第10話 新しい友達
ふと、席に着いて前を見る。三條はちょっと遠いが同じ横列の席だ。
前の席は……ちょっとぽっちゃりした子が座っていた。油断すると視界の大部分を埋め尽くされる。
え、私の前の席って確か……
「
「は、はいぃっ」
めっちゃびびられたんですけど。私まだ声かけただけで何も言ってないのに。
こちらを振り向いた五月さん(さつきではなくごがつと読むらしい)が身を懸命に縮めながら言う。
「あっあっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! こんなデブスの分際で麗しい魁さんの視界を汚すなんて万死に値しますよね本当にごめんなさいでもこれ席順で五月とか変な名前ですよねさつきだったら魁さんの後ろになったのにごめんなさいとりあえず死にたくないという一身上の理由から死ねないので許してください」
正直、うわぁ、と思った。
五月
幸先が不安。
「あっ! こんなわたしが魁さんのご尊顔を拝見するなど傲慢甚だしいですよね、あまつさえ言葉を交わそうなどと。身の程を弁えますのでどうぞこの雌豚めをお許しください」
「……あの、私まだ名前呼んだだけだよね?」
ネガティブすぎない? 発言がアレすぎてなんだか何もしてないのに私が悪いみたいな気分になってくるのだけれど。
舞が遠い席で安心したけど、これはこれで不安かな!
「あぅ……魁さんのお言葉を遮るなどわたくしとしたことが……」
「そこまでネガティブになれるのは逆に感心するよ」
「恐悦至極にございます」
呆れたとも言う。
大丈夫かな、この子。
「あの、そういうのいいから、よろしくね」
手を差し出す。もちろん握ろうとしたところをぴしゃんと弾くとか悪女なことはやらない。ちゃんと握手のつもりだ。
が。
「わ、わたしなんかがあなたさまに触れていいのですか下践の豚たるわたくしが彼氏さまを差し置いて」
どんだけネガティブだよ。
がたたっ、と机と椅子がけたたましく鳴る。もちろん、私ではない。
どっかの三條である。
……そういえば、手を繋いだこともないんだっけ。ストーカー気味のピュアボーイって本当意味わかんない属性だよね。
「っていうか、三條は彼氏じゃないよ」
「えっ、それにしては大変仲睦まじく……」
「ただの友達。一人暮らししようと思ったら無理矢理居候してきたの」
「それって所謂押し掛け女房的な……」
性別違うけどな。
にしても五月さん下手ないじめっ子より語彙力あんぞ。こんな偏差値低めの学校にいるのが不思議だ。
「何はともあれ、よろしくね」
「は、はい……恐れ入ります」
畏まりすぎだよ。
握手は諦めた。
そういえば、三條とは握手すらしたことなかったな……触れたこともあったかどうか。
ストーカー気味のくせにそういう面で健全とか本当に健全と表現していいのかわけわかめ。
入学式が終わった直後、ホームルームがあり、それからそそくさと帰ろうとする前の席。
「あ、待って、五月さん」
「ひゃいっ、なんでございましょう?」
せっかくよろしくしたのだし、メアドとか交換したい。よければコミュニティサイトも紹介したい。
という旨を話したところ。
「……豚と呼ばれてかれこれ数年、人間扱いされるなど、久しくなかったもので、感涙の極みにございます」
「……とりあえず、アカウント作ろうか」
まじ泣きしてるんだけど。え、何これ私が悪い系? というか豚と呼ばれてかれこれ数年とかすごくない? この子体型でいじられた系かな。
高校でいじめになんて遭わなきゃいいけど……
「あっ、なるほど、ブスを傍に置いておけば魁さんの美しさがよりいっそう引き立つという計らいでございますね! そういうことならば喜んで!」
「喜ぶところじゃないしそれだと私若干クズだね」
とりあえずお友達登録まで済ませた。
学校の階段「ナチュ、いる?」
三分後。
ナチュ「おん!」
学校の階段「グループに入れてあげたい子いるんだけど」
ナチュ「なっちゃん友達できた系? 大歓迎ぞよ。お母さん嬉しい」
学校の階段「おまんはいつの間にわいのおかんになったんや。
とりあえず、いいってよ」
デブス「失礼します!」
学校の階段「待った」
その名前は何だ。
デブス「事実を簡潔に表した言葉ですが……」
学校の階段「ネットくらい夢見ろよ!」
デブス「夢……」
夢豚@キモワロス「こうですか?」
学校の階段「違うと思う」
自分を卑下しすぎだと思う。
ナチュ「自分の名前とかもじったら?」
さすが渾名の天才!
ごっつぁんです!「こうですか?」
学校の階段「ちがぁぁぁぁう!」
ごっつぁんです!「でも中学のときの渾名が相撲関係だったので……」
想像はつくが、それいじめじゃね?
そんな感じで、五月さんがグループに入った。
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