143 烈風VS剛雷
俺が封印塔の屋上に駆けつけた時には、既に役者が揃っていた。
ヘルムート、ヘンリエッタ、シオン、そして、「古豪」のベルナルド。
俺の後ろからはほどなくしてクロエやダディーンが追いついてくるだろう。
屋上には何やら見慣れない装置がある。
いや、ある意味では見慣れた形状をしているか。
アイオロスのシンボルであるブレイブキャリバー。
あれを小型化したような魔導装置が、さっきまで俺たちの戦っていたあたりへ向けられ置かれていた。
……殺気のようなものを感じたのはこれのせいか。
ベルナルドとヘルムートが対峙し、シオンはヘンリエッタをかばう位置に立っている。
ヘルムートが敵方のように見えるが、さほど意外というほどではない。
「おう、ゼオン。遅くなっちまったようだな」
ベルナルドが状況に見合わぬ軽い口調で訊いてきた。
「悪いが、本当に遅かった。ネゲイラはもう捕縛した」
「な、なんだと!? 俺はネゲイラをやれるって言うから慌てて飛んできたんだぞ!」
ベルナルドが乗ってきた飛竜は塔の上空を旋回している。
その背中にはベルナルドのパーティメンバーが乗っている。
「思ったよりもネゲイラの動きが早かったんだ」
ネゲイラをおびき出すに当たって、俺はベルナルドにも声をかけていた。
もちろん、一方的にフレンド登録し、リンクチャットで通話したのだ。
カントール雷原で修行中だったというベルナルドは、文字通りに飛んできた。
空振りに終わるかもしれないとは言ったんだが、可能性が少しでもあるなら行くと言ったのだ。
「逃げられないようにしてあるから、今はネゲイラのことは忘れてくれ。それより――」
「ああ、そうだな。どうしてシオンとヘルムートがやり合ってやがったんだ?」
ベルナルドも勇者だけに、ヘルムートのことは知っているらしい。
「ヘルムート先生は――いや、ヘルムートは、その魔導具を使って生徒もろともゼオンを消し飛ばそうとしてたんだ」
シオンが問題の装置を指さしてそう言った。
「はあ? なんだってそんなことを」
「僕に訊かれても知るもんか」
ベルナルドとシオンの会話は、俺が知ってるときより砕けた感じになってるな。
「ま、細けえことはいいか。そういうことなら、ヘルムート。おまえを捕縛させてもらうぜ」
「ほう。万年Bランクのロートル勇者が大口を叩いたもんだな」
傲然と開き直った様子のヘルムートにいつもの謙虚さはない。
いや、これこそがこいつの地なんだろう。
「てめえこそ、いつものクソ丁寧な気持ち悪いしゃべりはどうした?」
「格下相手にへりくだる必要があるのか?」
「じゃ、格上にはおおいにへりくだるってわけか?」
「俺の価値を認められる者には敬意を払うさ」
「そんな安っぽい敬意を払われて有難がる奴もいねえだろうに。しかたねえ、俺がおまえに引導を渡してやる」
「舐めるなよ」
ヘルムートがワンドを前に、剣を後ろに回した構えを取る。
「エクストラスキル『烈風斬』――だったか」
ベルナルドはつぶやくと、ハルバードを担ぐような構えを取った。
「……貴様はエクストラスキルを持っていなかったはず」
「ふん、おまえみたいな小物じゃなくて、あの魔族を討つために会得してきた技なんだがな」
ベルナルドが修行で身につけた新技か。
決闘じゃないんだから一対一で戦う必要はないんだが、俺の出る幕はないらしい。
……勇者同士の戦いを見せてもらおうじゃないか。
先に動いたのはヘルムートだった。
「『烈風斬』――!」
DEXカンストの今の俺でも見失いそうな猛烈な加速。
剣で斬るというよりは全身を風の刃と化して切り裂くような一撃だ。
巨大なかまいたちと化す回転斬り――というとわかりやすいだろうか。
鮮やかな緑の旋風は、周囲のものを見境なく吸引し、切り刻む。
対して、
「『雷爆断』!」
雷が落ちた――そう錯覚するような一撃だった。
ベルナルドが全身の筋肉をうねらせ全力で振り下ろしたハルバードが、落雷そのものと化したのだ。
紫がかった雷が天から降り、ハルバードに従って敵を撃つ。
烈風と剛雷が拮抗した。
勇者同士の最強の一撃の対決を制したのは――剛雷。
雷が烈風を吹き散らし、ヘルムートの身体を雷撃が襲う。
「うがああああっ!」
吹き飛ばされ、塔から落ちかけたヘルムートを、飛竜が足の爪でキャッチした。
飛竜はそのまま、封印塔の屋上へと降りてくる。
どさっと投げ出されたヘルムートに駆け寄る俺。
インベントリから魔紋檻を取り出し、扉を開く。
ヘルムートが魔紋檻に収容された。
「そ、それは……」
とつぶやくシオン。
めちゃくちゃ嫌そうな顔をしているな。
あいつはクルゼオンでのスタンピードの時に魔紋檻に入れられ、ゴブリンキングに散々振り回されていたからな。
が、シオンは気持ちを切り替えるように首を振ると、うずくまるヘンリエッタに歩み寄る。
戦いでボロボロになった上着を脱いで、ヘンリエッタの肩にかける。
「ボロボロで悪いけど」
「……ありがとう、シオン君」
ヘンリエッタがシオンに感謝する。
状況から察するに、シオンがヘルムート相手に戦ってヘンリエッタを守ってくれてたみたいだな。
まだレベルが低いはずのシオンがどうやってヘルムート相手に食い下がったかは気になるところだが……。
そこで、俺にベルナルドが話しかけてくる。
「おい、ゼオン。ネゲイラはどうなった?」
「ああ」
俺はインベントリからネゲイラの入った魔紋檻を取り出した。
「う、ふふふ、あはははは……」
ネゲイラが乾いた笑いを漏らす。
「どうなってる? 様子がおかしいぞ」
「死の瀬戸際まで追い詰めたからな……」
と言ってると、俺の死角からいきなりクロエが飛び出した。
剣を抜き打ちに、ネゲイラに斬りかかろうとしたところで、
「っと、待て嬢ちゃん」
「離して!」
自分の腕を掴んだベルナルドにクロエが抗議する。
「ふん、嬢ちゃんがやらなけりゃ俺がやってたかもしれんな」
「いいのか、殺さなくて」
「じゃあ訊くが、俺や嬢ちゃんが今ここでネゲイラを殺そうとしたとして、おまえはどうする?」
「……止めるだろうな」
「こいつの扱いは、こいつを捕らえたおまえが決めることだ」
「実際、難しいんだけどな」
ネゲイラのやってきたことを一部なり裁くことはできなくもない。
いちばん簡単なのはクルゼオンでのスタンピードに関与したことを立証してシュナイゼン王国に引き渡すことだな。
その件だけでも死罪は免れないところだろう。
まあ、魔族に裁判を受ける権利があるかという問題はあるんだが。
と同時に、ネゲイラには情報源としての価値もある。
謎に包まれた魔族たちの動向をネゲイラから聞き出したい。
「可能な限り苦しませて殺すべきだわ。邪魔をするなら先生も斬る」
物騒なことを言ってきたのはクロエだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます