75 魔法反転検証
「整理してみるか」
・属性値-21でストリームアローを撃つ→デシケートアローになる
・属性値-21でデシケートアローを撃つ→デシケートアローになる
・「魔法反転」+属性値-21でデシケートアローを撃つ→
「魔法反転」+属性値-21でストリームアローを撃つ、という条件も試してみたが、上の3つ目と同じ結果にしかならなかった。
「むむむ……ややこしいですねぇ~」
とレミィは考え込むが、実はそんなに複雑な話でもない。
要するに、
「マイナス属性値で逆転させた魔法を『魔法反転』で再逆転させることで、元の魔法に戻せるってことだな」
「あ、ああ~! そうなりますね! さすがはマスターですぅ!」
顔をぱっと輝かせてよいしょしてくるレミィ。
「でも、それがどうして大事なんですかぁ?」
「属性値がマイナスだと、魔法が自動的に裏返って、効果が逆になってしまうだろ。裏返った結果としてデシケートアローみたいな強力な魔法になることもあるが、裏返さずに普通に魔法を使いたいこともある。そんな時に、『魔法反転』を併用すれば、通常版の魔法も問題なく扱えるってことだよな」
それこそクリエイトウォーターなんかなら、逆転せず普通に水が出てくれた方が、大抵の場合は嬉しいはずだ。
「なるほどですぅ~」
だが、「魔法反転」の本当のヤバさはそこじゃない。
「しかも、だ。この逆転してから反転し直した魔法は、結果的にマイナス属性値をプラスに読み替えたのと同じ威力を持つ」
「えっ、読み替える……?」
「反転する前の魔法の威力は、俺のマイナス属性値で決まるだろ? その後、『魔法反転』するわけだが、その時に属性値を確かめ直すことはしてないらしい。おそらく、『魔法反転』ってのは、機械的に元の魔法を『裏返す』スキルなんだろうな。そして、その副次的な効果として――俺の属性値のマイナスを、その魔法に限って裏返す」
正確には、裏返したのと同等の威力になる、だけどな。
属性値-21のデシケートアローを「魔法反転」すると、元となるデシケートアローと同程度の威力のストリームアローが発動する。
言い換えれば、属性値
プラスとマイナスの違いがあるだけで、どちらのデシケートアロー/ストリームアローも±21分の威力があるわけだな。
「ええっ! ってことは、ひょっとしてですけどぉ……」
「ああ。属性値を下限以下まで下げた状態で『魔法反転』を使えば、結果的に上限以上の属性値で魔法を使うのと同じことになるってわけだ」
シオンの「上限突破」なら、同じことがもっと簡単にできるだろう。
属性値を+9という上限を突破してさらに上げればいいだけだからな。
ただし、シオンには真似できないこともある。
下限以下のマイナス属性値を利用した、魔法の逆転現象だ。
デシケートアローは強力だが、通常の魔法が全部逆転するのは、正直不便も多いと思ってたんだよな。
たとえば、さっきも例に出したクリエイトウォーター。
この魔法が逆転するようになってしまったことで、俺は途中から水筒を多めに持ち歩くことになってしまった。
それくらいたいしたことじゃないと思うかもしれないが、冒険者にとって荷物の重さは探索のパフォーマンスにかかわる重大問題だ。
今回「魔法反転」を手に入れたことで、そうした諸々の不便が解消できるのも地味にありがたい。
この方法なら、属性値がマイナスでも魔法を普通にも使えるってことだからな。
しかも、マイナス属性値→「魔法反転」は、単に元の魔法に戻すだけじゃない。
二回の変換過程を通して、マイナス属性値を事実上プラスに変換したような副次的な効果を発揮する。
理屈としてはややこしいが、起きる現象はシンプルだ。
こと攻撃魔法に関しては、とにかく属性値をひたすら下げておけば、「魔法反転」後の魔法の威力が天井知らずに上がっていく、ということだからな。
「上限突破」のない俺には属性値は+9までしか上げられないが、マイナスの方になら「下限突破」で(おそらくは)無限に下げられる。
「そ、それってめちゃくちゃすごいじゃないですかぁ!」
「切り札にはなりそうだよな。ただ、もちろん弱点もある」
「弱点、ですかぁ?」
「属性値は、攻撃魔法の威力を決めるだけじゃない。敵の攻撃魔法を受けた時のダメージの大きさにもかかわってくる。当然、属性値が低ければ低いほどダメージが増える。冒険者のあいだで言われる『弱点属性』ってのはこれのことなんだろうな」
その意味では、今の俺の最大の弱点は、水属性の攻撃だ。
攻撃と同じく防御においても、属性値が±1するごとに、ダメージは±10%変化する。
俺の水の属性値は-21だから、水属性攻撃への耐性は-210%。
敵から水属性の攻撃を受けると、通常の3倍以上のダメージを受けるってことだ。
いくら「下限突破」マイナス属性値×「魔法反転」が強くとも、これではやるかやられるかになってしまう。
うまく相手の攻撃属性とずらして別の属性値を下げることができればいいのだが、属性値はそうすぐに上げ下げできるものじゃないからな。
「黄泉返り」「不屈」とのコンボで即死さえしなければいい状況なら、開き直ってもっと突っ張った属性値にする手もあるだろう。
だが、
この状況で水の属性値をあまり下げるのは考えものだ。
「それでももう少し欲張っておくか」
現在の水の属性値-21では物足りない。
-30に到達すれば、二重に反転してもとに戻った魔法の威力は+300%――元の威力の4倍だ。
そのくらいになれば、「詠唱加速」を使うまでもなく押し切れる場面が増えるだろう。
最高速まで加速し切る前に、魔法をかわされてしまうおそれがあるからな。
あの魔族のロドゥイエだって、装備を過信してなければそれくらいのことはできたはずだ。
俺とレミィは、その後も霧を払いながら森を奥へと進んでいく。
途中湧いてくるモンスターは片付けた。
遠ければデシケートアローで、近ければ「宿業の腕輪」を両腕にはめて剣の一撃で。
エクスキューショナーソードは重すぎるので出番はなく、いつもの愛用ロングソード(魔紋刻印で「切断」を付与済み)で、剣技の修練を兼ねて戦った。
が、スキル習得やレベルアップはまだなし。
霧のせいで時間がわかりづらいが、半日近くは進んだだろうか。
ある境を越えたところから、森の空気感が急に変わった。
「……迷いの森、か」
通り抜けた者はいないという難攻不落の迷路のような森が、俺たちの前に現れていた。
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