第9話 事故物件の愉快な仲間たち

 私は半分死んだ目をして、新居となる家賃の割にはしっかりとしたアパートを見ていた。

「意外と見た目は綺麗だね」

「当たり前だよ。見た目が悪いところに魁さんを住ませるわけにはいかないでしょう」

「あー、そーですか」

 事故物件だがな!

 もうここまで来てしまえば進むより他道はない。今しがた会ってきた大家さんには三條の社交スキルによってかなりの好印象を抱かれている。

 せっかく厄介な事故物件を引き取ってくれる人が現れた! と喜んでいるところに水を射すほど私もクズじゃない。

 えいやっと鍵を挿し込み、ドアを開けた。

「……事故物件の割には綺麗」

「当たり前だよ、僕下見もしたもん」

 おう、そうか。

 こいつの手回しの良さにちょっと泣きたい。

「ええと、トイレがこっち……」

「そうそうそっち。お風呂とは分かれ」

「お花摘みに男子がついてくんな!」

 必殺のエルボーを三條に食らわせといて、トイレのドアを開けると。

「あら、華子ちゃん」

 ……なんであなたがここにいるんですか、花子さん。

 トイレの花子さんが私が入学予定の高校の制服着てトイレ(アパート)にいるんですが。

「花子さんって学校の怪異ですよね?」

「そうね」

「服装変えられるんですね」

「そこ?」

 わかってる。違うのはわかってる。

 少しくらい現実逃避させてくれ。

 三條ばかりか花子さんまで一つ屋根の下なのか。

「ほら、聞いてると思うけど、ここ事故物件だっていうじゃない。だから怪異も入ってきやすい的な? 所謂もらい事故的な?」

「笑えないもらい事故ですしそもそも笑えるもらい事故なんて存在しません」

 っていうか、トイレの花子さんって、トイレならもうどこでもOKな感じの怪異なの? 私聞いてない。

「とにかく、これからよろしくね」

 仕方ない。よろしくしておこう。

「もし居候くんが華子ちゃんに手を出そうとしたら、トイレの果てから這ってでも出てくるわ」

 サムズアップな花子さん。

「それは頼もしいってトイレの果てからとか生々しすぎません?」

 リビング。そんなに狭い感じはない。まじで家賃一万二千なのだろうか。この他に浴室とトイレが分かれていて、台所があって、寝所があるってこれ本当は騙されてるとかじゃないよね? 高校生の早とちりとかじゃないよね? 悪い大人に騙されてないよね?

「ここは本当に事故物件で、何年も手付かずだったんだって。横領疑惑で自害に追い込まれた人や、洗濯物と一緒に地面に落ちちゃった人とかいるみたいだけど、大丈夫大丈夫」

 お茶汲みながら爽やかに告げる三條。いや、大丈夫な要素が見当たらない。

 まあ、とりあえず、お茶でも飲んで一息吐くか。事故物件といっても、まだ何か祟り的なものが起きたわけではないし。

 まずは落ち着く。これ大事。

 事故物件のイメージとは違って綺麗だし、悪くないかな。

 とりあえず、四善に写メでも送るか。




学校の階段「画像」

五分後。

ナチュ「ねぇ、なんか天井に手形みたいな染みあるけど?」

学校の階段「えっ」

ナチュ「あ、いや、でも部屋全体の空気は澄んでるみたいでいい感じじゃないかな? 内装も明るいし、写真いい感じだし。これで台所にトイレとお風呂が別でついて、寝床もあるんでしょ? かなりの優良物件じゃん」


 今更感がヤバい。四善の説得力はどこかに旅立ったか、もしくは他界したか。南無阿弥陀仏。


ナチュ「せめて生かしてほしいかな!?」

学校の階段「まあ、事故物件とも言うけどね」

つっくん「今のところ何もないし、何かあっても僕が守るから問題ないね」

ナチュ「ひゅうひゅう」


 何か、といえばトイレの花子さんがいるが、言わぬが花だろう。花子さんだけに。

 それに何だこの三條のセコム感は。24時間安心してご利用いただけますか。


ナチュ「とりあえず、つっくん? 守るとか何とか言って、なっちゃん襲っちゃ駄目だからね?」

「なぁぁぁぁぁぁっ」

 相変わらず耐性なさすぎだろ。あと五月蝿い。

学校の階段「こいつに襲う甲斐性なんかないだろ」

ナチュ「確かに」

 あ、説得力復活。


 新しい学校、新しい制服。

 高校生という新しい地位に君臨した私たちがまず最初に胸を躍らせるのは、クラス分け。

 どんなクラスメイトがいるのかなぁ、なんて、ちょっとどきどきしながら教室に行ってみたり。

 ──なんてことは私には存在しない。

「やっぱり一緒のクラスだったね! 魁さん」

「何がやっぱりなのかな。君は何か仕掛けたのかな。そっちの方がやっぱりだと思うよ」

 薄々気づいてたけどね! こんなことになる気はしてたようんうん!

 案の定、三條と同じクラスの私。

 がっくりと肩を落とした私の背中をぽん、と叩く人物がいた。顔を上げると、快活な笑顔の四善がいた。

 いや、快活に見えるがちょっと困り顔だ。

「残念、クラスバラバラになっちゃったね。でもよろしく」

「うん」




 ……あれ、この人の仲介なしで私三條と正常に会話できるかな。

 新学期から不安がいっぱい。

「げ」

 教室に入って気づいた。

「あ、華子ちゃん」

 可愛いオーラ全開で私の名前を呼ぶそいつのせいで周囲の視線が一気に私に刺さった。どうしてくれるんじゃ。

「あ、やべぇ好み」

「綺麗系女子キター!」

「双葉ちゃん可愛いであの子綺麗とかこのクラス最高」

「今時はなこなんて名前のやついるんだ」

 最後のやつに激しく同意。

 なんだか皆さま新学期から順風満帆のようで。幸せになってくれ勝手に。

 女子からの反応は。

「双葉ちゃんが言ってたのあの子ー? 確かに美人だね」

「可愛いの双葉ちゃんと綺麗の魁さんか……」

「美人なことを鼻にかけてないのが逆にむかつく」

 だったらどうしろと。

 高校も前途多難だなぁ。舞とクラス一緒とかまじ面倒くさい。舞、既にクラスの何人か味方につけてるし。

 出席番号順で席が遠いのが救いかな。

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