第7話 はちゃめちゃ
何の因果か、私と三條、四善の席は近い。
というわけで、校内では専ら三人で駄弁っている。
「で、で? つっくんなっちゃんと同棲?」
「そのつもり」
「却下」
食い気味で否定した。
捨てられた犬みたいな顔すんな三條。捨てられた犬見たことないけど。
「大体私は一人暮らしがしたいんだよ。居候なんて困る」
「いいじゃん僕たち恋人なんだし」
「ちゅーもしてないのに?」
「ぐぬ」
あからさまにからかう四善に顔を赤らめる三條。ピュアボーイなんだか腹黒なんだかわかんない。安定しろよ。
「俺は三條を恋人だと思ったことは一度もない」
「ええっ!?」
友達にはなったが恋人になったつもりはない。
「確かにデートにも行ったことないし、ちゅーもしてないし、手を繋いだことはないけど、魁さんのことを甲斐甲斐しく世話する妄想なら何回もしたよ!」
「気持ち悪っ」
妄想だけかよ!
「言われてみると、つっくんはなっちゃんの恋人っていうより、甲斐甲斐しく世話焼いてる人って感じだよね」
確かに。ド正論である。
「でも、なっちゃんはお世話されるほどだらしないわけじゃないからなぁ。つっくん過剰接待?」
「ぐふっ」
三條に口撃がヒット。効果はてきめんだ。
普通にしていればただのイケメンなのだが、私に対する態度でいくと、こいつ結構ヤバい。
私だけ特別扱いしているからこそ、私が妬まれる原因になっているとも言う。
ここで四善がにたりと悪い顔。
「もしかして、なっちゃんの体目当て?」
「んなななっ」
「いや、付き合って二年も経つのにキスの一つもできないやつだぞ? そんな甲斐性ないだろう」
「ぐほぅっ」
効果はてきめんだ。
「だよねぇ、手すら繋げないとかまじで甲斐性なし」
辛辣だな四善。お前、三條の幼なじみなんだよな? 三條がもうずたぼろなんだが。
と、まあ、恙無く日常が過ぎてい……かなかった。
例によって掃除当番の時。
トイレの扉を開けた瞬間にすぱぁんとデッキブラシが飛んできた。
目に当たったまじいてぇ。
踞り跳ね返ってきた扉にぶつかった私を嘲り笑うクラスメイトの有象無象。
「きゃはははは! いいザマね! 前から気に食わなかったのよ。司くんに見初められたからって調子に乗っちゃってこのブス!」
「ありがとうございます!」
「え、何、マゾ?」
違う。ただ初めて美人ではなく、ブスと言われたのでちょっと嬉しかっただけだ。
「ブスって言われたいとかマゾ以外の何だっていうの……」
「そんなことも知らないの? 苦労人っていうのよ?」
今現在苦労の真っ最中です。
「ブスの気持ちも知らないで!」
美人の苦労も知らないで、と叫びたかったがやめておいた。落ち着いて考えると、ナルシストにしか聞こえない。
そろそろ花子さんが来るだろうか、と思っていたら、傍らに立つ見慣れた人物がいた。
「え、何これいじめ?」
四善だった。
何これいじめではなく、紛れもないいじめなのだが。
「っていうか来るなり目潰しとかえげつないね。あなたたち人間? それとも桃太郎と鬼退治に行った雉?」
いや待てなんだその例えはとかツッコむ前に噴いてしまった。
「ちょ、桃太郎と鬼退治に行った雉って。ピンポイントすぎ」
「目潰し発祥の物語じゃん」
「目潰し発祥って」
ぽかーんとするいじめっ子に、天然を爆発させる四善と、爆笑で立ち上がれなくなっている私。いじめっ子的には想定外だろう。私もここまで四善の天然がスパークするとは思っていなかった。
いやいや、たくさん笑わせてもらった。とりあえず。
「四善、トイレ掃除よろしく。私はイマジナリーフレンドと一緒にこいつらにお仕置きするから」
「OK、任せといて」
いや、イマジナリーフレンドについてはツッコまないのか。
天然って恐ろしいなぁ、と思いながら、私はトイレの個室にいじめっ子を閉じ込めた。
あとはイマジナリーフレンドもとい花子さんのお仕事だ。阿鼻叫喚だが、知ったことか。
ナチュ「いやぁ、今日は大変だったねぇ、なっちゃん」
学校の階段「あれを大変だったの一言で済ませるナチュすごい」
ナチュ「トイレぴっかぴかにできた」
学校の階段「うんうん、その調子でナチュは美人になればいいと思うよ。元々美人だけどね」
ナチュ「おだてないでよ~。なっちゃんの方が美人だよ」
学校の階段「ところでさ」
ナチュ「話逸らしたね」
学校の階段「つーが来ないけど、なんかあったのかな」
四善にしては珍しく、考えるような間があった。
つーは今日もグループに来ていない。何かあったのだろうか。
万が一にも、私を妬む女子共が三條を傷つけることはないだろう。三條が好きなのだから。
ナチュ「つっくんもあれで、高校受験のこと、悩んでるんじゃない? なんだかんだ成績いいし」
そう、三條は学校から脅されて推薦受けさせられそうなほど頭がいいのだ。
自慢ではないが私もそんな目に遭った。すると不思議なことに教師陣はトイレを怖がり始め、何も言ってこなくなった。
あいつは私の志望校知っていたくらいだから、学校合わせるくらいはしてきそうだなぁ、と思う。二、三年の付き合いだが、なんとなく。
だが、それだと成績優秀者をいい学校に行かせてイメージアップしたい学校としては、あまりよろしくないだろう。私の志望校は赤点常連でもちょっと頑張れば入れるくらいのレベルの低い学校なのだ。
……まあ、どうこう言っても仕方ない。最後には三條の決めることだ。口を出すのも無粋だろう。
そういえば、三條は滅茶苦茶イケメンだが、美人と同様に苦労が多いのだろうか、なんて心配してみる。そんなシーンに私は出会していないが、出会していないだけで、三條が密かに苦労しているかもしれない。
たまにはちゃんと話を聞くことも必要だろう。恋人は認めないが、友達ではあるのだし。
──そう思っていた時期が、私にもありました。
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