第5話 高校は悠々自適な一人暮らし!

ナチュ「えー、ちゅーもしてないの? 付き合って一年近いんでしょ?」

学校の階段「別に付き合った年数とキスのタイミングはどうでもいいだろう」

ナチュ「なっちゃんって大人の階段上ってる感じだよね。もしかして恋愛のABCはもうやっちゃってる感じ?」

学校の階段「私は生娘だが」

つっくん「なんて話してんだよ!」


 一人三條だけが照れている。意外とこういうのは奥手なのか。新しい発見だ。

 というか、私は恋愛をしているつもりはないし、恋愛をするつもりもない。だから別に自分が大人だろうが子どもだろうが一切気にしない。

 だが、サイトで三條をいじるのは楽しい。


学校の階段「ということはあれか、つーはどーのてーなのか」

ナチュ「そだよー」

つっくん「勝手に答えるな!」


 四善の天然が恐ろしい。


 いじめについてだが。

「いやぁ、久しぶりぃ。華子ちゃん元気してた?」

「……花子さんなんでここにいるんですか?」

 トイレの花子さんが中学校にまでいるなんて聞いていない。だが、おかげで、私のイマジナリーフレンドの恐ろしさを知るやつはちょっかいかけてこなくなった。花子さんすげぇ。

 どうやら、花子さんは学校なら小学校だろうが中学校だろうが関係ないらしい。ということは流れで高校にまで出てきそうだ。注意しておこう。

 して、話を戻すが、私のいじめの首魁だった舞は別のクラスになった。

 まあ、黙っていればやつも美人なので、クラスでちやほやされて上機嫌らしい。私にちょっかいかけてこなくなったので清々した。






 ──と、思っていた時期が私にもありました。


 私が清々していてもあちらが清々しているとは限らず、

 事件は起こった。


「きゃーっ」

 それは朝、騒々しく起こった。

 美少女の上げた悲鳴に注目しない者はおらず、私もついそちらに目をやってしまった。

 それがいけなかった。

 その美少女──もとい、舞の下駄箱からはぞろぞろとミミズやらムカデやら。女子なら鳥肌が立つであろう虫たちがたむろしていた。

 女子が悲鳴を上げたが、私的には欠伸が出るほどの退屈な芝居だった。

 小学校の頃畑仕事でミミズをぶちゅっと殺していた舞を知っているのだ。演技だというのはバレバレである。

 だが、それを知らない者の方が多かったらしい。

「誰がこんなこと……あっ」

 舞の一挙手一投足に目を奪われている。

 注目された舞が私を指差す。こら、人に指差すんじゃない。

「あの子がやったのよ! 小学校の頃仲良くしてたのに、ちょっと私が褒めそやされるようになったからって嫉妬して」

 ……いや、舞が褒めそやされているなんて一ミリも聞いたことがないのだが。

 面倒くさいので教室に行こうとしたら。

「逃げるの?」

 必死というよりは不敵な声。ほら、演技が崩れてるよ。

 まあ、いいけど。

 舞は何としても私を貶めたいらしかった。

 既に私設親衛隊という輩が舞を囲っている。俺にはそんなのいねぇから充分勝ってると思うのだが。

「私にこんなことして、よく平気でいられるわね」

「平気だから仕方ないでしょ」

 疚しいことがないとも言える。

 人の噂は七十五日というし、根も葉もない噂はそのうちなくなるだろう。

「魁さんに変な言いがかりをつけるのはやめろ」

 げ、と言ってしまいそうなのをこらえた。

 三條が私を庇うように立った。

「学校一のイケメンさんを味方につけて、いいご身分ねぇ」

 イケメン何人も味方につけてるあんたにそのまま台詞をお返しするよ。

「悲劇のヒロイン気取るつもり?」

「ブーメラーン」

 そのまま何事もなかったかのように教室に座る。

 遅れてやってきた四善が、私に声をかけてきた。

「なんか、大変だったね」

「ん、まあ、いつもあんな感じだよ、あいつ」

 自分で行動に出たのは初めてかな? あ、二回目か。

 最初はバケツの水ぶっかけられたんだよな。そういえば、あのとき三條に出会ったんだっけ。

 三條も物好きだなぁ。舞みたいな美少女じゃなくて私を選ぶとか。私を守る下りとかめっちゃ騎士だったぞ。

「つっくん、なっちゃんのこと相当好きだよ」

「どの辺が?」

「それは本人にしかわからぬ。ついでに言うとあたしもなっちゃんのこと好きだよ」

「物好きだな」

 イマジナリーフレンド持ちなんか放っておけばいいのに。

 物好きで結構ですー、なんて言う四善と、気遣わしげな三條を見て、……ちょっぴり、口角が吊り上がった。

 そろそろ、高校受験を見据えなければならない時期になった頃。


ナチュ「いるー?」

踊り場の姿見「おん」

つっくん「今日は姿見か」

ナチュ「暇な受験生だね」

踊り場の姿見「お前が言うか」

ナチュ「ところで高校決めたー?」


 私のツッコミが華麗にスルーされてしまった。

 まあ、高校をどこにするかというのはそれなりに大きな問題だ。人生の一大イベントと言ってもいい。


学校の階段「決まってる」

つっくん「あ、階段になった」

ナチュ「なっちゃん決まってるの? どこどこー?」

学校の階段「言うかアホ」

 ここはコミュニケーションサイト。サイトというからにはインターネットの中にあり、高校の名前なんて入力したら身バレすること間違いなし。ネットリテラシーもわからんのか。


学校の階段「まあ、一人暮らしするのは決まってるけど」

つっくん「まじ!?」


 三條の食い付きがよくてびっくりした。

 私が高校に入ると同時、一人暮らしをするのは前々から決めていた。

「父さんは反対だ。可愛い娘を手放すなぞ」

「大学まではいてもいいのよ?」

 なんて母さんは言うが。

「華子のような可愛い娘を一人暮らしさせるなんて狼の群れの中に放り込むようなものだ!」

「お父さん、うざい」

「は、華子、そんな無体な……!」

 女子あるあるだ。過保護な父親がうざい。

 いずれは自立しなきゃなのだし、別に一人暮らしは一回経験していていいと思うのだが……

 私の一言でダメージを受けた父親に母親が言う。

「ほら、こうして親に対して物言いをするっていうことは華子がそれくらい自立したってことよ」

「何吹き込んでんの」

「そうか! そうか! 成長したなぁ、華子!」

 ……あー、こんな馬鹿親のところになんていたくない。

 それが私の一人暮らしへの決意を固めさせたものだった。


ナチュ「わははは! なっちゃんの親まじウケる!」

学校の階段「一応私の親なのだからあまり笑わないでほしいんだけど」

ナチュ「なっちゃんまじウケる」

学校の階段「オイ、より失礼になってんぞ」


 そこからおそらく腹抱えて笑っているのだろう四善から返信が来なくなって数分。退屈になってきたので、勉強でもしようかと思ったのだが、あることに気づいた。

 三條のやつの返信がふっつり途絶えたのだ。

 一応グループなのだから、合いの手くらいは入れてくるんだが。


学校の階段「おーい、ミッツ」


 …………。

 あれ、いつもならマングローブじゃないとかツッコんでくるのになぁ。もしかして、もう閉じた?

 まあ、あいつも勉強始めたのかな。志望校あるだろうし。

 三條は異様に世話好きなところを除けば真面目なやつだ。きっと、高校もいいとこ行くんだろうな。




 ──そう思っていた時期が、私にもありました。

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