91 対スルベロ・ギフト推理
全身を刺し貫くような、危険な気配を感じた。
実際に温度が下がったわけじゃなく、温度が下がったかのような嫌な予感だ。
俺は詠唱を中断し、思い切り地面に転がった。
直後、俺のいた場所で、金属が風を裂くような鋭い音が連続した。
それはまるで
「……リコリス、か!?」
と声を発するが、煙幕の奥から答える声はない。
離れた場所を攻撃する――リコリナの「遠隔斬撃」と同様のギフトか?
だが、リコリスは戦闘開始とともにスルベロの背後に回り込むような動きを取っていた。
その位置からでは煙幕の中の俺を正確に「狙撃」することはできないはずだ。
じゃあ、リコリナが?
だが、今の攻撃は「斬撃」ではなく「刺突」だった。
「遠隔斬撃」と言いつつ刺突も範囲内という可能性もあるが、リコリナはガルナとの戦いに手一杯で、こちらに気を配る余裕はなかったはず。
やはり、リコリスが俺の知らないギフトで攻撃してきたと思うのが正しいだろう。
俺がそう考えた直後、俺のすぐ脇の空間を、無数の見えない刺突が貫いた。
今回は避ける必要はなかった。
狙いが微妙に甘かったらしく、俺のいない場所で発動したからだ。
リコリスとリコリナは双子の姉妹だ。
俺とシオンがそうであるように、二人のギフトもどこか似通ってる可能性がある。
同じギフトが存命中の二人に同時に授けられることはないらしいから、二人ともが「遠隔斬撃」を持ってるってことはありえない。
おそらくリコリスは、「遠隔斬撃」によく似た別種の攻撃系ギフトを持っている。
安直に考えるなら「遠隔刺突」みたいなものだろうか?
そんなギフトがあるかどうかは知らないけどな。
たしかに、リコリスはレイピアを、リコリナはショートソードを持っていた。
リコリナの剣はフランベルジュのような波型の刃。リコリスのレイピアは大蛇の牙のようなやや湾曲した刺突特化の尖った刃。おそらくは両方とも業物だ。ひょっとしたら七つの獣人種族に受け継がれていた武器なのかもしれない。
ただ、飛び来るガルナに斬撃を合わせたリコリナの「遠隔斬撃」は、目視で狙いをつけて斬りつけるものだった。
今リコリスが俺を狙った遠隔の刺突攻撃は、俺の位置を大雑把に予想して、そのあたりに複数の刺突を同時発生させるものだった。
違いはいくつかある。
まずは、狙いをつける必要があるのか、当てずっぽうでも発動できるのか。
もうひとつは、「遠隔斬撃」は原則一閃の斬撃なのに対し、リコリスのギフトは同時に十撃以上もの刺突をあらゆる角度から発動している。
以上のことを考え合わせると、こんなふうな推理になる。
リコリナのギフトを、仮に「〇〇刺突」と呼んでおこう。
そして、この〇〇の部分には、「遠隔」とは別の、しかしそれなりに関連した別の言葉が入るんじゃないか?
その言葉は、似たような言葉――同義語のこともあるだろうし、真逆の言葉――対義語のこともあるだろう。俺とシオンの「上限突破」と「下限突破」みたいにな。
また、鋭い殺気が周囲に満ちた。
《スキル「殺気察知」を習得しました。》
場違いな「天の声」を無視しながら、地面に慌てて転がる俺。
俺の元いたあたりの空間を、無数の見えない刺突がぐちゃぐちゃに突き刺した。
「あーっ! これですよぉ、マスター! 宿でマスターがざしゅざしゅざしゅってやられたのはぁ!」
「ああ、なるほどな」
てっきりリコリナの「遠隔斬撃」によるものかと思っていたが、俺の受けた傷跡はたしかに刺突によるものだった。
宿で眠っていた俺を殺そうとしたのはリコリスの方だったか。宿を用意したのはリコリスなんだから、そのほうがむしろしっくりくる。
「レミィ、今のはいいヒントかもしれないぞ」
俺の連続詠唱が止まってしまったので、追加で「煙玉」とCランクチケットを撒いておく。
いくら囮があっても、運悪く俺に攻撃が命中するおそれはもちろんある。
リコリスをどうにか排して、スルベロをどうにかすることに集中したい。
……どうにかすることが多すぎるような気がするが、自分を信じてひとつひとつやれることをやってくだけだ。
今は、リコリスのギフトの分析だな。
「リコリナの『遠隔斬撃』は、発生させた斬撃を、空間的に離れた位置に転移させる能力だ。となると、リコリスの『
リコリナの『遠隔斬撃』は、離れたところを攻撃できるが、攻撃の発生時間を選ぶことはできない。
一方、リコリスの『〇〇刺突』は、攻撃の発生時間を選べるが、攻撃の発生する場所はあらかじめ指定しておく必要がある。
具体的には、戦いの前に前もってある場所で刺突を繰り返しておき、その刺突を遅延させて戦闘中に発動させる――そんな仕組みなんじゃないだろうか。
リコリナのギフトは斬撃を
リコリナのギフトは空間は跨げるが時間は跨げず、リコリスのギフトは時間を跨げるが空間は跨げない。
強力なギフトの制約としても妥当だし、双子にペアで授けられたギフトの対称性って意味でもしっくりくる。
この推理は当たってるんじゃないか?
「――『時間差刺突』ってとこか?」
リコリスの隠れているほうへ声をかけると、
「っ!?」
動揺の気配が漏れてきた。
そんな細かな気配が拾えたのは、さっき習得した「殺気察知」おかげだろうか。
その動揺を察したのは俺だけではなかった。
ガルナがすかさず放った炎のブレスが、リコリスをもろに呑み込んだ。
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