50 擬人化されたヒント

「もうわかったですかぁ? さすがはマスターですぅ」


 と、レミィが言ってくれるが、


「……そのセリフも俺にやる気を出させるためのものなのか?」


「いえいえ、とんでもないですぅ~。レミィちゃんは嘘をつきませんからぁ。ああ、あたしのマスターってばすごいなぁ! さすがだなぁ~!」


「そこまで言われるとかえって嘘くさいだろ」


 と苦笑する。

 まあ、素直に褒めてくれたんだと思うけどな。


 さっきレミィはこう言った。


『妖精は、理屈で考えられない種族なんですぅ。だから、理屈っぽいことは、別の形に置き換えて後世に伝えてるんですぅ~』


 と。


 その言葉を俺の理解に沿って言い換えるなら、

 

「妖精は理屈で考えるのが苦手だ。それでも、後世に伝えておきたいことはある。だから、理屈っぽい話を、擬人化した喩え話に置き換えてる……んじゃないか?」


「さすがはマスター! ゲンゴカって言うんですかぁ、あたしがうまく言えないところをちゃんと汲み取ってくれるですぅ!」


「いや、そういうのはいいからさ」


 ちょっと気恥ずかしくなって言う俺に、


「レミィも同じ考えですぅ。精霊さんがほんとにいるかいないかはわかりません~。妖精にとっても、信じる、信じないの話ですからぁ。でも、いると信じることで魔法が使えたり使えなかったりするのなら、言い伝えはまちがってないとも言えるですよぉ~。きっと、精霊を信じるという形で、魔法の大事な部分を知らないうちにうまく誤魔化せちゃうんだと思うんですよぉ」


「人間も、剣を習う時なんかには喩え話を使うことはあるよ。手の内に生卵を持つようにふんわり握れ、だとか」


 教える側の性格によっては、「もっとスパッとやってババッと戻すんだ!」みたいな教え方もあったりする。

 言葉だけ聞くと意味不明だが、身振り手振りを交えて実演されると、下手な説明よりかえってわかりやすいこともある。


 身体の動かし方みたいな、一度できるようになったら無意識にできるが、言葉で説明しようとすると難しいことってあるよな。

 そういうことをまだできない人に伝えようとすれば、そんな説明の仕方しかないこともある。


 その前提に立ってレミィの話を「言語化」するなら、

 

「妖精に伝わる精霊の話は、魔法におけるなんらかの未知の要素を擬人化することで伝えようとした喩え話だという可能性がある」 


「たぶんそういうことなんだと思いますぅ~」


 とうなずくレミィ。


「なんでレミィは、水の精霊が俺を嫌がってるとわかったんだ? 精霊の姿が見えるわけじゃないんだよな?」


「なんででしょうね~? 水の魔力の集まりが悪かったのを見て、なんか嫌われてる感じだなーって思ったのかもしれません~」


「……言われてみると、たしかに発動がぎこちなかったか。弾速も遅かった感じだし」


「細かいことはわかりませんけど、全体的な印象なのかもしれないです~。発動とか、弾速とかをひとつずつ見て考えたわけじゃないですね~」


 剣の達人なんかだと、他人が剣を構えるのを見ただけで腕前が大体わかったりするらしいよな。

 個別的な分析の積み重ねではなく、あくまでも全体を見ての直感だ。

 もちろん、その直感が働くようになるまでには、細かな技術や経験の積み重ねが必要なんだとは思うが。


「……あ、マスター。ラヴァスライムのいたところにドロップアイテムがありますよ?」


「え? ああ、本当だ」


 赤黒い岩肌に馴染んで見つけづらくなってたが、赤い草が落ちてるな。


「火炎草ですね~。そういえば、精霊の宿った植物を使って、その属性の適性を調べる方法がありますよぉ~」


「なに? そんな方法が?」


「はいですぅ。やり方はすごく簡単です。それを食べちゃえばいいんですぅ~」


「食べるって……これをか?」


 拾い上げた赤い草は、赤い光を放っている上に、持ってる手が汗ばんでくるくらいの熱を持ってる。

 結晶状で、燃え盛る炎のようなトゲトゲした見た目からしても、とても食用に適するとは思えない。


 というか、本来敵に投げつけるアイテムだからな。

 火種に困った時に火を起こすのに使うこともできるが、入手難易度を考えると、火種にするのはさすがにもったいないらしい。

 錬金術師であるシャノンなら、火炎草を使ったレシピを知ってたりしそうだな。


「食べて気持ち悪くなったら適性が低くて、食べても平気だったら適性高めですぅ」


「……適性が低いと気持ち悪くなるのか」


「火炎草だと、舌がしばらく痛くなったり、全身の肌が赤くなってすごく痒くなったり、胃腸が荒れて食事を受け付けなくなったりするみたいですね~」


「結構重いな!?」


「逆に、火の精霊に愛されてる人だと、体調がよくなったり、魔力が回復したりするらしいですぅ~。ものすごく愛されてる場合には、スキルを覚えることもあるらしいですよぉ~」


「うーん……」


 そう聞くと試してみたくなるよな。


「レミィから見て、俺は火の精霊に愛されてそうか?」


「可能性はあると思いますよぉ~。これだけ水の精霊に嫌われてるなら、火の精霊には好かれてるかもですぅ~。マスターは『爆裂魔法』も使えますしぃ~」


「『爆裂魔法』か……。あの魔法の属性ってわかるか?」


「火の魔力と土の魔力を使ってますねぇ~。珍しい混合属性だと思いますぅ~」


「それなら、火の精霊に嫌われてることはなさそうか」


 ほどほど好かれてるくらいだったら、劇的な作用もないだろうが、副作用の心配もないはずだ。

 もし火の精霊に好かれてることがわかったら、俺が水の精霊に嫌われてる間接的な証拠になるかもな。


「よし、食べてみるか」


「一応、安全な場所で食べたほうが良いと思いますよぉ~? あたしが知ってるのは妖精が食べた場合ですから、人間さんが食べた時にどうなるかはわからないですぅ~」


 と、不安になるようなことを言うレミィ。


 だが、安全な場所で試すべきっていうのは確かだよな。


「じゃあ、キャンプできる場所を探すか」


 ゼルバニア火山のような広大なフィールドには、ところどころにキャンプができるポイントがある。

 ダンジョンのボス部屋前の聖域と似たような感じだな。

 フィールドの場合は、必ずしもボスのいるエリアの近くではなく、一定間隔で点在してることが多いらしい。

 

 もちろん、キャンプ地の情報はギルドで事前に仕入れてある。

 ギルドでもすべてのキャンプ地を網羅してるわけではないが、要所となるような箇所はきっちり押さえてる。


 ちなみに、ゼルバニア火山の火口にはフィールドボスがいるらしいが、今回はスルーする予定である。


 途中、三回だけモンスターと戦って、俺とレミィは最寄りのキャンプ地にたどり着く。

 荷物を下ろし、適当な岩に腰掛けてから、


「さっそく試してみるぞ」


 念のために手持ちのポーションと解毒薬を取り出して、すぐに飲めるように置いておく。

 持ち合わせのポーションや解毒薬では解除できない可能性もあるが、何もしないよりはマシだろう。


「水も用意しておいたほうがいいと思いますよぉ~」


「おっと、それもそうだな」


 俺は水筒を取り出すが、その中は空になっていた。

 クーリングヴェールをかけてもらうまでは暑さとの戦いだったからな。


 俺はクリエイトウォーターで水筒に水を補充する。

 このくらいの水属性魔法なら問題はなさそうなんだけどな……。


「食うって言ってもどうやって?」


「そこまでは聞いてませんけど……普通にポリポリやるしかないんじゃないですかぁ?」


「火炎草をお菓子みたいに言うなよ」


 言われてみれば、王都にはこんな形の砂糖菓子があったような気もするな。


 俺はおそるおそる、火炎草の葉を口に含む。


「熱っ……くはないな」


 一瞬、熱すぎるスープを含んだ時のような火傷しそうな痛みを感じたが、すぐに消えた。


 辛いのを想像してたんだが、どちらかといえば苦いだろうか。


 よく噛んで味わうと、ほどよい刺激がクセになる感じだな。


「全然平気そうですね~。やっぱり火の精霊にはずいぶん好かれてるみたいですぅ~」


 とレミィ。


「本当にそんな副作用があるもんなのか? 普通においしく食べれるんだけど」


「ちょっとぉ~、あたしを疑ってるんですかぁ?」


「悪い、そういうつもりじゃなかったんだが……」


 そのくらい俺にとっては害のない「食べ物」だったんだよな。

 お茶請けにしたらよさそうだ、と思ったが、レミィの言う通りなら、俺以外の奴に勧めるのはやめたほうがいいだろう。


 と、俺の脳裏で何かが弾けた。



Recipe―――――

火炎草✕初級ポーション=アサルトリキッド

より上位のポーションを素材にすることで効果を高めることができそうだ……

―――――――


Item―――――

アサルトリキッド

180秒間、攻撃力が10%上昇する。その間、痛みを感じづらくなる。

―――――――



 「中級錬金術」のレシピ閃きだ。

 

 かなり汎用性の高そうなアイテムだよな。

 攻撃力10%上昇は多いような少ないような感じだが、デメリットがないと考えれば使い得だ。

 

 しかも、俺には「下限突破」があるからな。

 今食べた火炎草も取り出し放題だし、一度作ってしまえばアサルトリキッドも取り出し放題になる。


 もっとも、マイナス個数の場合には他者への売却や譲渡が不可能になるという問題がある。

 大量に売却して市場を混乱させるのは避けたいが、誰かにひとつふたつ譲ることはあるかもしれない。

 戦闘中でないなら、その都度錬金してプラス個数を保ったほうがいいかもな。

 マイナス個数がかさんでしまった爆裂石は、結局ミラに返しそびれてしまったし。


 さっそく錬金してみようかと思ったんだが、その前に「天の声」が割り込んできた。



《スキル「炎熱耐性」を習得しました。》


《スキル「中級魔術」で新しい魔法が使えるようになりました。》



「おおっ?」


 普段は黙ってるくせに、たまに急に饒舌になるのが「天の声」だよな。

 そんな感想を抱くのはひょっとしたら俺だけかもしれないが。


 俺は「炎熱耐性」のスキル説明文を開いてみる。

 


Skill―――――

炎熱耐性

火属性攻撃によるダメージを軽減するとともに、熱によるダメージを受けづらくなる。

ダメージの軽減幅は、火属性の属性値を参照する。

―――――――



 名前から想像した通りの効果みたいだな。

 これといったデメリットもなく、効果は常時有効なタイプ。

 いらない時にはステータス欄の肥やしになるだけだが、このゼルバニア火山みたいなフィールドやダンジョンにいる時には重宝するスキルだろう。


 レアではあるが、名前だけなら聞いたことがある。

 一部種族の中には、幼い頃に自然に習得する者もいるらしい。

 耐性系のスキルは意識して習得するのが難しく、本人の努力よりも生まれ育った環境に左右されると聞いている。

 幼少時から体調を崩しがちだったとある王子が、ある時「毒耐性」を習得したことで、それまで毒を盛られてたことが判明した……なんて話もある。


 そんなスキルがあっさり手に入ったのはラッキーだな。


 一点だけ気になったのは、


「属性値ってのは……なんだ?」


 そんな項目、聞いたこともないんだが……。


 ――ただ、それがどんなものなのかは、名前と文脈からだけでも十分推測できそうだよな。

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