90 対スルベロ・接近阻止
俺の「詠唱加速」「デシケートアロー」を喰らいながら、じりじりと距離を詰めてくるスルベロ。
「看破」でスルベロのHPを確認すると、12567/14500。
距離からして、俺がスルベロのHPを削り切る前に、スルベロが俺を射程に入れる。
「どどど、どうするんですかぁ、マスター! あいつ、ずんずん近づいてきてますよぉ!?」
俺の耳元でレミィが叫ぶ。
俺は脳内で必死に対応策を考える。
まずはアイテム。
詠唱しながら「爆裂石」を投げて足止めを図る?
いや、ダメだ。
「爆裂石」のダメージは魔法攻撃扱い。
「詠唱加速」の発動条件は同じ魔法を連続で使用することだから、「爆裂石」の使用が「別の魔法を使った」ものと判定されるおそれがある。
だいいち、火と土の複合属性である「爆裂石」ではダメージを吸収されるだけだ。
エクストラスキル「覇王斬」の余波で押し返すという発想も、魔法の連続使用の中断とみなされるだろう。あの程度の余波でスルベロを押し返せるかも疑問である。
道中で手に入れた他のアイテムなら?
「ピピチカの花」からは、のちに「爆裂石」と錬金して「炸雷弾」を作るレシピを閃いている。
だが、スルベロは雷属性を吸収する。
追加効果である状態異常の「感電」が効くかどうかも疑問だな。
「ぼんやりボム」はどうか?
この錬金アイテムは、「ぼんやり草×3+爆裂石」で生み出せるアイテムだ。
効果は、INTを下げるぼんやり草の効果を広範囲に撒き散らすというもの。
INT(超越)を持つスルベロに使っておくのはいいかもしれないが、足止めの役には立たないだろう。
残るは、「魔獣闘技場:ランクAモンスター召喚チケット」と、同じく「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」、それと「煙玉」。
他にもいろいろあったんだが、持ち物リストの容量の関係で数を絞らざるをえなかった。
鋭い奴の中には、ここで疑問を抱く奴もいるかもな。
俺には「下限突破」がある。
元々は貴重品らしいランクAのチケットであっても、マイナス個数で使いたい放題なんじゃないか? つまり、この場にさらなるランクAモンスターを召喚し続けることができるのではないか? と。
だが、残念ながらこれは無理だ。
Item―――――
魔獣闘技場:ランクAモンスター召喚チケット
魔獣闘技場で用いられるモンスター召喚用チケット。使用すると召喚したモンスターを使役することができる。
一度に召喚できるモンスターは一体まで。
―――――――
問題は最後の一文だな。
複数枚のチケットを持ってたとしても、俺はランクAモンスターを一度に一体しか呼び出せないのだ。
もしそれが可能だったとしても、あまり意味はなかっただろう。
スルベロの持つ能力を考えると、ファイアドレイクに相当するようなランクAモンスターをいくら呼んでも「全属性吸収」と「物理反射」のコンボの前にはなすすべがない。
だが――と、そこで俺は気がついた。
ランクCチケットの方には、この一度に一体という制限はない。
マイナス個数にものを言わせて無限に弱いモンスターを呼び出すことならできるはずだ。
もっとも、スルベロ相手にそれがどんな意味を持つだろうか。
いや……そうだな。
錬金アイテムである「煙玉」と組み合わせれば、おもしろいことができるかもしれない。
実は、マイナスドロップで集めた弱小・謎アイテムの錬金で大活躍だったのが、ミラからもらった「爆裂石」だ。
「爆裂石」はそれ自体の効果が強力なため、錬金術の素材として使うのはもったいないという風潮がある。
だが、直近で思いついたレシピだけでも、「ピピチカの花×3+爆裂石→炸雷弾」「ぼんやり草×3+爆裂石→ぼんやりボム」と二つもある。前回ゴブリンキング戦で使った「ゾンビボム」も爆裂石を使ったレシピだったな。
要するに、「(特殊な効果を付与するアイテム)+爆裂石→(特殊な効果を広範囲に拡散するボム・爆弾)」みたいなレシピが他にも大量にありそうだってことだ。
そのことに学びを得た俺は、まだレシピを閃いていなくても、何か手持ちのアイテムと「爆裂石」を錬金することで、未知のアイテムを得られるのではないか? と考えた。
いろいろ試してみたんだが、「火炎草」との錬金で「焼夷弾」、「アサルトポーション」との錬金で「バーサークボム」が作成できた。
さらに……と俺は考えた。
錬金に使うとランダムに微妙な効果を付与するハズレアイテム「ダークマター(失敗料理)」を「爆裂石」と錬金したらどうなるか?
いくつもどうしようもないアイテムができた中で、ひとつだけ有用そうなアイテムが錬金できた。
「煙玉」だ。
俺は1個しかない「煙玉」を矢継ぎ早に10個以上取り出し、俺の周囲に投げつける。
と同時に、「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」を、同じくマイナス個数で手当たり次第に取り出して、煙幕に覆われた俺の周囲に投げつけまくる。
チケットによってなんのモンスターが召喚されたのか、煙幕のせいでぜんぜん見えないが、ガルナ同様意思の疎通はできるようだ。
「散開して、魔法が使える奴は魔法を使ってくれ。使えない奴は煙幕の中でそれっぽい演技をしろ」
こんな特殊な指示を理解してくれるかは不安だったが、了解の意志をぼんやりとさせたような想念が複数伝わってくる。
ガルナは明確に言語化された返事が返ってきたが、Cランクのモンスターにそこまでの知性はないらしい。
うっすら近くに見えるのは、リザードマンだろうか。
残念ながら魔法は使えないらしく、槍を杖に見立てて魔術師っぽく振ってくれている。
俺の方は連続詠唱が途切れてしまったので、「デシケートアロー」は一からの唱え直しだ。
俺はそのリザードマンの背後に回り込み、可能な限り気配を潜めて呪文を詠唱する。
そのあいだに、煙幕の中の何体かのモンスターがスルベロに魔法攻撃をしかけた。
当然のように吸収される――かと思いきや、スルベロは空中で身を傾けて魔法をかわそうとする様子を見せていた。
巨大な亀をベースとしたスルベロが傾くさまは、古代人がこの世界に持ち込んだフリスビーという玩具にそっくりだ。
が、さすがに身体が大きく、動きが鈍かったせいで、煙幕の中から放たれたファイアアローやウィンドスピア、ストーンバレットがスルベロに命中する。
まあ、当然ながらどの攻撃も小さな渦を描いてスルベロに吸収されてしまったんだが。
それでも、こちらの攻撃を警戒するようになったのは大きな進展だ。
そのあいだに詠唱を終えた俺は、「デシケートアロー!」を放った。
命中を確認しないまま、俺は煙幕の中を移動し、別のモンスターを囮にしながら、「デシケートアロー」の加速詠唱に入っていく。
『イギイイイイ!』
怒りに満ちた声とともに、天から落雷が走り、さっき俺が壁にしたリザードマンが炭化した地面を残して消滅した。
呼び出しておいてすまんとは思うが、他に方法がなかったからな。
さいわい、ランクCチケットで呼び出されたのは知能の低いモンスターばかりで、良心の呵責はマシではあった。
「煙玉」による仕切り直しを挟んだことで、俺はスルベロとのあいだの距離を再び開き、「デシケートアロー」の無限加速連射を再開する。
と、そこで、俺は全身に鋭く突き刺さる、ひやりとした殺気を感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます