81 チケット増殖錬金

 スキル「鑑定」は有名だ。


 アイテムの詳細を調べることができるスキルとして、冒険者はもちろん、商人などにも重宝される。


 その習得条件は不明だが、たくさんのアイテムに触れ、親しむことで覚えると言われてるな。


 おそらく、負の確率によるランダムドロップで多くの種類のアイテムを手に入れたことが習得のきっかけになったんだろう。

 多くの種類のアイテムを手に入れることそれ自体が条件だったのかもしれないし、そういうアイテムを一度持ち物リストに入れることが条件だったのかもしれない。

 秘匿された実績とは違って、一般的なスキルの習得時には条件までは明かされないんだよな。

 なんとなくだが、「100種類のアイテムをアイテムボックスに収納する」みたいな条件だったんじゃないかと思う。これまでに拾ったアイテムの個数をざっと考えると、キリのいい100当たりが条件だったと見るのが自然なのだ。


 でも、もしこの条件が正解なら、商人たちの一部は条件を特定してそうな気もするよな。

 もちろん、「鑑定」の習得条件を知ったからと言って、それを馬鹿正直に公開する必要はない。

 むしろ、一家の秘伝として後継者のみに伝えていく、なんてことをやりそうだ。

 大きな商家だったら、商会で扱うアイテムだけで100種は容易に超えるだろう。跡取りにだけ先んじて多種のアイテムをアイテムボックスに収納させれば、幼少期から「鑑定」スキルを習得させられることになる。幼少期に「鑑定」があれば、丁稚奉公の段階から重宝されるに違いない。「鑑定」によって様々なアイテムの効果を知ることは、適切な値付けにも欠かせない。そうして幼少期からアイテムと「鑑定」漬けで育った跡取りが、やがて大商会の頭取になるというわけだ。


 ズルいっちゃズルいが、こんなのはどこの業界でもあることだからな。

 一家相伝で伝わる特殊なスキルの習得法を活かして代々実入りのいい職業にありついてる家系ってのは、大小問わずたくさんある。

 当然、囲い込まれたスキルの習得法の知識によって経済的な格差が生まれることも多く、平民の中での階層固定も人々の不平不満を生む大きな要因だ。

 いや、平民だけじゃないな。貴族でも、代々騎士を輩出してきた名門の武家なんかは、おそらく戦いに有利ななんらかのスキルの条件を隠してる。魔術師や治癒術師、医者なんかも同様だし、新生協会の神官や神官兵も同じだろう。

 このような囲い込まれたスキルの問題があるために、人々の身分が固定化され、優秀な人が適正に合った仕事に就けなかったり、無能な奴が能力不相応な職に就いてたりするわけだ。


 人間を助けるために神様が与えてくれたと言われるスキルやギフトが、階級の分断や貧富の格差の固定化を招いてしまってるのは大いなる皮肉だ。


 おっと、話が逸れてしまったな。


 「鑑定」を手に入れたことで、謎のドロップアイテムもその場で効果を調べられるようになった。

 持ち物リストの枠が逼迫してる現状、アイテムをその場で吟味できるのは有り難い。


 俺はマイナスLCKドロップアイテムを回収しながら迷いの森を奥へと進む。

 正確には、何回か進路を間違えてから手探りでルートを特定して先へ進む、という感じだ。生きつ戻りつを繰り返しながら、迷いの森との四択勝負に勝てるまでアタックを繰り返すという、達成感よりも徒労感の多い作業の繰り返しだな。

 それだけならどこかで嫌気が差したに違いないが、マイナスドロップと「鑑定」のおかげで、作業が単調にならずに済んでいた。


「何? 『魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット』……?」


 切手以上、ハガキ未満という大きさの紙切れだ。

 ドロップアイテムというよりはポケットからこぼれた紙ゴミといった感じだったが、持ち物リストに収納してみるとたしかにアイテムのようだった。


「魔獣闘技場ってなんだよ?」


「魔獣を戦わせる闘技場なんじゃないですかぁ?」


 と、レミィがそのまんまのことを言ってくる。


「いや、そりゃそうだろうけどさ」


 きっと、大陸のどこかにそのような闘技場があり、その闘技場で使用されているアイテムのひとつが、この「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」なのだろう。

 そのどこで流通してるともしれないチケットが、マイナスLCKによる「青玉」として無数のアイテムの中から選ばれドロップした、ということだ。

 チケットをひっくり返してみるが、闘技場の所在地や主催者などを記した情報はない。

 ギルドに依頼して「魔獣闘技場」について調べてもらえば、何かしら情報が出てくるかもしれないが、当然こんな森の中ではどうしようもない。


 「鑑定」してみよう。



Item―――――

魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット

魔獣闘技場で用いられるモンスター召喚用チケット。使用すると召喚したモンスターを使役することができる。

―――――――

 


「まあ、名前のまんまだな」


 それでもわかることはある。


「魔獣闘技場とやらではチケットでモンスターを呼び出して戦わせるらしいな。競技者がモンスターを召喚するのかもしれないし、運営側の係員がモンスターを召喚して競技者にけしかけるのかもしれない」


「呼び出したモンスター同士で戦わせるっていうのはどうですぅ? 『魔獣』闘技場なわけですしー」


「たしかに、その可能性もあるか。従えた魔獣同士を戦わせて優劣を決めるわけだ。テイミング系のスキルを持った魔物使いや召喚系スキルを持った召喚師がその腕を競う場ってことかな。たぶん、それを賭博の材料にもしてるんだろうが」


 賭博によって発生した収益によって、魔獣闘技場というかなりコストのかかりそうな施設の運営費を賄っているんだろう。


 俺がチケットを裏返しながら見ていると、脳裏に閃くものがあった。


 チン!


 「中級錬金術」のレシピ閃きだな。



《魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット×10→魔獣闘技場:ランクBモンスター召喚チケット》



「これって……ひょっとして、おもしろいことになるんじゃないか?」


 俺のギフトは、言わずとしれた「下限突破」だ。

 俺の現在の持ち物リストの「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」の所持個数は0(取り出しているから)。

 しかし、俺はここからさらに「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」を取り出すことができる。

 俺は「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」の個数を-9個にして、10個の「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」を取り出した。


 以前、領都クルゼオンでシャノンにポーションを教えてもらった時のことを思い出してほしい。

 あのとき俺は、マイナス個数の素材アイテムから、プラス個数の錬金アイテムを作り出すことができた。


 今回も同じことができるとしたら――


 俺の手の上に積み重なった「魔獣闘技場:ランクCモンスター召喚チケット」10枚は、錬金術特有の金色の光に包まれたかと思うと、1枚の別のチケットに変化していた。


 そのチケットの名前は、「魔獣闘技場:ランクBモンスター召喚チケット」だ。


 と、ここで、俺の脳裏に二度目の閃きが走る。


 またしても「中級錬金術」のレシピ閃きだ。



《魔獣闘技場:ランクBモンスター召喚チケット×10→魔獣闘技場:ランクAモンスター召喚チケット》



「おいおい、こいつはすごいぞ……!」


 俺は昂ぶる気持ちを抑えながら、持ち物リストから「魔獣闘技場:ランクBモンスター召喚チケット」10枚を取り出した――

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