74 魔法反転
俺は慌ててステータスから新たに習得したスキルの説明文を開いてみる。
Skill―――――
魔法反転
魔法の効果を反転させることができる。ただし、消費MPは元となる魔法の2-5倍。魔法によっては、効果が反転することにより魔法自体が不発となることがある。
―――――――
「えーっと。要するに、今俺がマイナス属性値でやったのと同じことがスキルでできるってことか?」
もしそうだとすると微妙だよな。
せっかく「下限突破」を使って俺にしか使えない強力魔法を手に入れたと思ったのに、他の奴でも入手可能かもしれないと思うとがっかりだ。
「……いや、待てよ?」
俺が編み出したデシケートアローは、元をたどればストリームアローの逆転だ。
だが、デシケートアローは、既に「天の声」によって魔法として登録されている。
となると、正式に魔法と認定されたこのデシケートアローに対して、さらにスキル「魔法反転」を使用することができるなじゃないか?
「まあ、その前に普通の魔法で試してみるべきだろうな」
俺はまず、「魔法反転」なしで
「ストリームアロー!」
を放つ。
異常に低い属性値で反転したストリームアローは、対象から水分を奪う魔力の塊となって飛翔し、立ち木に命中。
衝撃はほとんどなかったらしく、木は揺れない。
ネルフェリアの名産品でもある、建材として優秀な大森林の樹木だからな。
が、ほどなくして、木に異常が現れた。
マイナス属性値ストリームアローが命中したあたりから急激に木がボロボロになり始め、ほどなくして命中点を支点に木が折れる。
霧が漂ってるせいで埃は舞わなかったが、近隣の木の上から驚いた鳥たちが飛び立つ羽音がした。
「まあ、これはいつもどおりだな」
俺は今度はデシケートアローを使ってみる。
逆転ストリームアローの場合は、水の精霊に抵抗される感触があるのだが、デシケートアローはスムーズだ。
とはいえ、結果は逆転させたストリームアローと同じだな。
というか、俺がこの逆転版ストリームアローをデシケートアローと名付けたんだから、この二つは基本的には同じものなのだ。
「じゃ、いよいよ本命だな。『魔法反転』――【デシケートアロー】!」
一瞬、さっきと同じデシケートアローが発生しかけたが、そのプロセスが途中で止まる。
逆に今度は、純正のストリームアローのように周囲から水が集まってくる。
が、その水の量がしゃれにならないくらい多い。
通常のストリームアローは、名前の通り矢くらいの大きさだ。
熟練の高INT魔術師なら槍くらいになったりするというが、それくらいが限度なんだろう。
だが、今俺の手のひらの先には、ほとんど「柱」と呼ぶしかないくらいの巨大な水柱が生まれていた。
丸太くらいの大きさになった水柱は、その先端を円錐状に尖らせる。
「ちょちょちょ、なんかすっごいことになってますよぉ~!?」
レミィの言葉に反応する余裕がない。
集まった魔力が多すぎて、抑えておくので精一杯なのだ。
俺は森の木に向かって、小さめの破城槌のようになった水柱を解き放つ。
ごおっ、と空気を突き破る音。
水柱は見たこともない速さで宙を飛び、標的とした木の幹を粉微塵に砕いた!――のみならず、その奥にある木立をも次々にいくつも粉砕していく。
水柱が力を失い消えたのは、優に30メテルは森を穿ってからのことだった。
「…………」
「…………」
あまりの結果に、思わず言葉を失う俺とレミィ。
「ええっと……普通にマイナス21の属性値でストリームアローを使うと、効果が逆転してデシケートアローになる。デシケートアローは属性値がマイナス前提の魔法だから、俺の極端なマイナス属性値でも効果が逆転することはなかった。そのデシケートアローに『魔法反転』を使うと、効果が反転して普通のストリームアローに戻った。そこまではいいけど、それがどうしてこんな威力に……」
「マスター、属性値のことを忘れてませんかぁ? 反転させたデシケートアローは、マスターの水の属性値-21で威力が決まってるはずですぅ」
「じゃあまさか、『魔法反転』で効果が再逆転しても、元となったデシケートアローの威力は引き継がれる、と?」
「たぶんですけど、デシケートアローと『魔法反転』の効果が確定する順番の問題なんじゃないですかぁ?」
「ああ、そうか。『魔法反転』と併用する場合でも、『魔法反転』が効力を持つ前に、デシケートアローの術式構築は既に完了してるんだな。で、その完了した術式に対し、『魔法反転』が作用する。だから、最終的に発動する反転魔法は、俺の属性値を改めて参照し直すわけじゃない」
もし最後の最後でストリームアローとなった【デシケートアロー】が属性値を再チェックしていたら、属性値-21相当のストリームアロー――つまり、ただのデシケートアローが発動したはずだ。
その場合、「デシケートアローを反転させたのに結局デシケートアローにしかならないじゃないか、訴訟!」みたいな事態になりそうだな。
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