第11話 チャットルーム

「魁さん? 誰と話してるの?」

「うっ」

 疚しいことはないのだが、脇で見ていた三條の眼力がヤバい。

「別に、グループに新しい友達を招待しただけだよ」

 疚しいことは何もない。

 が、三條の目からハイライトが消えている。怖い。

「僕を除け者にするなんて、魁さんひどいや」

 かと思えば、仲間外れにされていじけてるだけの反応。こいつの性格何が本当なのか時々わからなくて怖いんだが。

 というより。

「三條のことだ。私にできた友達のことなんてとっくに知ってるだろう?」

「うん、五月桜さんだよね」

 そうやって即答してくるから怖いんだよ!

「卑屈がひどくて癖が強そうなだけど、悪い子じゃないと思ったから」

「ねぇ、私の台詞取らないで」

 なんで一言も会話してない三條が五月さんのこと知ってるの? 怖い。

 三條怖いとか三條怖いとか三條怖いとか色々思ったけど、同棲する上にクラス同じだし、色々と把握されていても仕方ないのかな。

「とにかく、三條も挨拶くらいしなよ」

「仰せとあらば」

 いちいちそういうのはいらない。


つっくん「出遅れました。グループの一員です」

ごっつぁんです!「あ、不束ですがよろしくお願いいたします」

学校の階段「名前変えろよ」

ごっつぁんです!「他にいいのが思い浮かばなくて……」


 いかに彼女が虐げられてきたかわかる。同じいじめられっ子としては思うところがないわけではないので色々と考えてみるが……

 ううむ、いい案が思いつかない。

 そこに三條の呟き。

つっくん「季節外れとかいかがですか?」

 おお。

 確かに五月さんは五月桜。ちょっと季節外れな名前だ。


季節外れ「こうでしょうか」

学校の階段「うん、いいね」

ナチュ「はっちゃんって呼ぶね」


 ところで三條や。何故こうも円滑に事を進めるんだ。怖いぞ。


 さて、明くる日。掃除当番で、仕組まれたかのように私がトイレ掃除に当たる。

 心配だったのは、同じ班の五月さんだ。いじめがエスカレートしないか心配だ。

 トイレの扉をえいやっと開けると。

 びしゃあっ。

 ……うん、予想はしてた。ただ、いきなりずぶ濡れとは。

 何をされたかというと、まあ、ホースから水をぶちまけられたのだ。おかげで新品の制服が水浸し。まあ、五月さんに被害がなかったようでよかった。

「美人だからってむかつくんだよ!」

 うわぁ、下らない。

 私はにこりと淑やかに笑んで返した。

「水もしたたる……というお言葉はご存知?」

「ぐっ……」

 濡れた髪をオールバックよろしく掻き上げて、ホース持ちを見る。

 悔しげなそいつは私の後方で怯えている塊に言い放った。

「デブス、お前は美人に添え物にされてんだぞ? 悔しくねぇのかよ?」

 瞬間、後方で何かがぶちんと切れた気がした。

 後ろから気配が消えたと思ったら、ずどぉん、と凄まじい音と共に、ホース持ちが壁に叩きつけられていた。

 やったのは……五月さんである。

「私の初めての友達をあしざまに言うなんて許しません」

「かはっ……てめぇ、デブスの分際で」

 うーん、ブスというほど見てくれは悪くないがな。三編みとか可愛いと思う。

 でも花子さん以外で私のために戦ってくれる人がいるなんてなんだか嬉しいや。

「人に暴力振るってただで済むと思うなよ?」

 もう負け惜しみにしか聞こえないそれに、私は不敵に笑った。

「あら、私たちはトイレ掃除ではしゃぎすぎただけよ? 私のびしょ濡れも、あなたの怪我も」

 搦め手は私の得意戦法だ。相手が悪かったな。

 今度こそ何も言えなくなったらしく、そいつは真面目にトイレ掃除を始めた。


学校の階段「ということがあったの。はずが強くてびっくりした」

ナチュ「はっちゃんすごいじゃん」

季節外れ「いえ、それほどでも……お役に立てたなら何よりです」

つっくん「……僕のいないところでそんなことになってるなんて」


 なんか隣にいる人がぶつぶつ「どうやって殺してやろうかな。殺すじゃ足りないかな」とか言っててまじで怖いんですけど。


学校の階段「とにもかくにも、はず、ありがとう」

季節外れ「いえいえお礼には及びません。わたくしなんかとお友達になってくだすったことへの恩返しにすらなっていないのでまだまだ」

学校の階段「うん、もう少し自分に自信持とうか」


 五月さん、相変わらずだなぁ。


学校の階段「とりあえずそろそろバイトだから落ちる。またね」

季節外れ「バイトなさっているんですか!?まじ尊敬です」


 ちょっとJK言葉使う五月さんにびっくりした。

 そしてさも当然のように立ち上がる隣の三條。

「送っていくよ」

「いらん」

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