってて」
「それも違う」
「明日じゃなくて今日か」
「そこじゃねぇ!」
なんでこういうところはわかんねぇのかな。まあ、幽霊見えないんだろうけど。
「とりあえず寝ろよ」
「魁さん、一緒に寝よう?」
「積極的だな」
ぼふん。
相変わらず耐性ないなぁ。一人で行ってくれたから扱いやすいんだかにくいんだか。
三條がいなくなると、藤や花子が胡乱げな目を向けてくる。
「あいつと一緒で大丈夫?」
「あの男、穢らわしい臭いがします」
「穢らわしいは言いすぎじゃないかな?」
あいつは行動力はヤバいし、ストーカー癖はあるけれど、手も繋げないピュアボーイだし、獣ではないだろう。
「あの目、好かぬ」
藤の言。
いや、嫌いというだけで、敵視するのは何か違うと思うな。
まあ、ねっとりしてるけどね。
「とりあえず、みんながいるから大丈夫だよ。とりあえず、誰かテーブル戻してくれない?」
そして私もそろそろ寝たい。
みんなの事情がわかったことだし、わかったならなんとかできるかもしれない。
冤罪は暴けばいいし、勝負下着は──探すか。
藤と蓮はどうしたらいいのかわからんけど、いい子だから害はなさそうだし。うん。
とりあえずおやすみなさい。
「早い里帰りね」
「私が用があるのは叔母さん。お母さんに会いに来たわけではないから」
「よく来たな華子」
「お父さんでもないから」
ずこっとこける父を置き去りに、私は母に叔母の居場所を聞いた。
叔母は近くの病院に通いつめているという。だから家に行くより、病院に行った方が早いとのことだ。
その病院がどこかというと……
「まあ、当然花子の本体の場所なわけだけど……」
後ろを振り返ると背後霊のようについてくる影数えること三つ。
「花子はいいとして、なんで藤と蓮も一緒なの?」
ほんまもんの背後霊である。花子は母の顔を見たいらしいが、藤と蓮はあのアパートの地縛霊的なものではないだろうか。
二人は何も答えない。ただ、ぴったりと私にくっついて、時々擦れ違う人に怯えている。
やっぱり私は気に入られたらしい。
そんなことより。
さっきからポケットでバイブ五月蝿いスマホを取り出す。
着信が「三條」で埋め尽くされていた。やっぱり。
「魁さん、一人で出歩いて大丈夫?」
「変な人に絡まれてない?」
「返信ないけど?」
うん、変な人はお前だよ。
休日の私用のときくらいそっとしといてほしいもんだ。
と、新たなる着信。
「そろそろ病院に着くかな。じゃあ、出たら連絡ちょうだいね」
「何これ怖っ」
病院目の前だから電源落とそうとしたらこれよ? 思わず辺り見回しちゃったね。
どこかから見てるのかな……家で大人しくしてろと言ってきたが……
本当にここからデリケートな話だからまじ来るなよ……
そこで藤が裾を引く。
「大丈夫、あいつが来たら殺すから」
「やめたげて」
気味悪いけど悪い人間ではないから!
とりあえず、スマホを機内モードにして、病院入るか。
「そういえば、花子戻れるの?」
「簡単に戻れるんなら華子お姉ちゃんにつきまとってなんかいないわ」
「つきまといの自覚はあったんだね」
魁と名乗ったらすぐに通してもらえた。書類書かされたけど、まあいいや。
病室は個室。叔母さん、入院代払うの大変だろうな、と思いながら入室。
「失礼します」
「ん、まだ検温の時間じゃ──って、華子ちゃん!?」
妙齢の女性って感じの人が座っていた。武骨なパイプ椅子でもその人が座っていると絵になるから不思議。
若干年齢不詳の私の叔母さんだ。魁
それに、叔母さんは更に驚いていた。
「華子ちゃん、連れているのは……」
「あ、やっぱり見えるんだ。花子の生き霊と知り合いの地縛霊的な子たち」
「さも当然のように言わないの」
確かに生き霊と地縛霊を連れてくるのは普通ではない。
とりあえず私は花子とアイコンタクトを取って、花子とのことを話した。
「……そう、やっぱり華子ちゃんも苦労したのね」
小一時間はかかったが、叔母さんは理解してくれた。元々、魁の家系には美人に生まれた子に霊感がつく的な感じのことがあったらしい。初耳だが、これは実際に生まれた美人の人にしか伝わっていないらしい。
「まあ、花子もいたし、呪詛撒かれた叔母さんよりはましでしょ」
「でもいじめって……」
「実力行使分が物理的にわかるからましだって」
というか、呪詛の方が怖いし。花子が体に戻れないとかまじヤバいでしょ、人の無意識の悪意って。
「雅なる美しき花咲き誇る藤棚の花地の底にあり」
「泥の上、醜い場所に植われども、芳しく咲く白き蓮かな」
藤と蓮は独特の自己紹介をしてくれた。
「一応、リアルにも友達いるし、自称彼氏とかいるし、まあ、叔母さんよりはましだよ」
私は肩を竦めた。
油断しちゃ駄目よ、と叔母さんは言った。
「色恋が絡むと特に無意識の悪意は厄介になるわ。いえ、もう無意識ではないのかもしれないけど……」
どうやら、イケメンと結ばれるのも考えものらしい。かといって、フツメンなどと結ばれると、今度はそのフツメンが男から妬まれる。人間って面倒くさい。
「まあ、今は花子も助けてくれるし、藤や蓮もいるからね」
それに、そういう意味では「三條と付き合っている」というのもいいかもしれない。
「その自称彼氏は結構強かだし、っていうか三條の方が人間としてヤバいかな」
今も監視されてないか心配。
「まあ、守護霊として藤ちゃんや蓮くんがついていてくれるなら、呪詛的なものは大丈夫かしら」
「彼岸にも逝けぬ魂拾う花、見捨てることは行き場もなくす」
蓮が私を守ると歌ってくれた。
叔母さんが守護霊と言ってくれたから、この二人には安心していいだろう。
病院でいくらか叔母さんと話して出る。機内モードを解除すると、いきなり電話が鳴った。
病院の駐車場だったのでテンパったが、なんとか出ると。
「あ、魁さん、そろそろ出てくるかなぁと思ってたんだ」
三條怖っ。
「え、何? 見張ってる?」
「そんなことないよ。今から迎えに行くね」
「いらん」
「えー、すぐ近くの本屋まで来たのに」
本屋って病院の向かいじゃねぇか!
「やっぱり見張ってたんじゃねぇかよ!」
「人聞きが悪いなぁ」
「自分の行いを省みろ。仕方ないから今からそっちに行ってやんよ」
「わぁい」
ぶつっと電話を切る。誰だよあれを爽やかイケメンとか言ったやつ。
藤が私を軽く見上げる。
「やっぱり消しますか? あの男」
「物騒だね君も」
うちの祟りは怖いね。三條を守るのか守られているのか。
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