第4話 新しい友達とSNS

さきがけさん、リボンがずれてるよ」

「こらこら、校則で開けていいのは第一ボタンまででしょう」

「スカートに埃がついてる。取るよー」

「暑くなってきたね。はい、熱中症対策のスポドリ。もちろん僕の奢りだよ。あ、気にしなくていいからね」

「プールの授業あったよね。ほら、僕の日焼け止め貸すから」


 …………

 ………

 ……

 何なんだこいつは。

 とりあえず1ヶ月ほど過ごして思った。

 何だこの異常な世話焼きっぷりは。甲斐甲斐しいにも程があるだろうに。

 イケメン王子というより、女王さまの側近みたいなんですけど。色々怖い。

 私は女王さまになった覚えはないし、恋人になったつもりもない。

 だが。


「あ、目の下に隈ができてる。何か悩み事?」

 お前のせいだよ!

「寝不足はお肌の天敵だよ。魁さん美人なんだから」

 余計なお世話じゃ!




 こんな世話焼きと軽々しく友達になったあのときの自分をぶん殴りたい。


 恋人キープのまま迎えた二年生。三條の世話好きは変わらず、しかし、私は家で反旗を翻していた。

 トイレの掃除しない宣言。

「ブスでもいいから私に普通の生活はよ」

 というのが本音だった。学校一のイケメンと付き合ってるとかただでさえ多い敵が増えるだけじゃん。

 そんな面倒くさい状況を私は許さない。というわけで家のトイレ掃除は一切しなくなった。

 家に帰るとベッドにぼふん。癒しや、と思いながら、新学期早々できたモノホンの友達について考えた。

「あ、あなたがつっくんの彼女さん? えらい美人さんだなぁ。あたし、四善しぜんかな。つっくんの幼なじみ。よろしくな」

 えらいフランクに話しかけてきた後ろの席の子。あんたもそこそこ美人に見えるが。

「魁華子。よろしく」

「わあっ、噂通りのクールビューティーやぁ。よろしく」

 クールビューティーって誰だよそんな噂流したやつ。

 というわけで四善と友達になった。よく考えるとまともな友達第一号だった。


 一応今時の中学生らしく、スマホを持っている私。

 メアドは三條にも四善にも渡してあるが、コミュニケーションサイトというものを使って会話することになった。まあ、メールは個人同士のやりとりだ。三人以上でやりとりするなら、サイトを使うのが今時真っ当なやり方だろう。

 三條と四善のグループに入れてもらい、会話する。

ぴこぴこ受信する。


ナチュ「やっほ」

つっくん「やっほ」

トイレの神様なんて信じない「やっほ」

ナチュ・つっくん「「待って」」


 ん? 何かおかしかっただろうか。


ナチュ「名前長くない? なんて呼べば?」

つっくん「そのチョイスはいかに」

トイレの神様なんて信じない「え、適当に呼んでよ」

ナチュ「むずっ」


 うーん、トイレの神様なんて信じない、というのは私の主義主張であるからぴったりだと思ったのだが。


ナチュ「じゃあ、なっちゃんって呼ぶね」


 うん、何がどうなったかね。


つっくん「まあ、ナチュは渾名付けるの好きだからね。トイレの神様なんて信じないの『な』からじゃないの」

トイレの神様なんて信じない「ヤバいな」

トイレの神様なんて信じない「変える」

つっくん「そうして」

トイレの花子さん「どや」

つっくん「方向性変わってなくない?」

ナチュ「無意味などやww」


 悪くないと思うのだが。まあ、他人(語弊)の名前を借りるのもよくないか。


トイレ「じゃあ」

つっくん「選ぶ方間違ってない?」

ナチュ「それでもあたしはなっちゃんって呼ぶ!」

トイレ「強かだね」

つっくん「強かってそういう意味だったっけ? とりあえずトイレネタから離れる気ない?」

トイレ「そうだな、ここまでトイレを全面に出していると逆にトイレを気にしていることになるか」

つっくん「そういう意味じゃないけど変えて」

トイレ「わかた」

つっくん「早くしようか」


 うーん、私からトイレを取ったらどうなるのだろう。

 わからないがとりあえずえいやっと新しい名前を入力する。


学校の階段「どや」

つっくん「うん。まさか君にネーミングセンスがないとは新しい発見だ」

学校の階段「失礼乙wwww」

つっくん「君笑うところじゃないからね!?」


 三條は本気で私を心配してくれているようだ。世話好きオーラが画面越しに伝わってくるとはどういうこっちゃ。

 ところでナチュこと四善がさっきから浮上してないが。


学校の階段「ナチュ?」


 五分後。


ナチュ「ごめん、リアルで腹抱えて笑っとった」

学校の階段「いくらなんでも笑いすぎだろ」

ナチュ「今度はトイレの花子さん引きずってるね」


 スルーか。


学校の階段「なんだ? 音楽室のベートーベンの方がよかったか?」


 返信がないので。


音楽室のベートーベン「どや」

つっくん「ちょ」

ナチュ「wwwwwwww」


 草生えてもうた。

 画面越しの会話はなかなか楽しかった。私はネーミングセンスがないのではなく、自分の名前に拘りがないのだ。

 サイト内で気取った名前をつけるのも馬鹿らしい。

 というわけで結局私のアカウント名は「学校の階段」に落ち着いた。後で「踊り場の姿見」にでもしておこうと思う。

 四善はサイトもリアルも性格が変わらない。話しやすい。

 三條はサイトだと振り回され役のようだ。南無三。

 そんなサイトで三條をいじるのは楽しい。


ナチュ「つっくんとなっちゃんはちゅーはもうしたの?」

つっくん「なっ」

学校の階段「してないが? どや」

ナチュ「何故にどや顔」


 四善は天然でとんでもないことを聞いてくるから、そのたびに右往左往する三條の反応が面白くてついいじってしまう。

 ……そういえば、私と三條は恋人だったか。

 これからどうなることやら。

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