89 対スルベロ・緒戦
ファイアドレイク――ガルナが炎のブレスを吐いた。
七霊獣キマイラ――スルベロはそれを避けようともしなかった。
火炎の吐息が悲劇の霊獣を呑み込んだ。
その結果が出る前に、ガルナも俺も次の行動に移ってる。
ガルナは地面から大きく飛び立ち、滑空しながらスルベロを迂回する軌道へと。
その間に俺は呪文の詠唱を始めている。
ガルナのブレスが渦を巻きながらスルベロの身体に吸い込まれていく。
「無駄なことを――!」
「お姉ちゃん!」
リコリスの嘲りの言葉を遮って、リコリナが警告の声を上げた。
ガルナの狙いがスルベロではなく自分たちであることに気づいたのだ。
リコリスとリコリナの対応はそれぞれ違った。
リコリスはレイピアを提げたままスルベロの背後に回り込むように動く。
リコリナはその場で剣を構え――ガルナへと一閃。
リコリナの剣撃は、はるか間合いの外だった。
迫る火竜に焦っての空振りか?
いや、違う。
空中から迫るガルナの額から鮮血が噴き出した。
『グゥ!?』
ガルナの飛行軌道が斜めに逸れた。
ガルナの巨体は小柄なリコリナの脇をかすめて再び宙へ。
ガルナのダメージが心配だが、今は声をかけてる余裕がない。
俺の詠唱が完成する。
使うはもちろん、
「デシケートアロー!」
炎を吸収しきったばかりのスルベロに、俺の放った極乾燥の矢が命中する。
『ギオオオオッ!?』
スルベロの身体に生えたいくつかの口から苦鳴が漏れた。
あらゆる属性魔法は自分には無効だ――そう信じるスルベロにとっては完全なる不意打ちだったんだろう。
「デシケートアロー」の威力は、俺のマイナス属性値を反転した数値で決まっている。
しかも、相手の水の属性値が高ければ高いほど、与えるダメージが大きくなる。
スルベロの水の属性値は最大値の+9。
属性的な相性という意味で、これほど恵まれた組み合わせはない。
ただし、スルベロには一般的には上限とされる99もの
対して俺の
「ダメージは……?」
俺は「看破」をスルベロにかける。
スルベロのHPは――14329/14500か。
「デシケートアロー」一発で171。
普通ならかなりのダメージなんだが、スルベロは元々のHPが高すぎる。
俺の最大HPなんて35だぞ。
計算するまでもなく、スルベロの攻撃がちょっとかすっただけで俺は死ぬ。
だが、俺にはあれがある。
「デシケートアロー!」
もちろん、「詠唱加速」だ。
「詠唱加速」の最大の弱点は、最初の一撃には普通に魔法を唱えるのと同じだけの詠唱時間が必要なことだ。
その弱点は、ガルナが炎のブレスでカバーしてくれた。
ブレスに対するスルベロの反応が鈍かったのも、詠唱が間に合った一因だろう。
属性攻撃が無効化できて当たり前のスルベロは、ブレスを前にしても避けるそぶりを見せなかった。俺の「デシケートアロー」も避けることは可能だったはずだが、結局避けずに受け止めた。
結果、俺の初撃を避ける機会を逸したのだ。
手痛い一撃からスルベロが立ち直らないうちに、二発目の「デシケートアロー」が命中する。
『ギイイイイッ!?』
これは――行けるか?
俺は三発目の「デシケートアロー」の詠唱を開始する。
ちらりと横目で確認すると、ガルナは宙を旋回し、リコリナに警戒の目を向けていた。
さっきリコリナが使ったのが、リコリナのギフト「遠隔斬撃」なんだろう。
自分の放った斬撃を離れた地点で発生させる――そんな能力に見えるよな。
ガルナは、リコリナとの距離を詰めたり、離れたりしながら、慎重に間合いを測っている。
さっきの攻撃で額から出血してるが、あれはどうやら俺が火山でつけた傷が開いてしまったものらしい。
もっとも、それを狙ってのことなら、リコリナの技倆は侮れない。空中から迫るガルナの傷跡を正確に狙ったことになるからな。
一見、攻撃を受けたガルナがリコリナを警戒してるように見えるが、焦れが見えるのはリコリナの方だ。
近づいては遠ざかるガルナに対し、ぴくりと剣先を動かしては戻すという動作を繰り返してる。
……なるほど。ガルナの意図はわかるな。
いくら自分から離れた地点で発生させられると言っても、無限に遠くまで届くわけじゃないだろうからな。
付かず離れずで攻撃を誘ってギフトの間合いを見極めようとしてるんだろう。
「遠隔斬撃」は、俺がゴブリンキングから獲得したエクストラスキル「覇王斬」と少し似ているな。
どちらも、剣を振ることで離れた場所を攻撃できる。
もっとも、「覇王斬」の場合は、ダメージのない余波を伴う強力な斬撃というのが本来の姿だ。
ゴブリンキングは余波で吹き飛ばすことを目当てに乱発してたが、この余波にはダメージを与える効果がない。
また、余波の発生までには、最初の斬撃を放ってから一瞬のタイムラグがあった。
だから対応することもできたんだが、「遠隔斬撃」にはそれがない。
見た限りほとんど即発で、もちろんダメージも与えられる。
シンプルながら使いやすく、強力な攻撃系ギフトに見えるよな。
つかず離れずのガルナに攻撃できないところを見ると、やはりなんらかの制約があるんだろう。
狙いを正確につける必要があるとか、距離に一定の制限があるとかだな。
ガルナは距離を調整しながらリコリナの微細な反応を観察してる。
リコリナもリコリスも相当に戦い慣れた気配があるが、ガルナも決して負けてない。
モンスターと認識してる相手から予想外の駆け引きを強いられ、リコリナは焦れているようだ。
やはり、ドラゴンの知性は相当に高い。
対して、俺の担当であるスルベロは、あまり知性が高いようには見えないな。
「デシケートアロー! デシケートアロー! ……」
『ギイイイ! ギイイイイッ!』
連射速度の上がりだしたデシケートアローを受けながら、スルベロは苛立たしげな声を上げるのみ。
このままなら押し切れるか――?
そう思い始めたところで、俺は異変に気がついた。
異変と言っても小さな異変だ。
スルベロが徐々に大きくなっている――?
いや、違う!
スルベロは俺の魔法の連打を受けながら、こちらとの距離を詰めようとしていた。
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