第12話 新生活

 一人暮らしをするに当たって、アルバイトは当然必須だった。

 普通にしていれば普通に受かるくらいの常識はあるし、人手不足のところは言ってしまえばどんなクズでも採用してくれる。よってクズではない私は普通に採用された。

 バイト先に不満はない。

「おはようございます。今日からお世話になる高校生の魁華子です」

「あらぁ、別嬪さん」

「よろしくねぇ、華子ちゃん」

 おばさん臭がヤバいが、別に苦ではない。

 ただ、物件情報と一緒に三條がこのスーパーのバイト募集ちらしを持ってきたのには若干の戦慄を覚えた。

 それはさておき。初心者の私はいきなりレジ打ちを任せられるわけもなく、商品の搬入や陳列について学ぶことになった。

 最初は無難なお菓子コーナーやカップメンなどのコーナー。

 ジュースやだしつゆなどのコーナーも一通り見せられ、なんとなく覚えて地道な陳列作業を楽しんだ。

 お客様にはいらっしゃいませ、と笑顔で対応する、マニュアル通りの行動をしながら、陳列を進める。

 普通、高校生なら、コンビニやファミレスなどのバイトというのが浮かぶだろう。

 だが、私はそうしなかった。というのも、やはり美人は面倒くさいからだ。

 私が進学した高校はお世辞にも進学校とは呼べず、偏差値もかなり低い。その分校則が緩く、こうして、アルバイトができるわけだが。

 つまりアルバイトできるのが私だけではないということであり、私のようにアルバイトを目的に入学しているやつもいるということになる。

 悪くすると、バイト先でばったり出会し、バイト先でまでねちねちいじめられるという可能性があるわけだ。

 その点、スーパーマーケットなら、高校生がバイトで来る可能性は低い。

 そう思って最初からバイトはスーパーにするつもりだったのだけれど、こんなことは三條に言ってない。もしかして完全に把握されてる? 怖いんですけど。

 このスーパーは広い。なるほど、猫の手も借りたくなるような広さだ。ショッピングモールほどではないが、それに準ずる広さがある。

 私はあちこちのコーナーで陳列を行っていくうちに、大体何がどこにあるのかわかってきた。これは大きい。

 大きいお店あるあるだが、何がどこにあるかわからないとなったとき、やはり頼るのは店員だ。譬、それが入りたてほやほやのバイトであっても変わらない。客からすれば、知ったこっちゃないのだ。

 だから、新人でも、ちゃんと商品の場所は覚えておくべきだ。先輩に頼る手もあるが、あまりすぐに頼るとだらしなく感じる。

 ……などと考えていると。

「すみません、店員さん」

 早速きた。

「はい、なんでしょうか」

「砂糖のコーナーはどこでしょうか?」

「こちらで──って三條!?」

 爽やか笑顔の三條が買い物かごぶら下げていた。

「ふふ、魁さんに案内してもらえるなんて嬉しいなぁ」

 これが目的だったのかよ!

 っていうかよく考えたら砂糖のコーナーなんてすぐわかるだろ!? 札下がってるもん!

 私の後ろにるんるんついてくる三條。明らかに私と接触することが目的だった。他にも店員いただろうに。

 おかしいと思ったんだよ。求人表がコンビニとかじゃなくてスーパーって。最初からこれ目的だったのかよ。

 項垂れながら砂糖コーナーに到着。こちらです、というと、弾けるような笑顔。この笑顔は罪だね。あちこちからおばさま方のずっきゅんした悲鳴が聞こえるよ。

「あったあった、玉砂糖」

 え。

 そんなマイナー商品買ってどうするんだよ。しかもある分かごに入れてるし。大人買いかよ。

「玉砂糖はミネラル豊富で普通の砂糖より体にいいんだよー。魁さんにはやっぱりいいものを食べてもらわないと」

 体を気遣ってくれるのは嬉しいがやっぱりお前怖いわ。

 帰ってきた私はリビングのテーブルを二度見した。

 そこにあるのはどう見ても木櫃で。

 そこにあるのはどう見ても。

「ちらし寿司!?」

 椎茸の甘煮と桜でんぶで作られた桜の木の周りには錦糸玉子の菜の花畑。青菜の緑も目に鮮やか。

 すげぇ完成度だな!

 というかお櫃なんてあったっけ。

「あ、このお櫃は魁さんのお母さんから餞別だって」

「心を読むな」

 随分立派なもんくれたな。

「でもお櫃なんて使い方わからんぞ。それこそちらし寿司くらいしか」

「そこについては僕に任せてよ。なんと、お櫃は夏に炊いたお米を保存するのにぴったりなんだ。炊飯器よりも長持ちするんだって」

「なんだその女子力高そうな発言は」

 世話好きスキルの一環か。すげぇな。

「で、なんでちらし寿司?」

「二人暮らし記念」

「本音は?」

「魁さんと一つ屋根の下がとっても嬉しい記念」

「交番はここを出て右に行った突き当たりだ」

「ひどくない?」

 とりあえず写メ。


学校の階段「画像」

学校の階段「つー作」

ナチュ「つっくんは相変わらずだねぇ」

季節外れ「彩り豊かで美しい絵画のような作品! できるならご相伴に与りたいところですがデブスなので弁えておきます」


 体型を気にするお年頃なのはわかるが。見ただけでのリポートすごい。

 で。


学校の階段「相変わらずとは」

ナチュ「つっくんは料理上手なんだよ」

ナチュ「画像」


 なんだか似たようなちらし寿司の写真。


ナチュ「これ小五のときのやつ」


 女子力やべぇな!


ナチュ「つっくんはご両親が忙しいから、毎日自炊してたんだよ」

学校の階段「小学生から?」

ナチュ「うん」

季節外れ「見習いたいものです」


 他愛ない会話をしていると、隣から殺気が。

「友達と戯れるのもいいけどそろそろ食べない?」

「食べるから殺気仕舞って!」

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