第8話 ハハハ

「さーきがーけさーん!」

 学校。聞き慣れた声に声をかけられて、私は大抵その声を不気味だとか怖いとか思うのだが、その日のやつは輪をかけて気色悪い声をしていた。

 ……なんて声に出して言ったら、学校中の女子が全員敵になる。私はそんな面倒くさいことはしない。

 故に、やつを避けられなかったとも言える。

「魁さん、おはよう!」

「……おはよ」

 きらっきら笑顔の三條である。三條はいつもこの調子だが、今日は輪をかけてうざい。だが口に出せない。面倒くさい。

 とりあえず挨拶は返したからいいだろうと思ったが、そうだったこいつ隣の席だったこの世は地獄か。

 三條がきらっきら笑顔でぴらりと一枚のちらしを出す。

 私はとても嫌ーな予感がした。だから、とってもそちらを見たくなかった。

 だが、三條は先に答えを言ってしまった。

「魁さん、いい物件見つけたよ! 学校も近くてスーパーも近い、ついでにいえば駅近の優良物件だよ! しかも家賃は月一万二千!」

「事故物件じゃねぇの!?」

「そんなことはないよ。何年か前に転落事故が相次いだらしいけど、法律的には何年も前の話だし、全然事故物件じゃないって」

「いや、完璧事故物件じゃねぇかよ!」

 というか、なんでそんなことまでしっかり調べてんだよ!

「大丈夫、僕が一緒であるからには、魁さんを必ず守ってみせる!!」

「住む気満々じゃねぇか!!

 っていうか、やっぱり事故物件じゃねぇか」

 もうちょっと金かかっていいからましな物件にしようよ!

「あらぁ、華子ちゃんったら幽霊が怖いのー?」

「どっから沸いた舞」

 舞は隣のクラスのはず……あ、まだ始業前だからいいのか。

 明らかに私を馬鹿にする口振り。

「可愛子ぶりっ子しちゃって。嫌だわぁ」

 お前に言われたくはない。

「わかった、事故物件だろうがかまわないからその物件にしよう」

「一緒に住んでくれるんだね!」

「何故そうなる!」

「もう、朝っぱらからのろけちゃって~」

 四善が刺さってくる。

「のろけてない。っていうか、のろけてるとしたらこいつの一方通行だから」

「見せつけちゃって。はぜればいいのに」

 舞、五月蝿い。

「っていうか、カレカノじゃあるまいし、なんで同居になるの。私はあくまで一人暮らしがしたいの」

「でも、事故物件だから危ないよ」

「ほら! 今! 言った! 事故物件って! 認めた!」

 やってらんない!

「物件自分で探す!」

「一緒に暮らすために?」

「違うから!」

 もう、こいつの高校の心配なんかした自分が憎い。

「え、心配してくれてたの?」

「きらきらした目で見るな!」

「じゃあ、僕も魁さんのこと心配だから、ずっと一緒にいてもいい?」

「告白かよ!」

「告白だよ!」

 なんでこうなるんだよぉぉぉっ!!!!


ナチュ「高校合格おめでとう!」

つっくん「ありがとう」

姿見の踊り場「うん」

ナチュ「なっちゃん名前どうした?

 ま、つっくんとなっちゃんは心配なかったけどね」

姿見の踊り場「ナチュも同じ学校というのはびっくりした」

ナチュ「つっくんいるところに我あり、なんつって」


 実際は四善の成績が悪いとも言う。

 四善はいいおうちの生まれなのだが、あまり優秀な人間ではないらしい。低レベルの学校にしか入れないというのはその程度の成績しかないというのもあるが、成績優秀者で幼なじみの三條と共にあるというのも目的のうちにあるらしい。

 とりあえず。


姿見の踊り場「同じ学校になれてよかったね」

ナチュ「うん、万歳」

つっくん「これで同棲生活だね!」

姿見の踊り場「そこかよ!」


 家に帰ってもこいつがいるとか嫌だー。


 ──というわけで、今、三條が我が家を訪れ、母に菓子折を渡している。イマココ。

「噂には聞いていたけど、三條くんって本当にイケメンねぇ。華子には勿体ないくらいだわ」

「うん、勿体ないと思うんだったら、他の子見繕ってこいつとの同棲という現実を無に帰してくれないかなぁ」

「華子ったら照れちゃって」

 そうじゃない。そうじゃないからお母さん。

「お父さんも、娘さんと同棲させていただきます。よろしくお願いいたします」

「お前のお父さんではない!」

 定番すぎる親馬鹿発言とか恥ずかしいよ、こんの親父。

「お父さんに認めてもらえるよう頑張ります!」

 あ、三條がますますきらきらしたじゃないか!

「まだお父さんでは」

「まあまあ」

 親馬鹿(男)を物理で沈めたお母さん強い。

「とりあえず、元気に過ごすのよ」

「うん」

 ここまで来たら仕方ない。

「いってきます」

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