82 決戦準備

「ひょっとして……あれが出口なのか?」


 どんどん暗くなっていく迷いの森を進み続けること、半日近くかかっただろうか。

 これまでの汎用十字分岐パーツと異なり、今俺とレミィがいるのは↓から↑への真っ直ぐな通路。

 しかも、その通路の真ん中にはキャンプ地があり、通路の先からはいつもの闇ではなく淡い光が漏れている。


 俺とレミィはキャンプ地にいったん腰を落ち着ける。

 そして俺は、ここまでの道中で獲得したものについて思いを馳せる。


 まずはスキル。


 属性値の下限突破によって得た「魔法反転」。

 マイナスドロップアイテムを片っ端から持ち物リストに突っ込むことによって得た(と思われる)「悪運」。


 ドロップ率が上がる「悪運」は有用なスキルだが、戦闘面でのメリットはない。

 むしろ「悪運」によって入手可能になるグレードの高いドロップアイテムこそが本命だろう。


 「魔法反転」は、文句なしに強力なスキルだ。

 「デシケートアロー」に使用すれば、マイナスの属性値をプラスに換算したのと同等の威力で「ストリームアロー」が放てるからな。


 ただし、今のところ他の水属性魔法をオリジナル逆転魔法として登録することはできていない。

 手持ちの他の魔法にも「魔法反転」を使ってはみたんだが、「デシケートアロー」のような有用な逆転現象は起こらなかった。

 「ファイアボール」を「魔法反転」しても、燃え盛る炎を「消す」ための不可視の玉を放つ魔法にしかならなかったり、な。

 もちろん、火属性の塊のようなモンスター――ゼルバニア火山にいたフレイムリザードなんかに使えばダメージを与えられるのかもしれないが。


 現在俺が使いうる魔法の中で最大の威力を誇るのは、依然として「魔法反転」「デシケートアロー」のままである。

 マイナス23の水の属性値が反転し、属性値プラス23相当の「ストリームアロー」が放てるのだから、これ以上強い魔法を探すのは簡単じゃない。

 それの何が問題かと言うと、


「水に弱いモンスターが相手なら有効なんだろうけどな……」


 今、この森は異常発生した霧に覆われてる。

 その霧の正体は、レミィによれば水の精霊らしい。

 この環境で生まれてくるモンスターが水属性に弱いとは考えにくいんだよな。


 まあ、俺の場合、水の属性値を下げる副次的な効果で、火の属性値が上限の+9に達してる。俺が普通に使用する火属性魔法も、世間的には相当な威力と言っていいはずだ。


「いや、そうじゃないか。敵の水の属性値が高い場合には、反転しない『デシケートアロー』が特効だな。下手に火属性の攻撃魔法を使うより効果的なはずだ」


 水の属性値が低い相手には「魔法反転」「デシケートアロー」。水の属性値が高い相手には素のままの「デシケートアロー」を使えばいい。


 穴となるのは、水の属性値が高くも低くもなく、かつ魔法防御MNDが高い相手くらいだろうか。

 MNDが高く、火と水以外の属性が弱点となるようなモンスターはそれなりにいる。アクアエメレントの風属性版であるウィンドエレメントなんかがそうだ。この辺りには出現しないはずだけどな。


 火、水以外の攻撃魔法としては、詠唱時間が長めで扱いづらい「爆裂魔法」と、それに輪をかけて扱いづらい「逸失魔術」があるにはある。

 ただ、どちらも修練が圧倒的に足りてない。

 「爆裂魔法」を使うくらいなら「爆裂石」を投げたほうが手っ取り早い。

 「逸失魔術」は、単純な魔力の刃を生むだけの初歩的な魔法であっても、成功率が二割を切る。


 風属性や土属性の魔法を覚えてくれればよかったんだが、探索してるこの森が圧倒的に「水」のフィールドなせいか、他の属性の魔法を覚える気配がない。

 まあ、全属性を網羅してる魔術師なんて、大陸全体を探しても数えるほどしかいないらしいからな。まだ駆け出し冒険者にすぎない身で多くを望みすぎというのは間違いない。


 LCKをマイナスにすることで得られるドロップアイテムには、少しだけだが期待が持てる。


 その筆頭は、単独での錬金合成が可能だったモンスター召喚チケットだな。

 ランクCのチケットを10枚錬金することでランクBに、ランクBを10枚錬金することでランクAのチケットになった。

 Aの上にSがある可能性もあるが、残念ながらランクAのチケットを入手した時に新たなレシピを閃くことはなかった。


 ランクAのモンスターというのがどういうものかは知らないが、それなりに当てにしてもいいだろう。


 その他にも謎アイテムのドロップは続いている。

 「鑑定」と「中級錬金術」を駆使して選別をかけ、持ち物リストになんとか空きを作って、新たなアイテムを押し込んだ。

 取捨選別には苦労したんが、それをつらつら語ってもしかたがないか。アイテムの説明は実際に使う時にさせてもらおう。使わないで済むならそれでいいしな。


 もっと時間に余裕があったら、マイナスドロップを目的に森をうろつくのもありだった。

 でも、こうしてるあいだにネルフェリアがどうなってるかわからないしな。

 「本来のドロップアイテム以外の・・・アイテムを落とす」マイナスドロップの弱点は、特定のアイテムを狙うことができないことだ。

 何かいいアイテムが落ちないかな、と虫のいい期待をしながら、役に立たないアイテムを大量に引き続けるのはさすがにつらい。

 何かのついでにマイナスドロップにも期待する、くらいならともかく、マイナスドロップを主目的にモンスターを狩り続けるのはどうかと思う。


 あとは……既存のスキルの成長か。


 だが、そここそ最も変化がないんだよな。

 「初級剣技」はいまだに初級のままで成長はなし。

 他のスキルにも変化はない。

 ……まあ、そもそもスキルというのは一朝一夕で成長するようなものじゃないからな。


 本当は、剣技も鍛えたいところだった。

 俺は「宿業の腕輪」を二つ装備することでSTRを人間の限界値とされる99にすることができるからな。

 剣技が中級に達していれば、この高STRを活かして近接戦主体で戦うスタイルもありだろう。


 でも、まだ初級だからな。

 剣の振り方も知らない獣型のモンスターが相手ならともかく、ゴブリンやコボルトのような亜人型のモンスターの中には武術系スキルの持ち主もいる。

 ――もちろん、戦う相手が人間であればなおさらだ。


「正直、これだけじゃ不安が残るな」


 と、つぶやく俺に、


「マスターは一体何を心配されてるんですぅ? この先に何がいるかなんてわかりようがないじゃないですかぁ」


 レミィが首を傾げて言ってくる。


「たしかにそうなんだけど、こうなったらマズいという想定はある」


「ええ? そ、そんなのがあったんですかぁ?」


 そういえば、レミィにも全然説明してなかったな。

 この奥に踏み込む前に、頭の整理を兼ねて話しておくか。

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