136 魔族のステータス
『あら、覚えてくれていたみたいね。嬉しいわ』
「……どうして俺にリンクチャットを……いや、そうか」
プレイヤーはノンプレイヤーキャラクターを相手の同意なしにフレンドにできる。
俺がネゲイラと相まみえた時、俺はまだ勇者ではなかった。
当時の俺はノンプレイヤーキャラクター扱いだったはず。
「おまえもプレイヤーだったんだな」
『大正解。魔族がプレイヤーなのがそんなに意外かしら?』
「……考えてみればそうでもないな」
この世界が古代人の創った遊戯空間なのだとしたら、魔族役の古代人がいてもおかしくない。
鬼ごっこに鬼が必要なように、遊戯としてのこの世界にも悪役が必要だった。そう考えることもできる。
だが、この世界は遊戯ではなく現実だ。
現実問題として、魔族は策謀を巡らせ、多くの人を不幸にしている。
古代人はそれをも含めて「遊戯」と認識してたってことなのか?
それとも、古代人にとっても現代のこの状況は想定外のことだったのか。
『ねえ、私が今どこにいるかわかるかしら?』
ねっとりとした声で、ネゲイラが訊いてくる。
アカリからクルゼオン近辺で暗躍してるらしいことは聞いてるが、それを馬鹿正直に教えてやる必要はない。
ネゲイラからのリンクチャットが数秒途絶えた。
『うふふ……今、私はあなたのすぐ後ろにいるわ』
「っ!」
言われたことを理解すると同時に、俺は全力で前に跳ぶ。
右手にロングソードを取り出し、振り向きざまに薙ぎ払う。
俺の剣が斬ったのはネゲイラの残像。
と同時に、俺の背後に気配が生まれた。
俺は強引に身体を倒して地面を転がり、距離を取って向き直る。
星明かりの中に、ネゲイラがいた。
漆黒の白目、赤い瞳、縦に裂けた金の瞳孔。
煽情的なドレスにかろうじて隠された青紫色の肢体。
今日は前にかぶってたフードはかぶってない。
以前は嫣然とした笑みを浮かべていたが、今日のネゲイラの笑みは表面だけで、瞳の奥には剣呑な光が宿っている。
「愛しくて、会いに来ちゃった……私の
「ふざけるな」
「あら、あながちふざけてもいないのよ。あなたは私のお気に入りのおもちゃだった。でも、残念ながらもう過去形なのよね」
「俺が力をつけすぎたから……か?」
「あいかわらずたいした洞察力だわ。勇者としての力よりもその洞察力こそがあなたの本質よね。私はそこを買っていたのだけれど」
「私は、ということは、おまえ以外の誰かの意向が働いてるってことだな」
「おや、話しすぎてしまったかしら。でもまあ、いいでしょう。どうせあなたはここで死ぬのだから」
「どうせ死ぬんだ。誰の命令なのかくらい教えてくれないか?」
「口の軽い女は嫌いでしょう?」
まあ、さすがに無理か。
「この場所がわかったのは……俺をギルド編成機能で自分のギルドに所属させていたからだな。要するにおまえはギルド編成機能を悪用してノンプレイヤーキャラクターを一方的に監視してるってわけだ」
プレイヤーをギルドに登録するには相手の許可が必要だ。
だが、ノンプレイヤーキャラクターが対象なら相手の許可は必要ない。
ネゲイラは俺と初めて出会った後に、まだプレイヤーでなかった俺を一方的にフレンドにし、自分の作成したギルドに登録したのだ。
それ以来俺の居所はネゲイラに筒抜けになっていたに違いない。
奇しくも俺がクラスの生徒の所在確認に使ってるのと同じだな。
今回は作戦上しかたがなかったが、俺の使い方も「悪用」でないとは言い切れない。プライバシーも何もあったもんじゃないからな。
「もうそこまでわかっているのね。やっぱりあなたは危険だわ。あまり趣味ではないのだけれど……あなたを始末させてもらうわね」
「趣味じゃないならやめといたらどうだ? 他人の使いっ走りに甘んじるようなタマじゃないだろう」
「あら嬉しい。でも、あのお方の言うことは絶対なのよ。宮仕えの辛いところだわ」
「宮仕え、ねえ……」
ネゲイラの殺気が膨れ上がっていく。
……これ以上の時間稼ぎは無理そうだな。
臨戦態勢を取りながら、俺はネゲイラに「看破」を使う。
Status――――――――――
ネゲイラ
ナイトメアサキュバス
LV 49/64
HP 2374/2374
MP 4044/4044
STR 74+34,50
PHY 72+42
INT 157+34
MND 99+39
DEX 87
LCK 79
GIFT ココロノマド
SKILL 超級魔術 逸失魔術 暗黒魔法 爆裂魔法 看破 上級錬金術 上級鞭術 急所突き 黄泉還り 詠唱省略 超越(INT) 初級射撃術
EQUIPMENT ヴァイパーウィップ
ELEMENT 闇+9 火+7 水+6 地+5 風-4 雷-7 光-9
―――――――――――――
俺の顔色が変わるのを見たんだろう、ネゲイラが笑みを深くする。
「うふふ……覗いてみたところで絶望が深くなるだけでしょうに。さあ、存分に愛し合いましょう?」
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