79 マイナスドロップ

 その後も不可解なドロップは続く。


 「火打ち石」、「丹砂」、「弱毒草」なんかはまだ用途がわかるほう。

 「割れた古銭」、「黒い液体」、「導線(赤)」などに至っては、用途を想像することすら難しい。

 俺の知識にあったのは、食べるとINTが一時的に下がる「ぼんやり草」くらいだ。


 それにしても、どれもこれもアクアエレメントからはドロップしそうにないものばかりなんだよな。


「どうなってるんだ?」


 俺のLCKがマイナスであることと何か関係があるんだろうか?


 アカリとギルドから手に入れたルート情報は既に尽き、俺は情報のない領域へと足を踏み入れている。


 といっても、風景はほとんど変わらない。

 例の迷いの森汎用パーツが延々と繰り返されてるだけだ。

 変化といえば、奥に進むにつれて森が徐々に薄暗く、湿っぽくなってきたくらいだろうか。


 ルート情報はないが、「下限突破」のおかげで運が悪くても四回ルートを選び直せば次のポイントまでたどり着くことができる。


 アクアエレメントを倒すのもこなれてきた。

 二体までなら「デシケートアロー」で、三体以上なら「デシケートアロー」+近接攻撃でカタがつく。

 どうしても危なければ爆裂石を投げてもいい。できれば魔法と剣を中心に「経験」を積んでおきたいところなんだけどな。


 戦闘に特筆すべきことがないので、俺の意識はどうしても不可解なドロップアイテムに囚われる。



《秘匿された実績「ラプラスの悪魔」を達成しました。》


《秘匿された実績「ラプラスの悪魔」:0.1%以下の確率の事象を20回連続で発生させる。》


《秘匿された実績「ラプラスの悪魔」達成によるボーナス報酬は以下の1つです。》


《スキル「悪運」》



「お?」


 いつもながら不意に流れてきた「天の声」に、俺は慌ててステータスを開く。



Skill―――――

悪運

モンスターを倒した時にアイテムがドロップする確率が上がるが、強敵と遭遇しやすくなる。低確率でドロップアイテムのグレードがそのモンスター本来のグレードより1~3段階上がることがある。

―――――――



「グレード?」


 またしても知らない概念が出てきたな。


 だが、文脈からなんとなく意味の推測はつく。


「いわゆる『ドロップアイテムのレア度』のことか?」


 戦闘後にドロップアイテムが得られる確率の概算式として有名なのは、「LCK/100×モンスターのレベル×ドロップアイテムのレア度」だ。

 実用上は便利な式なんだが、この式に対しては根強い批判も存在する。

 式に含まれる変数のうち、LCKとモンスターのレベルはステータスを見れば確かめられる。

 だが、最後の「ドロップアイテムのレア度」はそうではない。

 あるアイテムが落ちやすかったり落ちにくかったりした時に「レア度が低い/高いからだ」で片付けてしまうと、結局それは「ドロップ率が高い/低いからだ」と言うのと変わらないではないか……という批判だな。

 一見もっともらしく計算してるようではあるが、ドロップ率をレア度という別の言葉に置き換えてお茶を濁してるだけと言えなくもない。


 しかしもちろん、日々モンスターを倒してドロップを狙う冒険者からすれば、この批判はいささか抽象的すぎて、議論のための議論という印象を受ける。

 経験的には、貴重なアイテムほどドロップしにくいのは明らかなわけだからな。

 この概算式は、同じアイテムのドロップを狙うなら、よりLCKの高い冒険者が、よりレベルの高いモンスターを倒すべきだ、という重要な示唆を与えてくれる。

 レア度という確認しようのない項目が含まれるからといって、式そのものの価値が否定されるわけではないということだ。


 この概算式の妥当性を考える上で、「悪運」のスキル説明文に書かれた内容は見過ごせない。


 説明文から推測できることはいくつもある。


 この世界にはドロップアイテムの「グレード」なる概念が存在し、そのグレードに基づいてドロップアイテムが決定されるらしいということ。

 そのグレードは、おそらくモンスターの強さと関係しているということ。


 さらに想像を膨らませるなら、アイテムがドロップする確率にも、このグレードなる概念が関連してる可能性は高いだろう。

 アクアエレメントはグレードの低い「したたる実」を落としやすく、グレードの高い「水の結晶」は落としづらい。

 同じモンスターにグレードの異なる複数のドロップアイテムが設定されてる場合には、グレードに応じてドロップ率に差がつくということだ。


 しかるべき場所で発表すれば、大発見と言われるかもしれないな。


「いや、それも大事だが、その前の『天の声』も気になるな」


 秘匿された実績「ラプラスの悪魔」:0.1%以下の確率の事象を20回連続で発生させる。

 俺はいつのまにか、ごく低確率の事象を連続発生させていたらしい。

 じゃあ、その「ごく低確率の事象」とは何か?


「迷いの森の一発突破……じゃないな。何度かハズレルートを引いてるし」


 そもそも一回のルート選択で当たりを引く確率は四分の一だから、0.1%以下という条件を満たさない。


「となると、やっぱりドロップアイテムか」


 俺のLCKがマイナスなせいで、概算式による予想ドロップ率は負のあたいを取ってるはずだ。

 ドロップ率がマイナスなら、0.1%以下という条件を満たす。


 ただ、


「……確率ってのは、普通0から1のあいだの値を取るもんじゃないのか?」


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